ブドウ絞り粕ブランデー

ワインを造った後のブドウ粕を蒸留したブランデー類の紹介です。

・イタリアの グラッパ (grappa)
・フランスの マール (marc)
・スペインの オルーホ (orujo)
・ポルトガルの バガッソ (bagaco)/バガセッラ (bagaceira)
・ドイツの トレスターブラント (tresterbrand)
・ユーゴスラビアの ローザ (roza)/コモヴィカ (?)
・ギリシャの チプロ (tsipouro)
・ギリシャ・レスボス島のウゾ (ouzoアニス酒)
・ギリシャ・クレタ島の ツイクディア (tsikoudia)
・南アフリカの ドップ (dop)
・チリの ピスコ (piscoチリ産下級品のみブドウ粕使用)

・世界中でワイン粕の蒸留酒が造られています。ワインを造る地域では必ず絞り粕が出るので、当然なのかもしれません。本来は民衆の為の安価な飲み物ですが、グラッパ、マールの様に高級化に成功して日本にも輸入されている物もあります。その他はオルーホ、ピスコをごく稀に見かけるくらいで、超マイナーなジャンルなのは日本の粕取り焼酎と同じです。

・ほとんどのマールと一部のグラッパを除いて、樽熟成などはせずに出荷されるため、透明で素材の風味が前にでた強めの味わいのものが多く、ほとんどが地元消費される様です。ローザなどは自家製造は珍しくない様で「我が家のローザが一番に決まってるよ!」的な感じらしいです。そういえば、スペインやポルトガルでは自家製の蒸留酒がレストランや食料品店などにも普通に置いてあるそうです。

・かつて南アフリカでは農場労働者に賃金の一部を安価なドップで支給する<ドップ・システム>なる搾取習慣が存在し、多くの労働者をアル中毒地獄へ送り込みました。1920年代に一応は禁止されたものの、多くの地方ではアパルトヘイト(人種隔離政策)が廃止される1994年まで続いていたそうです。酒という存在の持つ政治的暗黒面の一つなのは確かで、今はどの様な扱いになっているのでしょうか?

・ペルーとチリでピスコの本家・定義を争っているそうです。一般的にペルー産ピスコ(マスカット種が多い)はブドウ粕など使わない普通の高級ブランデー(単式蒸留)として造っています。南米でピスコサワーなどに使われるブドウ粕原料の下級品(連続複式蒸留)は(ペルー以外の地域では)チリ産がほとんどかそうで、蒸留法の違いを考えると、日本の甲種と乙種の様な別物として扱うのが妥当な気もします。ちなみに、チリはペルーの30倍!ものピスコを生産しているそうです。チリ産ワインの質・評価・産量・知名度の高さを考えると、ペルーは不利なワインを諦めてピスコ・ブランデーの高級化に掛けるしかないのかもしれません。「ペルー産のピスコ・ブランデーでピスコサワーを作るのは筋違い!」って事ですかね。ピスコってペルーの地名だし・・チリの皆さん、たくさんたくさん出るブドウ粕の蒸留酒は別の名前にして、本家を譲ってあげて下さいな。

・ギリシャのチプロは 主にテッサリア地方、エピロス地方、マケドニア地方、そしてクレタ島で造られています。クレタ産のものは特に香りが強いため、ツイクディアという別の名称で呼ばれ特別扱いです。ウゾはレスボス島発祥のアニス・リキュールとして有名ですが、ベース・スピリッツは茎(松ヤニの様な香りの元)をも含むブドウの絞り粕の蒸留酒です。

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グラッパ

銘柄名
産地
品種
al %
由来
 
ラマゾッティ・グラッパ
ロンバルディア州
シャルドネ・ピコリット・ソーヴィニヨンB・カベルネS 種
40度
製菓用でも旨いの一例・薫り高く飲み易い
600円
メフィスト
白百合醸造・山梨
勝沼産甲州種
40度
日本産です・・
600円
ビアンカ・ダルバ・バローロ
ピエモンテ州
ネッピオーネ種
40度
蒸留専門業者マローロ社のバローロ
800円
ヴァルドッピアーデス
ヴェネト州
プロセッコ種
40度
甘口スパークリングワインのスプマンテ
1000円
ガイア・コスタルッシ
ピエモンテ州
ネッピオーネ種
45度
ガイアの“バルバレスコ”!
1200円
ルーチェ
トスカーナ州
サンジョベーゼ、メルロー種
42度
スーパーワイン“ルーチェ”
1400円
サッシカイア
トスカーナ州
カベルネ・ソービニヨン種
42度
銘酒“サッシカイア”
1400円
ロマーノ・レーヴィ
ピエモンテ州
ドルチェット種
48度
5年熟成・戦前派最後の輝き・・

日本産はグラッパとは呼べないはずですが、EU諸国jじゃないからいいのかな

<イタリアの蒸留・起源>12世紀のナポリ近郊のサレルノ医科大学(※)では、蒸留による製薬方法をアラビア語の文献から初めて試みたと言われています。書き残された文章のいくつかのキーワード(ワイン、塩など)は暗号で記されていたそうで、秘伝だったのは間違いありません。

「純粋で非常に強いワインに少量の塩を加えたものを普通の器で蒸留すれば、火をつけると燃え上がる液体ができる」

・この液体は<燃える水>を意味する<アックア・アールデーンス(aqua ardens)>という名で呼ばれていました。スペインやキューバの<アグアルグェンテ>やポルトガルの<アクアデンテ>の語源では?と言われています。

(※) 7〜8世紀頃、ユダヤ人・ギリシア人・アラビア人・ラテン人の4人の医師によって始められたモンテ・カシノ山の修道院病院(ホスピス)が始まりです。温泉による治療が有名な地域でした。9世紀には医学のメッカとして有名になり、教育機関へと発展してヨーロッパ最古の総合医科大学になりました。後の西洋医学の医学の規範を作りますが、1811年にナポレオンにより閉鎖されたそうです。ギリシャのヒポクラテス以来、長年に渡り行われてきた瀉血治療(悪い血を抜く)を支える中世の医学概念に対して、ジェエンナーの天然痘治療(1796年)に始まる新しい近代体系が優位になった為と思われます。(参照

 
ナポリ近郊温泉風景と、偉そうなポーズの血を抜くgoodポイントの解説図で〜す。

・11世紀末に医学生の指導規範基準として作られた、『サレルノ養生訓』という有名なラテン詩があります。「快活な心、休息、腹八分に医者いらず」、「朝に山(活力)を見、夕べに泉(休息)の水を見よ」、「気苦労を避け、烈火のごとく怒る事なかれ」などと謳われています。今に至るまで各国で1500版を重ねており、日本版もあるそうです。精神衛生面も重視され、今でも通用する内容なのは驚きですね。<地中海ダイエット>の元本らしいですよ。

<イタリアの蒸留・起源・異説> 紀元前1世紀にまで遡さかのぼる、という説もあります。古代ローマ兵士が、女錬金術師コプト夫人クレオパトラが使用していた蒸留器をエジプトから持ち帰ったとの記録が残されており、蒸留物の痕跡も見つかっているそうです。イタリアの一部研究者が、ヨーロッパでの蒸留一番乗りを主張する根拠になっていますが、否定もできません。よく考えると、アレンピック系統とは異なる様相の、プリミティブなスタイルを保った蒸留器が見られるのも事実で、イタリア北部での小規模な継承があったのかもしれません。

<ヴィナッチェの蒸留・起源> イタリアでブドウの絞り粕(ヴィナッチェvinacce)から蒸留酒を造り始めたのは、いつの頃からでしょうか?商取引上では、15世紀に北イタリアでの輸出帳簿にワイン粕の蒸留酒が記載されていて、後の16世紀にはヴェネト地方からオランダへも輸出していたようです。以上の事から、14世紀以前にはグラッパの前身の様な蒸留酒は造られていたと思われますが、蒸留器の歴史から察すると今の味に近くなるまで改善されたのは、やはり17世紀以降と言われています。史料として、1636年にイエスズ会のアタナジウス・キルヘルが、ブドウ粕の蒸留について触れており、1661年にはヤコブ・ザッハの著書『ブドウとワイン』にブドウ粕蒸留の記述があり、学者さん達の興味を引くほどの対象(産業)に成っていた事が分かります。

<アックアヴィーテ・ヴィニカ> ヴィネッロ(vinello)というブドウの絞り粕を発酵させた飲み物があります。ワインの醸造が終わると、ワイナリーの使用人達は絞り粕(ヴィナッチェ)を分けてもらい、水を加え発酵させて(*)自分達用の酒を造っていたそうで、それを蒸留してみたのがグラッパの始まりと言われています。この飲み物は不純物が多い上にアルコール濃度も低く、アックアヴィーテ・ヴィニカ(Acquavite vinica)と呼ばれて,今ではグラッパとは区別されている様ですがグラッパの前身と言えると思います。

(*)今の規定ではグラッパを作る際、この絞り粕(ヴィナッチェ)には一切の添加物が禁じられています。水を加える事もできないので洗浄する事すら×です。

<グラッパの成立> 17世紀の錬金術師ジョヴァンニ・バッティスタ・デラ・ポルタは「七つの頭のヒュドラ」と呼ばれる史上初の分留・精留(※)が同時に可能な蒸留器を発明しました。その後のヨーロッパ諸国の蒸留器発展には目をみはるものがあり、固形原料の絞り粕(ヴィナッチェ)を加水発酵する事なく直接蒸留する事が可能になりました。この頃から近代グラッパの前身ともいえる古典的スタイルになり、自家蒸留も盛んになった様で、移動式の小型器を馬車に積んで行商するする蒸留職人もいたそうです。しかし、一地方(ヴェネト州など北イタリア)の地酒に過ぎず、グラッパという蒸留酒がイタリア中で知られるようになったのは、意外に新しく20世紀の初めくらいです。

(※) <分留>とは混合溶液中の成分それぞれの沸点差を利用して分離・濃縮する分別蒸留の事ですが、単にアルコールを分離する行程だけを指す言葉ではありません。エチルとメチルの分離も重要な上、アルコール以外にも分離・濃縮すべき必要成分が多いからです。<精留>は蒸留物の内、不必要と思われる成分を精製・除去する精密蒸留を指し、本来は液と蒸気とを向流接触させ,蒸気の凝縮熱を利用した液の蒸発と分縮をくり返し(還流)分離をよくする事の様です。しかし、単式蒸留などの場合、コルポ(中垂れ)のみを取り出す作業なども精留と言えますが、分留とも表記される事もあり、あいまいな表現になっています。

<最後の戦前派> 2008年5月1日、「天使のようなグラッパ職人」と言われたトスカーナ州ネイーヴェ村のロマーノ・レーヴィ氏(享年80歳)が亡くなりました。享年78歳でした。全て自筆イラストの手書きラベル、日産3本が限界、戦前そのままの手法、イタリア最後の直火釜使用 、買い入れた絞り粕(ヴィナッチェ)を土に埋めて熟成させる、ヴィナッチェ・エザウステ(vinacce esauste・使い終わったグラッパ粕)を釜の燃料として使用 、猫の具合が悪いとお休み、気に入った人にだけ蒸留所で直売のみ、電話も無く連絡取れない、ニセ物が何度も出回るが気にしない、など数々の逸話を持つカリスマ的存在でした。世界的にも特異な古典的自家蒸留職人にもかかわらず名声を得ていましたが、本人は認識していなかったみたいです。亡くなられた直後、レヴィ銘柄は急騰し、20ユーロ(3200円程)で売られたものが3〜4万にまで跳ね上がり、すぐにネット市場から姿を消しました。当店にも個人蔵ですが一本だけあります。「赤い太陽」のイラストで2005年詰めです。(レヴィ氏の映像はこちらへ)

<近代グラッパの始まり> 第二次世界大戦が終わった後、1950年代半ばに高度成長期を迎えたイタリアではグラッパの需要が急増しました。懐が豊かになると手軽なアルコール飲料を欲するのは人の常ですね。多くの蒸留所が連続式蒸留機を導入して生産量を増大させ、全国にグラッパが普及します。しかし、1960年代には海外の洗練された蒸留酒にシェアを奪われ、農村部で飲まれる安酒としてしか生き残る道はありませんでした。

<グラッパ革命>と後に呼ばれた動きが1973年には始まっていたそうです。ノニーニ社が始めたトライです。上質で新鮮なピコリット単一品種の絞り粕(ヴィナッチェ)を丁寧に単式蒸留した香り高い上質なグラッパを造り、芸術品のような薄いヴェネチア・ガラスの250ml瓶に入れ、 高い値段をつけ、自筆の品質保証書を付けてグラッパの地位向上を目指しました。最初は嘲笑の的だったノニーニでしたが販売戦略にも長けており、1980年代には認知されるのに成功して、ついに単一品種の高級グラッパグラッパ・ディ・ディスティッレリアと言う新しいジャンルを確立します。

・それまでのグラッパは、入手した色々なワイナリ−・品種の絞り粕(ヴィナッチェ)を鮮度など気にせず混ぜ、なるべく沢山のアルコールが取れるように蒸留して、1000mlの分厚い再生ビンで安く売っていました。

<グラッパ・ディ・ディスティッレリア(蒸留所の単一品種グラッパ)> グラッパ製造メーカーは、ワイナリーからヴィナッチェを買取り蒸留します。ブドウ品種ごとや生産地区ごとに分けられたものを使用するため、単一品種(モノ・ヴィティーニョ) のグラッパを製造する事が多いのが特徴で、特別なグラッパとして扱われています。今後の発展のカギを握るのは、ワイン銘柄の評価などからの自由度が比較的高いグラッパ専業の製造メーカーだと思われ、色々なトライが行われています。ノニーニ社、ポリ社などが有名です。ベルタ社やシボーナ社では樽貯蔵に挑戦し、ブランデーやウィスキーとタメ張ろうと企んでいます。

<グラッパ・ディ・ファットリア(ワイナリーの銘柄グラッパ)> 1980年代には、もう一つの流れが始まります。高価なグラッパの可能性を認識し始めたワイナリーが、グラッパを造り始めました。著名ワイン由来のグラッパは、従来では有り得なかった海外ワイン市場での反応も良く、またたく間に認知されて第二の新ジャンルを確立しました。今、私達がイメージするグラッパが登場したのは意外と最近なんですね。

・ワイナリーでは自社の銘柄由来の絞り粕(ヴィナッチェ)を蒸留した物が多く、ワインの評価がグラッパの価値に直結します。ワイン市場と連動した安定性を確保しており、今では一万以上あると言われる銘柄のほとんどがグラッパ・ディ・ファットリアです。その反面、新しい試みを拒む構造なので、このジャンルからの発展性はさほど望めません。洗練あるのみですか?サッシカイア、ルーチェ、ガイアの単一畑物などの、名だたるワイン銘柄のグラッパが特に有名です。

・自社蒸留器を持つワイナリーはほとんど無く、自社の絞り粕(ヴィナッチェ)を蒸留業者などに依頼するのが普通の様です。どの地域でもワインが造られている国ですから、グラッパの商路に希望が見えると北部に多かったグラッパ蒸留所は全国にも広がり、イタリア中で造られる様になりました。それまでグラッパを飲まなかった地域での消費も始まると、1950年代のリベンジも果たして本当の国民的蒸留酒となりました。以前は縁のなかったトスカーナやシチリアなどを含め、全国で130軒以上の蒸留所が稼動していると言われていますが、小規模業者は数に入って無いそうです。ちなみに<ディスティッレリア>が蒸留所を指すのに対して、<ファットリア>とは農園の事です。

<近代グラッパの基準> 法的には自由度が高い、と言うか野放し状態に近い様です。造り方に関しては、ブドウ酒粕 (ヴィナッチェ)の取り扱い以外には大した規制が無い反面、 地域表示やアルコール度数などの税制上の決まり事はやけにウルサイ感じで、生産したアルコール分に対してキチンと酒税を徴収できれば後は気にしないというラテン的政策の様ですね。この国の人達は自分をイタリア人だと自覚してない(地域愛着性が強い)ので、各地のやり方を統一出来なかったのかもしれません。気持ちが一つになるのは、サッカーの国際試合の時だけらしいですよ。

・多年に渡る論争のあと、グラッパという名称は正式にイタリア産のみを呼ぶ事がEUで認められたのが1989年です。国内の規定などが一通り整ったのも、1997年とつい最近のことです。

<ヴィナッチェの品質> 絞りたてのヴィナッチェを使うのが理想とされています。しかしブドウの収穫期は短かく、特定の時期に集中してワイナリーからヴィナッチェが持ち込まれても、蒸留所で処理できる量は限られています。ヴィナッチェの保存は品質上の重要事項です。あえて保存中の発酵・熟成を利用してよい方向を狙うことなどもありますが、繊細な微生物との戦いには決まり手は無い様で、それぞれの地域で試みが続けられています。

・ワイナリーと蒸留所の力関係(縁故や金銭)が蒸留の優先順位を決めるであろう事は想像に難くありません。これを回避し、品質向上を目指して蒸留設備を設けるワイナリーも少しながらあり、歴史の浅い高級グラッパの世界に独自の味わいを育む可能性があると思います。

<グラッパの蒸留> 法規定がユルイので蒸留法も様々です。各種単式(複数回)、半連続、連続複式など何でもOKのようで、各蒸留所ごとに個性差が生じる大きな要因にも成っていますが、技術や意識の優劣にも明らかな差があるそうです。大規模な連続複式蒸留機での大量生産工場から、自家製造に近い小さな蔵や高品質化・差別化を問う蒸留所での単式の複数回掛けまで幅が広く、各銘柄の個性は良くも悪くも百花繚乱です(焼酎に似た状況ですね)。

<コロンナ型半連続蒸留器> 第二次世界大戦以降にグラッパの蒸留に使われ始めた、ボイラーと精留器(コロンナ=塔)が別体になった分離型半連続蒸留器で、グラッパのイタリア国内普及のキッカケをつくりました。コロンナ内部の精留棚は4〜8段に重なっており、特殊な固形原料のブドウ酒粕 (ヴィナッチェ )を使うグラッパの蒸留に効率・産量の面で最適化され、程良い素材感を残す蒸留が可能な様です。(他にはアルマニャックのほとんどが半連続蒸留器で造られていて、この二種以外では使用例を聞きませんね。)

<蒸留作業の肝> 単式や半連続式の蒸留液は抽出されるタイミングにより、「テスタ(初溜取り)」「コルポ(中垂れ)」「コルダ(末垂れ)」の3つに分けられます。他の酒類に比べて、より複雑な香味要素を持つため蒸留温度はとても大事で、上がりすぎても下がりすぎても不要な成分が加留されます。「テスタ」と「コーダ」は最適温度外留出のため不純物を多く含み、再蒸留されます。釜の温度調整管理や「コルポ(中垂れ)」の切り離しタイミングなどは腕の見せ所と言えます。

<飲み方> 素材(ブドウ品種)の特徴と地域性をダイレクトに反映した、アクの強い複雑な風味の手造り蒸留酒と言う点が良いグラッパの個性です。この事を大切にする愛好者は存在そのものを楽しもうとする傾向が強く、ほとんどがストレートで飲まれます。さらに味や度数が濃い事を優先するのはラテン系特有の刹那的快楽主義の表れでしょうか。冷凍庫で冷やすのはもってのほかで、水や氷で割るのも、カクテルに使用するのも、邪道と怒られ、「飲み易くするくらいなら飲むな」って想いがビシビシ伝わってきます。樽熟成などの飲み易い洗練されたグラッパが輸出用なのも似た様な理由からです。日本人には厳しい作法ですが、パスタやピザだけじゃ「ゼン、スシ、大スキ、ナットウ気持ちワルイネ、ヤパリ日本サイコーdeath」的な外人サンと同じになっちゃうかもですよ。特徴的なカワイイ専用グラス(ガキデカ)でイタリア北部のアイデンティティーをお楽しみ下さい。(かなり個人的に、濃い目のお湯割りはイケル!と思います。)

<輸出>  生産量は700mlの瓶で数えて約4千万本が生産され、国内消費ではブランデーや、ウィスキーを押さえて一位の座を保っています。そのうち10%から15%が海外へ輸出され、なぜか半分がドイツ向けとなっているそうです。残りの85〜90%は、まだ世界デビューしていない知られざる銘柄という事ですね。(2000年の資料より)

<ヴェネチアンガラス> ちょっとやりすぎでは?と思える様な、華麗というか奇怪というか繊細というかハッタリというか・・・ともかく輸出用の過剰な装飾の工芸品の中身が何故かグラッパだった、としか言いようの無いビン達はいかがなもんでしょうか?値段もハンパないし誰が何のために買ってるのか疑問ですよ。個人的にはドン引キです。コレが100mlで2万台ですか・・・

<in Japan> 世界中のバー、高級レストランに置かれるまでになったグラッパですが、日本のマーケットは全然サエません。分かり易くアレンジ可能な物にはパッと飛びつく国民性ですが、根の深い伝統が反映した異質な文化に対峙して少しでも価値観の変換を求められると、プイッと横を向いてしまうみたいですね。扉が開くと、幸せが一つ増えちゃうんですけど、クセがあるので慣れるのに時間がかかる上、高価な物しか輸入されていないのもネックだと思います。当店の価格もギリギリですよ。安くて美味しい優しい銘柄は必ずあるはずですが・・(サ○ゼリアでグラッパに失望した話はよく聞きます。置いてあるのは偉いんですが、冷たくされると香りも何も無くなり×ですよね。)

・日本製のグラッパも少ないながらあります。日本のワイナリーなどが挑戦していますが、いかんせん知名度が低すぎる上、国内のグラッパ愛好家にはチラ見しかされないという、四面楚歌状態なのが実情の様です。味の基準があいまいな状態でソレを出されても「ハァッ?」って感じになり兼ねないんですよね・・・でも少しは応援したいので、山梨の“メフィスト”という銘柄は用意してあります。

<製菓用?> 高価なグラッパの裏ラベルに<製菓用>とか記載されていて、「こんな高い酒をお菓子に入れんのかよ!」と驚いた事がありませんか?もちろん製菓用ではありません。グラッパはブドウの成分が濃厚なため、メチルエステルが加水分解して生成されるメタノールが若干含まれてしまいます。その量が日本での飲用基準値を超えてしまう事があるので、製菓用と言う名目で輸入販売されているとの事です。EU基準は当然クリアしており、輸出前提の銘柄にはない地産の味わいの可能性も高い上に、関税も安くなるのでお買い得なのかもしれません。当店の一番安い“ラマゾッティ・グラッパ(製菓原料用に限る)”なんかも、当然イケてます。

<ついでにウヴェウエ>と呼ばれる、グラッパ周辺の聞きなれないイタリアの蒸留酒を二種ほど紹介させていただきます。この手の分かりづらい酒類は世界中にあり、この情報社会においても私達の耳に届くことはマレです。(参照

・ウヴァ(uva)はフランスのフィーヌ同様、特徴が出すぎたワインや余剰ワイン(※)を使って蒸留されたブランデーで、グラッパよりも華やかな芳香で飲み易い酒質らしいです。通常のブランデーでは、ブドウ品種もワイン用のものと比べ糖分は少なく酸味が強い品種を使用し、蒸留を前提として醸造されるので、ワインのような風味は追求しません。清酒と米焼酎モロミの違いに似ていますね。コストで言えばワインで出荷した方が有利なのですが、ブランドに対するプライドから、出荷できないワインの利用法として蒸留されている様です。ほとんどが地元消費で、ワインに使われている品種由来の風味が通常のブランデーより強く出るそうです。

ウヴァに関する規定は特に無い様です。通常のブランデーやグラッパという名称が使えないブドウ原料蒸留酒の事と考えていい様で、上記以外の造り方や由来もあるようです。ウヴァという言葉自体がはブドウの意ですから・・

(※)他の新興地域(ニュワールド)の安価で良質なワインにシェアを奪われ、ヨーロッパ産ワインの消費が激減した結果、大量の余剰ワインがアルコール含有廃棄物と化しています。この問題はかなり深刻な様で、安いワイン向け畑の「減反」奨励金、ブドウ園の早期閉鎖に多額の奨励金、余剰ワイン蒸留に対して補助金、工業用アルコールや バイオ燃料(バイオエタノール) などの原料に利用する、などの対策が行われてきましたが先は見えていません。特にフランス、イタリア、スペイン、ポルトガルなど伝統的に主流だった国ほど行き詰っているそうです。しかし、はるか以前から造られてきたフィーヌやウヴァは、この様な状況とは無縁で、相変わらずマイナーで伝統的な存在です。

・ウエ(ue) は潰した葡萄を皮や果実ごと蒸留して造られる変わり種で、フルーツブランデーの新手法でしょうか?「グラッパ革命」の主導者ノニーニ社の発案酒で、かなり最近(1984年)の登場です。ウヴァよりさらに「ブドウ本来のフルーティーさが麗しく、甘く軽やかなアロマがより前面に出ている」とあり、果実を丸ごと使ったフレッシュな印象ですかね? ウエとは、フリウリ地方の方言でブドウの果実の意味です。

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オルーホ

アルキターラ・オルーホ
38度
ペドロ・ヒメネス種 口当たりも柔らかく、品種由来の甘みで飲みやすい
800円

・スペインでは蒸留酒のことをアグアルグェンテと呼び、その内のグラッパの様なブドウ粕ブランデーはオルーホ(orujo)と呼ばれます。オルホーとはスペイン語で、葡萄の皮の意味です。ポルトガルにはバガッソバガセッラというブドウ粕ブランデーがあるそうです。

・当店に用意してあるオルーホは南スペインのアンダルシア地方産です。銘柄名の「アルキターラ」とは、アラブを起源とするアランビックの原型とも言える小型の単式蒸留器です。スペインを含むイベリア半島は8〜15世紀までイスラム勢力の支配下にありました。アンダルシアのアラブ人は、オランダやフランスなどの地域より早い7世紀頃にはワインやブドウ粕を蒸留しブランデーの様な物を製造していたそうで、このジャンルのみならず、蒸留酒自体においても最古とも言える歴史をもつ地域です。

<アルキタール蒸留器・スペイン・ポルトガル> 今も使われている中では最も古いタイプで、アランビックよりかなり以前のシステムです。北アフリカから直接渡欧した様で、ムーア人(北西アフリカのイスラム教徒)の影響を強く感じさせる銅製の一体型蒸留器です。早い時期に東洋でも用いられていたそうです。今でも主にイベリア半島で継承・使用されており、自家製蒸留酒、精油、薬草の有効成分抽出、ローズウォーターなどの香水など様々な蒸留に用いられています。「ムーア人の頭」とよばれる特徴的な帽子型形状の冷却器を持ちます。(参照

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マール

・マールは正式にはオー・ド・ヴィー・ド・マールといい、ぶどうの搾りかすで造ったブランデーという意味です。 主に樽やタンクの底に澱とともに残ったワインを蒸留します。
・マールはフランスの主なワイン産地でつくられていますが、特に優れているブルゴーニュ、シャンパーニュ、アルザスのものは三大マールと呼ばれて特別扱いされます。
・グラッパは蒸留したら直ぐ瓶詰めする事が多く透明な物がほとんどで、葡萄の果実味を重視していなのに対し、マールは樽熟成による琥珀色のものが大半で、品種の特徴を抑えたナイーブな調和を重視しているように感じます。コニャック・アルマニャックの味わいを別の線から目指すバリエーションのような印象を受け、グラッパの様な突出した個性は感じられません。
・通常ブルゴーニュ地方とシャンパーニュ地方のものは樽で寝かせますが、 アルザス地方のものはタンクで寝かせる事が多く、イタリアのグラッパに近いニュアンスを持っているそうなので面白そうだと思います。

・正直に告白すると、飲んだ事がないです。すみません。でも、アルザス銘柄でもラインナップしてみようかな・・・なんて思案中です。