<Abram-Louis Perrenoud>

<アブサン番外地>

“Absanta secrete”

アブサン Home

フランス(ポンタリオ)フランソワ・ギー(Francois Guy)氏曰く、

「チェコのアブサン?単なるニセ物だ。ニガヨモギもアニスも1gだって入ってない。あんなものはガソリンタンクにでも入れればいいんだよ。スペイン産?奴らはニガヨモギの抽出物を買ってきてアルコールに混ぜてるんだ。翌朝、頭が痛くなるのは酸と不純物のせいさ。」

「いいか」彼は力強く言った。「世界に有名なアブサンはスイスで生まれた訳じゃない。ここ、ポンタリエで生まれたんだ。最初に作られた場所はスイスだったにしても、発明者はフランス人だったんだ。私の祖父アルマン・ギーは1890年にアブサンを作り始めた。そして私は彼と全く同じやり方でアブサンを作っている」

スイス(モティエ)イブ・キューブラー(Yves Kubler)氏曰く、

「フワンソワ・ギーのアブサンはアブサンじゃない!彼はニガヨモギとフェンネルとアニスしか使っていない。そして本物のアブサンには少なくとも7種類の成分が必要だ。これは歴史的に証明されている 。うちのには9種類の植物が使ってある。」

「我々はとても信頼できるデータに基づいている。ペルノー家はスイス人だ。最初の蒸留j所はクーヴェにあった。私の曽祖父はこの蒸留j所を1863年に開いた。」

スイス(モティエ)のピエール=アンドレ・ドラショー(Pierre-Andre Delachaux)氏曰く

「キューブラー?(彼は顔をしかめて言った。)彼が造っているのはアブサンじゃない。あの男は自分に都合の良い事は何でも言うんだよ。これだ!これがアブサンなんだ。」彼はしゃれこうべと二本の交差した骨が浮き彫りになったアンティークの漂白ガラスの瓶を指した。「人は自分のアブサンに値しなければならないと思う。」

「我々はレジスタントなんだ。そして我々のレジスタンスは一つのキーワードで表現することができる。アブサンだ。アブサンが禁止された時、静かに黙って地下にもぐった。私が興味があるのはこの抵抗だ。アブサンは法を犯す喜びであり、意気を示す喜びなんだ。」

・上記の記述はタラス・グレスコー著「悪魔のピクニック(早川書房)より引用させて頂きました。今世紀初頭にアブサン市場が動き始めたばかりの頃の雰囲気が伝わってきます。各地の関係者が自分のスタンスやアイデンティティーを確立するのに必死で、他者への批判・中傷をも辞さなかった様子が伺えます。元祖争い的な発言などはモロですね・・さすがに最近ではこんなイタい関係ではないでしょう。この取材の後、三人とも<アブサンティアーデ>などで顔を合わしてバツの悪い思いをしたはずですから・・・

 ・本ページは、各国の事情、各生産者の情報、在庫銘柄の精細、などをご紹介しています。加えて、重要と思われる付随知識も記述しました。しかし、知らないうちに記述の量が増えすぎて、ウザったらしいページになっている事に気付いてしまいました。自分で書いたのに見づら〜い・・・特にLes Fils d'Emile Pernot」、Distillery Matter-Luginbuhl 」、などの項は長すぎて迷子になってしまいそう・・・・そんな訳で、各国、各蒸留所、各銘柄へのリンクを張りました。多少は見やすくなったかと思います。

・ここでは主に具体情報を扱っています。歴史や全般的な事については、アブサンページにてご覧下さい。

・面白そうな話やアブサン界の裏事情に興味がある方は、トピックへ直行した方がいいかもしれませんよ。

・銘柄名に付随している様々な印 ( 例えば ★★★★ ) などについての説明はこちらをご覧下さい。

・当店が保有している稀少なヴィンテージ・アブサンについてはこちらを御覧下さい。御提供が可能です。

・記述の都合で参考にしたアブサンは画像に×印が付けてあります。当店の在庫銘柄ではありません。

 < フランス > 全体的な状況、下記以外の主要生産者、地域性などについても記載してあります。 
 フランスの主要なアブサン生産者一覧はこちら 
The Pierre Guy Distillery ・アブサン界のご意見番、頑固親父は健在です。
 “Francois Guy  ・有名な生産なのに、アブサンは一銘柄のみの男らしさ!しかも、今どき珍しい田舎のアニゼット系アブサンです。知らないうちに超個性派。
Les Fils d'Emile Pernot ・最も重要な・・・と言うよりは、世界No1生産者ではないですか?どの銘柄も素晴らしい!
 <トップ・ライン>
 “Sauvage★★★  ・野生ニガヨモギを使用した最初期レシピによる、野獣
 “Berthe de Joux  ・最高峰の一つにしてフレンチ・アブサンの到達点
 “La Maison Fontaine  ・最高峰の一つにしてBlancheの到達点
 <スペシャル・ライン>
 “Roquette 1797  ・妄想アブサン過去
 “Doubs Mystique  ・妄想アブサン現在
 “Vieux Pontarlier  ・妄想アブサン未来
 <スタンダード・ライン>
 “Un Emile 68  ・フランスの指針とも言える重要銘柄  
 “Un Emile La Blanche  ・Blancheの基本銘柄 
 “Un Emile Sapin(サバン)  ・樹木の香る個性派
 <普及・ライン>
 “Un Emile 45  ・アニゼット系の良品
 “Deniset-Klainguer  ・この生産者では唯一のマセラシオン
 <LdF>
 “White Fairy  ・ La Bleueを凌駕する決定的なBlanche
 <LdF/限定試験銘柄>
 “1797★★★★  ・妄想の源、夢のまた夢、一般流通100本限定
 Wormwood Blanche★★★★  ・密室のBlanche、一般流通100本限定
 L'Artisanale★★★★  ・謎のアメリカ人密造者による企み、一般流通184本限定
 <VdA>
 “Belle Amie 2007 Ver,1★★★★  ・<VdA>初銘柄、夢のアブサン、限定600本
 “Belle Amie 2008 Ver,2★★★ ・両手一杯の花束、限定640本 
 Belle Amie 2010 Distiller's Proof Ver,3★★★★ 一般流通24本限定
 “Perroquet ・フレッシュ&デープ、日本でも購入可 
 “Perroquet fut de chene★★★  ・樽熟成の深み、限定300本 
 “Perroquet Distiller's Proof★★★★  ・一般流通12本限定
Distillery Paul Devoille ・上記の生産者と並びうる実力と特異な技法が生む独特の美意識。繊細優美にして複雑深遠な味わい。渋いです・・・
 <スタンダード・ライン>
 “Verte de Fougerolles 72<LdF>  ・華やかな美意識、もう一つのフランス
 “Blanche de Fougerolles 74<LdF>○  ・La Bleueを凌駕するBlancheの始まり
 <普及・ライン>
 “Libertine 55  ・普及版でこの高品位
 <VdA>
 “La Coquette 2008 Ver,1<VdA>★★★  ・18世紀の秘蔵レシピ
 “L'Enjoleuse 2008 Ver,1<VdA>★★★  ・19世紀の秘蔵レシピ、限定300本  
 “L'Enjoleuse fut de chene 2010 Ver,2<VdA>★★★  ・樽熟成の深み、限定300本 
 “La Desiree 2008<VdA>★★★  ・エドワーを彷彿とさせる・・・、限定300本  
Lemercier Brothers RS  ・長い伝統と革新の意気に満ちており、注目が集まっています。
 “Abisinthe 45  ・典型的なフレンチとして楽しめる安心の普及銘柄
Artisan Distillery Emile Coulin ・アブサンは一銘柄のみ・・・新進リキュール蔵。
 “Emile Coulin  ・驚異的なコストパフォーマンスで知らぬ人はなし
Jade Liqueurs ・主要三銘柄はヴィンテージ現物を再現!に挑戦した無二の存在。よくあるレシピ物とは次元が違います。一個人の執念とロマンの結晶。
 “PF 1901  ・大火災以前のビンテージ・ペルノー現物を再現
 “L'Esprit d'Edouard  ・ベルエポック期のヴィンテージ・エドワー現物を再現
 “VS 1898 (旧名Verte Suisse 65)  ・禁止前の色つきスイス物は再現自体が珍しい!
 “Nouvelle-Orleans  ・ベルエポック期のアメリカン・アブサンを再現
 “Lucid   ・2007年、アメリカ解禁黎明期を飾った黒猫

∽∽∽
 < イタリア > 潜在的な実力は高く、以外な美品が存在します。 
Distilleria Alpe ・イタリア最高峰なのは確実。  “L'Italienne Ver,1<LdF>★★  ・こんなに素晴らしすぎるアブサンを見逃さないで!
∽∽∽
 < スペイン > 様々な事情が交錯した、期待できる流れがあります。 
Destilerias del Penedes ・スペインの良心がコレだ!  “Philippe Lasalla  ・知る人ぞ知る優良普及銘柄
Monforte del Cid  ・典型的スパニッシュ中の優良品。  “NS 55  ・スペインらしさ爆発・・・赤!
Esmeralda Liquors ・ナパヴァレーからの刺客。  “Obsello  ・海外戦略の礎、とても良い銘柄でお勧めです
∽∽∽
 < スイス > 語られる事が少ない問題点に関する事情や、下記以外の主要生産者についての全体的な状況。 
 スイスの主要なアブサン生産者一覧はこちら 
Distillery Matter-Luginbuhl ・実質的にスイスNo1!なのは間違いなく、高い技術力と多彩な銘柄で他のスイス生産者を圧倒しています。
 <アーティスト・ラベル>
 “Nouvelle Vague  ・こっ、このアレンジは確かに斬新です!ラベルもヤバい・・・
 “Duplais Verte  ・スイス革命はこの銘柄から・・・アブサン棚には必須のマスト・アイテム!
 “Duplais Blanche  ・ La Bleueを凌駕するBlanche進化の源
 “Duplais Balance   ・ La Bleueに対する挑戦的アジテーション
 “Brevans H.R.Giger  ・ど真ん中のニューコンセプト
 “Brevans A.O.Spare  ・圧倒的な高品位、素晴らしい到達点、絶品です!
 “Mansinthe  ・マリリン・マンソンがプロデュース した優良銘柄
 <家伝銘柄>
  Kallnacher○  ・ La Bleueより濃い癒し度・・・逆個性派です 
 
Kallnacher Red Absinthe Bitter  ・気軽なアブサンカクテル、旨し・・・
 <抗議銘柄>
 “PAS AUTHORISEE par le VdT<LdF>   ・ La Bleueに対する抗議状、お勧めです
 <監修銘柄>
 “Nemesinthe absinthe<LdF>  ・英国産ながらMatter完全監修、超お勧め!
 <自家限定試験銘柄>
 “Promethee★★★  ・あまりにも特殊過ぎる銘柄、限定333本 
 “Promethee #1 Distiller's Proof★★★★★  ・一般未流通、幻のアブサン
Artemisia Distillery ・新進気鋭!ながらも最高の知名度を得る事に成功した勝ち組生産者。スイスの伝統を無視したドライでクールな造り・・・インパクト系。
 “Clandestine 53  ・スイスのニューウエーブが世界中に進出・・・ 
 “Clandestine Marianne 55  ・上記のフランス規制仕様、メダルが重いぜ・・・
 “Angelique 68 Verte France★★  ・新シリーズ中、普及版とは異なるフランス仕様 
 “Angelique 72 No.2 Fortissimo  ・外注品、ブニヨン氏最高傑作!
 “Angelique 68 No.3 Appassionato★★
  ・外注品、上記のフランス規制仕様 
 “Opalineオパール×  ・外注品
 “Sapphireサファイア★★  ・外注品、過剰ツヨンで流通禁止!市場から消滅・・
Gaudentia Persoz ・クーヴェ村の新鋭女流。  “La Ptite Douce  ・甘やかなニュータイプの La Bleue
Absinthe Duvalloni ・有名な密造者、ラ・マロットの姪娘!  “Duvallon、“Blandine、“La Veuve Verte  ・コレクターズアイテム初級品
La Valote Bovet ・爺さんのLa Bleue。  “La Valote Bovet・Le Chat○  ・かつての密造者が作るLa Bleue!
Black Mint ・スイス内シェアの7割を占める最大手。  “Kubler  ・日本でも味わえるLa Bleue的味わい
 < チェコ > 躍動的な流れを持つ生産国の特殊な事情について。 
 チェコの主要なアブサン生産者一覧はこちら 
Krasna Lipa Sebor Distillery ・Sebor氏が2003年に亡くなられ、少しだけ市場に残った幻のボトル達!当然、入手は困難・・・
 “Krasna Lipa★★★  ・Sebor氏、魂の一本!ずっと造り続けた最初のアブサン銘柄です
 “Sebor★★★  上記の輸出仕様、今では別の生産者が別名で出荷・・・
 “Havel`s★★★★×  ・短股間で終わった外注銘柄
 “Havel`s Alpen★★  ・スイス解禁以前なのに、La Bleueに挑戦とは・・スゲッ!
Ales Mikulu-Cami ・チェコNo1!手工少量生産ながら挑戦的な姿勢を崩さず!多彩なラインナップ。
 “Absinth Tempel  ・最もドメスティックなボヘミアン味、意外と無いんですよ・・・ 
 “L'extrait de ( la ) fee Absinthe  ・正規品の中ではツヨン最高濃度を達成! 
 “Cami's Gold Absinth  ・新しい味わいのボヘミアン、鮮烈にしてキュート
Bairnsfather Family Distillery s.r.o. ・Sebor直系!究極のマセラシオン法。  “Reality Bitter 60   ・チェコの中でも個性的、瓶の中にヒソップスが・・・
∽∽∽
 < ドイツ > 販売サイトや真性マニアが最も多い上、生産状況はカオス状態・・・なにが飛び出してくるの分かりません。 
LogisticX GmbH & Co.KG ・アブサン業界裏番長は数々のワルさを仕掛けて来ましたが、十分な成果を上げてきたのも事実です。
 “Angelique 74 No.2 Fortissim
 “Angelique 68 No.3 Appassionato

 “Opalineオパール× 
 “Sapphireサファイア★★

 Maldoror  ・超問題作!先にヤッた者勝ちか・・・既製品をブレンド!
G. F. Ulex Nachfolger ・ツヨン感にこだわる生産者。  “Ulex Strong  ・ゲルマン味だぜ、おっ母さん!
Felix Rauter ・ポップな感覚で世界市場進出に成功。  “Tabu Red ・イタリアで人気のフルーティー・アブサン、ピンク色に濁る!
Eichelberger Distillery ・最もシリアスな作り手。  “ Eichelberger Limitee Verte 68  ・究極の正解の一つです、超高品位
∽∽∽
 < オーストリア > 最もゲルマン的な美意識を残している生産国です。 
Fischer Distillery ・ Wiener Schnaps Museum (ウイーン酒類博物館)が監修。伝統と革新が程よく混在しながらも独自性が目を惹く注目すべき生産国。
 “Mata Hari Ver,1  ・ノーアニスでも白濁?色も味わいも怪しさ満点の鮮やかさ・・・他には無い個性的な味わい。でも、Ver,2は穏便なkんじになってしまいました・・・残念
 “Montmartre  ・古のウィーン・アブサンを再現!フレンチ・ベースの本格派から派生した独自のアレンジ・・・異質ながらも説得力があり評価は高し
∽∽∽
〜 < ビンテージ・アブサン> 〜
 “ヘルメス・黒ラベル” ・日本のサントリーが造っていたアブサンの80年代バージョンです。30年にも渡る円やかな瓶熟味で評判が良い!
 “Pernod Fils ” tarragona  ・禁制後にもスペイン工場で造り続けました。全盛期のフェミニンな味わいを継承した最後の輝き。1960年代。
 “Pernod SA ” tarragona ・エドワー系スペイン銘柄。従来通りの男性的な味わいでビンテージ愛好家の評価も高し。1938年以前。
 “C.F. BERGER blanche ”  ・エポック期には有り得ない稀少な Blanche!世界に一本しか存在しない博物館クラス!1800年代末。
∽∽∽
黄 or 緑 or 暗緑系     無色透明      赤 or ピンク系   ツヨン濃度〜35ppm   × 未入手 or 在庫無し
∽∽∽
限定流通品 or数量限定品 or 終売などで、困難  ★★ 超限定品 or 流通禁止品 or 市場在庫のみの廃止銘柄などで、かなり困難
★★★ 限定終売品 or 超限定終売品 or 廃止銘柄などで、かなり絶望的  ★★★★ 廃止銘柄で絶望的、数年に一度の稀なる奇跡が起これば・・・
★★★★★ 非流通品などで無理ッ! 後は一生に一度だけ有るか無いかの夢の様な奇跡だけ・・・空き瓶でも欲しいです。
(限定品=200〜1000本、 超限定品=12〜36本 )
★★★以降に関しては、オークション出品、個人間取引、デッド・ストック・オファーなどの可能性だけが残されています。
∽∽∽
< トピック >
それぞれの銘柄の裏に事情や歴史が垣間見る事が出来、表には見え辛いアブサン界の地図が浮かび上がってきます。
<LdF>  アブサン業界を先導する英国の流通/企画会社「Liqueurs de France」の半端ない存在感と圧倒的な指針力。    
<有力アブサン・プロデューサー達>   意外な事に、非フランス/スイス人がアブサン業界を動かしている現実が・・・   
<Martin Sebor氏>   フランス、スイスに先んじた、チェコ・アブサンのカリスマ。今だに影響力が衰えない・・・
<VdA>  オリジナル銘柄の<Les Parisiennes>シリーズで、アブサン界に旋風を巻き起こすパリの専門店「Vert d'Absinthe」に乾杯!エロいし・・・
<Les Parisiennes>シリーズ   <Les Fils d'Emile Pernotに依頼した銘柄・>  <Distillery Paul Devoilleに依頼した銘柄・>
<一夜限りの華麗なる陰性花>    このシリーズ中、最初の二銘柄だけが〜35ppmなのは?
<VdAの熟成アブサン>   オーク樽熟成は今後のトレンドになり得るか?え〜っ、さらにマグナム熟成ですか・・・
<LdFとVdAの微妙な関係>   規模は違えど高い志を抱く二者になにがあったのか?
<Jade銘柄の存在意義>    他の再現銘柄とは目指す次元が違う・・・その重要なポイントは?
<現行ペルノー・アブサンの低い評価>   一番有名で歴史ある生産者のはずなのに・・・世界中がガッカリしたのは何故?コッチの方が分かり易いかも・・・
<“Roquette”とは?>   再現銘柄の根拠として大事な所で登場・・・謎の隠語の正体は?
<最もレアな現代アブサン>  解禁後にリリースされた銘柄の中で最も入手困難なアブサンは?
<Abram-Louis Perrenoud>   アンリ・ルイ・ペルノーの父親が残したレシピは決定的でした。1794年。
<Pierre Duplais>   これが無くっちゃ始まらない、ベルエポック期のアブサン教科書。1855年。
<Jacques de Brevans>    これが無くっちゃ決まらない、ベルエポック期のアブサン・マニュアル。1897年。
<本物の味わい>   そんな都合の良いものが本当にあるのでしょうか?昔と今では、どちらが優れているの?
<樽熟成の重要性>   再現性を極めると・・・無視できない重要課題です。
<アブサン聖地・ポンタリオ>  始原地クーヴェ村にも程近い商業アブサンの発祥地。今でも強力に稼動中です。
<アブサン第二の地・フジュロル>  長い歴史と高度な技術に裏付けられ、最大勢力地としての存在感は抜群!
<スイスの密造者/謎の生産者>   ひょっとしたら、解禁後の今でも存在してるんですね・・つい、ワクワクしちゃうのは何故?
<公然の秘密>、<La Bleueの抱える問題点>   一見、完璧な存在に見えるスイス銘柄ですが・・・今後は大変かも・・・そこで下の集まりができました。
< Association Interprofessionnelle de l'Absinthe >   トラヴェール渓谷の生産者達は守りに入っています。非難轟々ごうごうの法案を提出・・
<アブサンティアーデ(absinthiades)>   一見、圧倒的にも見える権威、その正体は?上記とも関連が・・・
<45度のアブサン>   何故、この最低限アルコール度数のアブサンを造るのが難しいのか?
<苦戦するBlanche>  何故、こんなに美味しい最高品位カテゴリーが売れていないのか?
<フェンエル規制解除!>、<Absinthe表記解禁!>   2010年にようやく訪れた、フレンチ・アブサン本当の解禁!やっと本番ですよ・・・
<アーティスト・ラベル>   Matter銘柄に多く、企画者の思想的な嗜好性やアブサンが担ってきた文化的側面が無造作に表出する小窓になっています。Cami も・・・?
<オースティン・オスマン・スペアー> <ロートレアモン伯爵>  アブサン愛好家の精神面を象徴するダークサイド・カルチャーのアイコン達。
<スパニッシュを支える○○ワイン>   一番安易と思われるエッセンス法のスペイン産が、意外に美味しいのは何故?
<スイスでは入手困難な○○ワイン>   ほとんどのスイス銘柄が、高級グレープ・スピリッツを使わないのは何故?
<ドイツにおける密造事情>   実はアブサン密造が盛んな国だったんですね!販売サイトの異様な充実度も納得!
<開栓直後の刺激臭>   フォーラムなどで話題になる「開栓後2〜3日すると・・・」って、何?
<スポイド付き小瓶>   日本でも売ってる “Absente L`Extreme (エクストリーム・アブサン) ”の本当の使い方は?
<Sebor Bottle の謎?>   何故、“Cami”シリーズにSebor Bottleが使われているのか?
<“Pernod Fils Tarragona” の謎?>   最も身近なビンテージ、タラゴナ・ペルノーの精細が判明!
<もう一つのトピック>   アブサン全般に関した記述を扱っているメインページのトピックも面白いですよ。是非、ご覧下さい!

 

<フランス>

<フレンチ・アブサン in Japan > 現時点(2010年6月)において、日本に正規輸入されているフレンチ・アブサンのラインナップには相当な物足らなさを感じます。残念ながらフランス産本格銘柄の国内正規購入は不可能です・・・まともな銘柄と言えるのは、「Liquoristerie de Provence」の“Versinthe Verte”、“Versinthe la Blanche”と「Domaines de Provence」の“Grande Absente 69”、変化球ながらも 「Jean Boyer」の“Absinthine”くらいでしょうか?しかし、この四銘柄は伝統的なフレンチ・アブサンとは美意識が異なる南仏パスティス系なんです。このエリアの商品は以前から流通しており、諸事情を考えると輸入先の選択が限られるのは無理もありません。新規の輸入ルートを開く為には、生産者が公開したがらない精細な成分分析資料などの提出が必要で難しい様です。

・と思いきや、酒類商社「ラール・アルコル」の伊藤さんが頑張って下さった様でLes Fils d'Emile Pernotの正規輸入が実現します。先日(2010/11/26)、フランス人(多分)の方が二人来られました。Les Fils d'Emile Pernotの方で、挨拶廻り(リサーチ)の最中だったのでしょう。伊藤さんに薦すすめて頂いたそうです(ありがとうございます)。なんせ言葉が通じませんので、どの銘柄なのかとか細かい事は聞けませんでした。もっと、頑張って聞いとけばよかったです・・・しかし、遂に本格フレンチ・アブサンが国内流通する時が来たんですね・・・しかも、最も望ましい生産者が・・・実に喜ばしいジャイアント・ステップです。

<ポンタリオ/仏東部> 商業アブサン発祥の地には二つの両極端な生産者が稼動しています。頑固親父の「The Pierre GUY distilleryは1890年に創業した家伝の味わいを維持しており(本人談)、アブサン銘柄は一つだけと男気に満ちた潔いさぎよさ!一方、「Les Fils d'Emile Pernotは伝統と革新を両立させた業界No1の実力者です。レギュラー銘柄の出来の良さも然ることながら<LdF>や<VdA>とのコンビで超強力銘柄を連発してきました。<アブサン業界の牽引車>としての貢献と影響力は計り知れません。

<フジュロル村/仏北東部>はアブサン第二の地といわれ、禁止後もフルーツブランデーの名産地として伝統と技術を維持してきました。筆頭の「Paul Devoille distilleryは最高峰の美意識を持つばかりでなくハーブ別に蒸留してにブレンドする高度な手法を誇り、繊細かつ複合的な深い味わいが特徴です。こちらも<LdF>や<VdA>とコンビを組んで、数々の名品を生み出してきました。二番手のLemercier Brothers RSも長い歴史に基ずくレギュラー銘柄の評判に加え、先進的な銘柄に挑戦する姿勢が注目を集めています。「Emile Coulin distilleryは一銘柄だけですが<業界最高のハイ・コストパフォーマンス・アブサン>として有名。以上の三つの生産者で本格アブサン大勢力を成しています。

<仏東部/中部/北西部> 東部ブルゴーニュにある「Jean Boyerは“Absinthine”などが日本に輸入されていますが、本来はモルトやワインが専門の業者らしく変り種です。フランスの高級デパートなどに置かれているのは流通に特殊なコネクションを持つ為でしょうか?中部はバラけた感じです。ソミュールの「Combier distilleryはJade Liqueursの生産を請け負って名を挙げました。パスティス的な“Elie Arnaud Denoix 69”の「Elie Arnaud Denoix」はコロール・ラ・ルージュ(Collonges-la-rouge)、甘味強い“Montania des Alpes”の「Montania distillery」はシャンヴェリー(Chambery)にあり、各地各自の価値観で頑張ってる感じです。

<仏南部>はパスティスの本場としてのアブサン大傍流エリアです。“Versinthe”の「Liquoristerie de Provenceはヴェネル(Venelle)、“Absente 55”の「Domaines de Provenceはフォルカルキエ(Forcalquier)にありともに日本でもお馴染みの生産者ですね。“ Manguin N’1”で注目のアビニヨン(Avignon)の「Distill.Artisianale Manguin」も近くで、このエリアは<地中海の黒い花>とも<パスティスの都>とも云われるマルセイユの周辺です。大西洋側のボルドーにも近いアルトエ(Arthez)の「Artez SARL」は、“La Muse Verte”の特別版をヴィンテージ毎に処方を変えて出す興味深い試みや樽熟成品などで注目を集めています。同エリアのテュレンヌ(Turenne)には“Elixir aux Plantes d'Absinthe”を出している「Distillerie des Terres Rouges」があります。

<その他> 一応本家の“Pernod Absinthe”は本社「Pernod Ricardがパリにありますが生産地は不明です。一応『原産国・フランス』って書いてはありますけど、「エッセンスだけスペインで作ってフランスでボトリングしてるらしい」とも聞きますが、あくまでも噂に過ぎません。関わりが強いと云われる「モンタナ」と比べてみればいいのかな?くどいようですが、噂ですよ・・個人的には「浸透法」だと思います。巨大な看板、世界中でアノ味にガッカリした人が多かったって事だと思います。最大のネーム・ヴァリューを誇り、鳴り物入りで登場したアレがコレ参照じゃあ印象ダメージが大きすぎですよ。別に超マズイって訳でも無く、名前と値段が正当ならマアマアのアブサンです。でも、象徴的な名前の銘柄なのは間違いないので、「アブサンってこの程度なのね・・」とか「あんまりピンと来ないけど、まだ分かんないだけかもしらん」って失望してフェイドアウトしかねません・・・私も騙されていました。値段だけは本格派です。

・北西部でイギリス対岸のルアーブル(Le Havre)には微妙な“Pere Kermanns”や不可解なトレーネの“ユニコーン(通称)”、を出している「Slaur Internationalがありますが、アルコール飲料なら何でも扱うネゴシアン的な会社の様に思われます。HPにも前者しか記載されていませんし生産地も不明で、“Hills”などのチェコ物に触発されて登場した、急ぎすぎた銘柄かと想像しています。この会社はブルガリア産と称していた“Hapsburg”シリーズも扱っていましたが、現在は「Wine and Spirit International Ltd」というロンドンの会社の扱いで、主にイタリアやフランスで生産している様です。

・最初期の輸入元「オザキトレーディング」の資料に、「トレーネとハプスブルグは、約200種類あるといわれる品種の中からArtemisia Vulgaris L(オウシュウヨモギ)と呼ばれる最も毒性の弱いニガヨモギが使われています。」とあります。しかし、Artemisia vulgaris はニガヨモギと同じキク科ヨモギ属の近縁種ですが、日本ではオオヨモギと呼ばれている別の品種です参照。情報が少ない頃の資料なので正否を問う感じではありませんが、もし記述の通りならトレーネの“ユニコーン”と“ハプスブルグ”をアブサンと呼ぶ事はできません。やはりニガヨモギ(Artemisia absinthium)を使ってこそのアブサンだと思うからです。

★の生産者/流通者は当店在庫銘柄もあります。)

・伝統ある蒸留所のスタンダード品の中には適正な価格ながらも本格的な味わいを持つお勧め銘柄も幾つかはありますし、高価格帯でしたら一線を越えた夢の様なアブサン・ワールドが待っています。成熟に向かいつつあるアブサン業界は百花繚乱の様相を成していますが、正規輸入品だけでは一端をもうかがい知る事はできません。早く日本にも輸入されてフレンチ・アブサンの本領を知る機会が増えるといいですね。

<安旨フレンチ・アブサン> とりあえず「Distillation法」による低価格帯に限って具体的に挙げてみました。なんと言っても“Emile Coulin”のハイ・コストパフォーマンス振りはダントツです。苦味強く充分な味わいで700ml/30ユーロを切っています!他では、“Libertine 55”、“Libertine 72”、“Pandor White”、 “Francois d'Argeys”、“Abisinthe 45”、“Un Emile 45”などが安旨アブサン・コンテストの出場資格保有者達です。<アブサン第二の地>と云われたフジュロル村が圧倒していますね。アブサン的基盤がハード面ソフト面ともに確立しており、本業のフルーツブランデーもAOCを取得するなど絶好調とあっては余裕もあるのでしょうか?そして、もちろん「Mixed & Macerated法」の中にも優秀な銘柄はありますから安旨アブサンの選択肢は意外と広いんですね。

<フェンエル規制解除!> 先日(2010年3月13日、フレンチ・アブサン業界にとって画期的な出来事が起こりました。製造・販売を制限していたフェンコン(フェンネルの精油成分)含有量の規制解除です。以前、フランス国内ではフェンコン5ppm(5mg/1g)以内の限られた銘柄しか正規流通していませんでした。必須成分の規制が新時代フレンチ・アブサンにとって大きな障害になっていたのは疑い様がなく、パスティス的な銘柄が多かったのも頷うなづけます。やっと、スタートラインに立った感じで、今後の変革が予想されます。とは言え、この規制内においても本格な味わいを持つ中堅フランス産銘柄は少ないながらもあり、<Un Emile>シリーズ、“Verte/Blanche de Fougerolles”などは一線を越える特筆すべき存在だと思います。逆に、なんでフランス産がチェコ・タイプ?と疑問に思っていた“Pere Kermann's”や最初期に活躍した“ユニコーン”、“ハプスブルグ”などのルーズな企画銘柄達は、存在意義が失われて行くことでしょう。既に、中堅銘柄の品位が上がり始める兆きざしが見え初めています。

<Absinthe表記解禁!> 2010年12月17日、フランスでの「Absinthe」表記が解禁になりました!そうなんです、本場フランスにおいては1915年3月16日に制定された禁止法の一部が効力を維持しており、フランス産のアブサンに「Absinthe」の表記ができなかったんですね!今までは、〜35ppmだと「Amer aux Plantes d'Absinthe」、とか「E'xteait d'Absinthe Spiritueux amer(輸入品)」、〜10ppmは「Spiritueux aux plantes d'absinthe (Wormwood plants based spirit)」と書かれており、「ニガヨモギを使った」というニュアンスの「d'Absinthe」で何とかしていました。今後は堂々と銘柄名に「Absinthe」を使う事ができます。この改正は、後述したスイスのGIT法案への対抗措置なのは言うまでもありません。

 ポンタリオ Pontarlier

・スイス国境近くのポンタリオ市は海抜約800〜1300bの丘陵高地帯にある人口2万人ほどの街で、アブサン始原地のヌーシャテルやクーヴェ村と同じジュラ山脈エリアに属しています。この地域伝統の薬用酒は商業化されていく過程で<時の女神>の微笑みに恵まれ、『absinthe』の名で広まりました。フランスの大需要に対しスイスよりも税的に有利だったポンンタリオは、「ペルノー・フィルス」の創業を機に商業アブサン発祥の地として大いに栄えます。1826年には4軒だった蒸留所が、禁止直前の1913年頃には22も稼動していたそうです。当時の人口は8000人ほどでした。現時点では下記のLes Fils d'Emile Pernotと有名な頑固親父の「The Pierre Guy Distillery(1890年)」が聖地ポンタリオの栄光を引き継いでいます。

・ In 1914, there was a total of 25 distilleries in Pontarlier (France), whereas in 1910, there were only 13 in the Val-de-Travers (Switzerland). This shows how famous absinthe had become in France. Indeed, although absinthe was born in the Val-de-Travers, it is in France that it really rose.

The Pierre GUY Distilleryは聖地ポンタリオで操業する個人生産者Francois Guy氏の蒸留所です。1890年に軍人だった祖父のArmand Guy氏が創業し、アブサン全盛期には名蒸留所として名を馳せました。禁止後もアニス酒やフルーツ・ブランデーの生産を続け、堅実な経営で存続した数少ない生き残りです。解禁後の2001年には地産ハーブの育成を始めてアブサン生産の準備を整え、2002年には家伝レシピによる銘柄をリリースしました。御意見番的な逸話などを聞くと、つい「頑固親父」とのイメージが付いてしまいますね・・・(HP

    
蒸留所の様子、創始者Armand Guy氏はコスプレの人?そして、何故かブドウ柄のラベル・・・そして曾孫のガブリエル君が四代目に・・・アブサンチョコレートもあるぜよ。

Francois Guy氏と言えば「知らぬはモグリ」的な有名人ですが、なんとアブサン銘柄は“Francois Guy”一つのみなんです!実に男らしい姿勢で<頑固親父度>がさらに上がっちゃいますね。しかし、ボトル容量ごとにデザインを考えるという芸の細かさには意外と繊細な一面も感じます。左から、1000ml、700ml、500ml、200mlフラスコ二種(ガラス/メタル)です。その気がある人は揃そろえたくなるんでしょうね。特に瓶に直接プリントしてある二本は何かいい感じ。太い瓶もズングリムックリで可愛らしいくないですか?でも、最初は何の色気もない瓶参照でした。(当店在庫は700mlです)

・で、その味わいは?と言うと、強めのアニス感が後押しする甘やかで優しい振る舞いが特徴です。45度という軽いアルコール濃度もメイン銘柄としては珍しく、特徴的なハーブ構成の背景として必須なGuy家伝来の濃度なのでしょうか?しかも、あまり知られていませんが bitter spirit なので高ツヨンなんですが苦味は前に出ていません。華麗さを誇る銘柄が増えた今、古臭いシンプルな味わいで意外な個性派・・・秘蔵アニス酒を思わせる、快適で爽やかな<渓谷の風>アブサン。(Distilled /45度)

・ポンタリオの<アブサンティアーデ>にて、2002年から三年連続でゴールデン・スプーンを受賞しています。地元の重鎮だし?しかし、この頃にあった銘柄や参加したであろう数を考えると順当な結果だったのかもしれませんね。

・そう言えば、Yves Kubler氏の「BLACKMINT」旧HPに、Francois Guy氏の“Pontarlier Anis"へのリンクが貼ってあり、ビックリしました。しかも商品紹介ページですから不思議ですね。本ページ冒頭の引用からの雰囲気ではKubler氏とは反目している感じでしたが・・・Kubler氏もアブサンは一銘柄だけで<頑固親父>的な共通点もありますから、会う機会が有って<犬猿の仲>→<肝胆相照らす>感じになったのかも知れませんね。

<45度のアブサン> 「Distilled法」で45度の色付きアブサンをリリースできる生産者は限られています。低いアルコール濃度では特定ハーブ精油や色づけの要になるクロロフィル(葉緑素)の溶解が困難な為、高い技術的が必須です。しかも、シンプルなコンポジションの中で個性を出さねばならず、ハーブ扱いのセンスも問われます。思いつく銘柄としては、この“Francois Guy”と、「Les Fils d'Emile Pernot」のUn Emile 45”、“Un Emile Sapin 45”、“Deniset-Klainguer” がポンタリオ参照Abisinthe 45Francois d'Argeys、がフジュロルの「Lemercier Brothers RS」参照。そして超高額のスペイン銘柄 “Segarra 45”くらいしかありません。スイスでは最初期の“Kubler”が45度でしたが57度に変更、今では53度に落ち着いています。一流の生産者ばかりですね。ちなみに「Les Fils d'Emile Pernot」と「Lemercier Brothers RS」古くからの繋がり参照がある様で、それがコノ度数に関係しているのでしょうか?

・自社の銘柄は上記の“Francois Guy”のみでしたが、ついに販売戦略を変更して新しい銘柄をリリースしました。信じられないほどダサいラベルの“La Pontissalienne(1)です。しかし、2011年のアブサンティアーデにて次点の金賞を獲得・・・地元の有力者ですしね。ただ、前年の2010年アブサンティアーデにて30本限定の10周年記念ボトル“Guy-10eme Anniversaire des Absinthiades(2)を出しています。ポンタリオにある二軒の蒸留所で分担しLes Fils d'Emile PernotがBlanche(3)Francois Guy氏は Verteの方を担当しました。もっと以前には有名なアブサン博物館 『Musee de l'Absinthe』を主催する女流アブサン研究家マリー・クロード・デゥエラ (Marie-Claude Delahaye) から依頼されて“Le Fee XS Francaise(4)の蒸留も請け負っており、家伝銘柄“Francois Guy”に続く新銘柄の研究も怠り無く進めていた様です。ちなみにXSシリーズのBlancheにあたる“La Fee XS Suisse(5)の担当はクーヴェ村のクロード・アラン・ブニヨン氏です。

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Les Fils d'Emile Pernot はスイスとの国境境にあるポンタリオの特殊性を象徴するアブサン生産者です。最初期のプロデューサーとして有名なフリッツ・デュバル(Fritz Duval)の流れを汲む「Emile Pernot et Cie(1889年〜)」として創業。アブサン禁止後はアニスやジェンティーン(リンドウの根)のリキュールやフルーツブランデーを造ってきました。2001年からアブサン生産を再開し“Un Emile”をリリース。2005年に近代的な経営形態を整えた後、2006年に吸収合併した「Deniset-Klainguer(1867年〜)」をdistillery Pernot Klainguer」として稼動させ業務拡大します。巨大企業になったペルノー・リカール社の現行アブサンを飲んで悲しい気持ち参照になる人は、この生産者こそがペルノー系正統継承者の名に相応しいと感じてしまうのではないでしょうか?って言うか、アブサン業界の実力No1生産者だと確信しているのは私だけではないでしょう・・(HP)

・最新(2010/9/28)の情報によると、蒸留所を移転してリニューアルしたそうです。もちろんポンタリオに至近の La Cluse-et-Mijoux という場所で、50kmほどの距離です。新しい展開を目論んでいるのかもしれません。

<デュバルの系譜> 初の本格的商業近代アブサンを出した「Dubied Pere et Fils」は、デュビエ公爵、実子Marcellin、娘婿のアンリ・ルイ・ペルノー、そしてフリッツ・デュバルによる先駆的存在でした。始原地クーヴェ村(1798年)からポンタリオへ移動(1805年)しましたが家庭内争議が起こり、アンリ・ルイ・ペルノーは「Pernod et Fils」を起こして独立しました。商才あふれる逸材を失った後も「Dubied Pere et Filsは順調に稼動し、1872年にはデュバル家も共同経営者になって「Dubied et Duval」と名称変更。その後、デュバルの息子Henri-Francois Duvalが独立して起こした「H.F. Duval」(1879年)が Parrot兄弟の「Parrot Freres」に吸収されると同時に、フジュロル出身のEmile-Ferdinand Pernotが参入して、ポンタリオに「Emile Pernot et Cie」を創設(1889年)します。“Emile Pernot”という銘柄で評判を呼び、1910年の時点で45000L/年の生産量だったそうです。現在の「Les Fils d'Emile Pernot」の前身です。

<フリッツ・デュバル(Fritz Duval、1758〜1844年?)> に関しては詳しい情報が出てきません。少ない記述によると、デュビエ公爵の従兄弟で同じレース商人だった様です。高級レースを扱っていた商業ルートがベルギー経由でイギリスまで伸びていたのは当然で、フリッツ・デュバルの名は富裕層に名が通っていたのではないでしょうか?ラベル(1〜3)や看板(4)などに個人名が表記されている例は少なく、何らかのブランド性が確立されていなければ不自然だと思います。ちなみに、デュバル家は靴下の製造も行っていた様ですが、紡績工業は産業革命の肝とも言える程の重要産業でした。ここからの利益が潤沢な資金となり、商業アブサン始動への投資が可能だったのでしょうか?

ベルギーのブリュッセルは18世紀半ばまで英国向けのレース産業で栄えていました。19世紀以前のヨーロッパではレース自体が生活に密着した必須日常品で、イギリス議会は国貨の流出を防ぐためにレースの輸入を禁止(1662年)した程です。しかし、膨大な国内需要を賄いきれずブリュッセル・レースの密輸は暗黙の必要悪として黙認されていました。しかし、インドのモスリン地の登場(18世紀末)やフランス革命の勃発(1789年)などでレースに需要も低迷し始め、レース商達は各自の流通ルートを用いて様々な商品も扱う様になっていきます。18世紀中頃から始まった産業革命の進展はレース業界にも決定的な変革をもたらし、1809年に機械織りレースが登場。レース商達は新たな活路を模索せねばなりませんでした。

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・最初期のラベル(1)では< フリッツ・デュバル>の名、<1798年創業>と<クーヴェ>の文字が確認できます。(2)はポンタリオ時代、(3)はクーヴェに戻ってから、(4)の広告看板では、クーヴェ、ポンタリオ、ブリュッセル(イギリスへの輸出拠点?)に拠点を置いており、広範囲に活動していた事が示されています。しかし、何と言っても注目すべきは Kirschwasser の赤い文字ではないでしょうか?かなり以前から、フジュロルと深い関系があった事を暗示しています。Kirschwasserはドイツ西部の名産品でしたが、16世紀にはサクランボの育成に適したフジュロルにも伝わり定着しました。19世紀前半には圧倒的な生産量を誇っていたそうです。(5)は印刷の精細さから推測すると、「Dubied et Duval」と名称変更する前の後期ラベルかと思われます。

<フジュロルとの関連性> 「Emile Pernot et Cie」が創業(1889年)した同時期、フジュロルに「L. Lemercier & Duval(1890年)という会社が創設されており、二つの名産地を繋ぐ補給ラインとして強い関連性を感じさせます。上記の事などからも推測できる様に、デュバル家の家伝にフジュロル特有のキルッシュ的技法が加味されて来たのは間違いないとか思われます。つまり、「Les Fils d'Emile Pernot」の特質は、アブサンの真髄とも言えるデュバル的遺産と <アブサン第二の地> フジュロルの特異で高度な技法が融合した稀なる複合性を保持している点にあるのではないでしょうか?しかも、代々伝わる銅製のEgrot式蒸留器を含む施設なども得がたい宝物で、特別な銘柄に使われています。

  
アブサン専用として作られた本物の大型 Egrot type Alambic は同社のシンボルとも言える貴重な存在です。

<外部からのサジェスチョン> イギリスの有力な流通業者<LdF>との繋がりが強く、アブサン復興最初期に優秀な本格銘柄をリリースしてきたのも<LdF>の名プロデューサーDavid Nathan-Maister氏の助力が大です。って言うか、この時期にこんな企画を現実化するには「Les Fils d'Emile Pernot」の潜在力無しで不可能だったのも事実で、お互い様ってところでしょうか?以降、このコンビは固有銘柄以外にも多くの特別なアブサンをリリースしてきました。注目の“SAUVAGE”を筆頭に “La Berthe de Joux (ラ・ヴェフトュ・デ・ジュー)”、“La Maison Fontaine ”、“Roquette 1797”、“Doubs Mystique”、“Vieux Pontarlier”、“White Fairy”、“Wormwood Blanche (終売)”、“1797 (終売)”、“ L'Artisanale (終売)” など挑戦的かつ優美なキラ星達・・・これらの銘柄は斬新なコンセプトで先導してアブサン市場の方向性を決定付けてきました。

・他のコラボレーションとしては、<VdA>による “Belle Amie/美貌の淑女”と“Perroquetペロケ/オウム”、<ALANDIA>の依頼による1000本限定の高級銘柄“Partisane”があり、その実力を別のステージでも見せ付けています

<アニスに関する特徴的傾向> 同社のスタンダード・ラインと言える <Un Emile> シリーズは、一般的に重視されている白濁率が低い傾向にあります。この事からグリーン・アニス(ココはスターアニス未使用)の使用率が低いのでは?と推測されますが、アニス的嗜好性の強いフランス産としてはリスキーなスタイルだと思います。スイスとフランスの美点を併せ持つ特別な街、ポンタリオならではの方向性なのでしょうか?派手な喧伝などが無く地味な存在ですが、古い安全なスタイルに捉われない新世代アブサンを模索しているのかもしれません。白濁という魅力的なアイコンを犠牲にしているにも関わらず、フォーラムなどでは評価の高い信頼の味わいです。お試し下さい。「 Weak appearance aside, this is a decent middle shelf absinthe. (白濁の弱さはさておき、棚の中央に置くべき良い銘柄)」,「Un Emile 68 is a fine and real Pontarlier absinthe, (素敵な本物のポンタリオ・アブサン) 」,「Its straightforward, clean balance is at least as refined as the best of the Swiss La Bleues. (簡潔で明確なバランスはスイスの最善なLa Bleuesと少なくとも同じくらい洗練されている)」

重要な生産者だけに説明が長くなってしまいました。次項からが「Les Fils d'Emile Pernot」銘柄の紹介です。

<現代アブサンの頂上を飾るトップ・ライン> 充分すぎるラインナップを誇る「Les Fils d'Emile Pernotですが、その躍進は留まる所を知りません。この<トップ・ライン>銘柄達は市場の要請とは全く無縁な動機で現出しており、世事に囚われ危うい状況に陥りかねないアブサン業界に示された黙示録の様です。よほどのベテランでもないと看破できない啓示に満ちた新領域・・・異次元の美しさ故に本質が見えにくい、という困難な状況をも引き起こしているのではないでしょうか?目をつぶって通り過ぎるか、自分の感覚を試すつもりで手にとってみるか、二つに一つしか手はありません。

・さらに深化する、温故知新コンセプト・ 全盛期の本場にもかかわらず長年の禁止期間を経たフランスでは伝統も技術も絶え消えて代用品(パスティス)にその座を譲り渡してしまいました。そんな哀しい歴史を持ちながらも失って久しい<本場><伝統>と言う権威づけだけを頼りに復興せざるを得なかった現代フレンチ・アブサン・・・ベル・エポック期、ほとんどの生産者が家内工業規模で(極々一部の例外を除くと)運良く見つかった古レシピも簡単なメモ程度・・・「家伝の古レシピを基に再現!」と喧伝する銘柄も多いですが<再現!>とまで言える程の詳細な資料は望むべくも無く、商業的にも安全圏内での現代向け再構成にならざるを得ないのはいたし方ありません。処方の根拠や独自性が明確に示されていない「新たに発見された古レシピを基に再現!」なる文言は<錦にしきの御旗みはた>に過ぎない?とは言い過ぎなのでしょうか?

 しかし、“Roquette 1797”という妄想的懐古銘柄を世に問うた<Archive Spirits>の姿勢は半端じゃないですよ。学究的とも言えるシリアスな方向性で突出しているだけではなくその攻撃的なコンセプトには驚きを隠せません。<再現!>なんて文言とは無縁な方向性、簡単に言えば<LdF>を擁ようする「Oxygenee/Cusenier社」の豊富な資料を基に超マニアックな方々がヤリたい放題・・・あっ、言い過ぎました・・・理想追求に徹底した姿勢を貫いています。そして、第二弾の“SAUVAGEも際立った存在感!って言うか、野獣けだもの遂に、ここまで掘り下げた銘柄が登場するようになってしまったんですね。 (2011年7月29日リリース)

<Archive Spirits>

SAUVAGEの日本語読みは「ソバージュ」です。髪型だと例のチリチリ頭、人間だと野蛮人って事なんですが、植物の場合は<野生の>って意味・・・はい、野生のニガヨモギを使っているんですね。近代アブサン最初期 のレシピ(1804年) を再現する為には栽培物では得られない野生の力強さが必要だったとか・・・恐らく、この時期にはニガヨモギの耕作は行われていなかったのでしょう。スイスでアブサンが製造され始めた頃に使われたであろうニガヨモギの直系株と言う点も大ポイントなんです。日常生活から遠く離れたジュラ山脈の自生ニガヨモギを採取したそうですが、一日中歩き回っても5kg位しか採れなかったとか・・・そんな訳で生産量には限界があり500本限定。再蒸留の可能性も少ない上、発売3カ月で終売してしまいました。「その辺のヘナチョコと一緒にすんなよ。ワイルドな Beast (野獣)だぜ!俺とヤルかい?」って感じ? (Distilled /56度/終売品★★★★

「It is a powerful absinthe with a lot of wild wormwood in it!」

・もう一つのアピール・ポイントは、現行銘柄中では最長とも言える18ヶ月の樽熟成。最新トレンドになりつつある古典技法も、しっかり折り込み済みです。それにしても、二年程前から作業が始まっていた事になり、かなりの確信がなければ不可能です。この手のシリアスな企画はマニア集団の<LdF>以外では無理!って感じですね。しかし、個人的には熟成が定法になるのは嗜好品として確立し始めた19世紀中期からなのでは?との疑問もよぎりましたが・・・

・下の文章には驚きました。とある専門家がテイスティングした時のトップ・ノートに関する印象なんでしょうが、“ラフロイグ”や“ラガブーリン”などクセ系アイラ・モルトが引用されているなんて前例がありません。かなり突出した個性を期待できます。1805年という年代から「洗練に向かう以前の荒々しいアブサン青年期を現出しようとした?」、と考えるのが自然な感じなんですが・・・伊達や酔狂で<Archive Spirits>が動くわけも無く、明確な狙いがあった事と思います。そして長期樽熟成と自生ニガヨモギという組み合わせが今までに無い魔法を起こしたのでしょうか?

『 One expert who tasted a pre-production sample of the Sauvage likened it to tasting Laphroaig or Lagavulin for the first time,』

・それにしても、初のアブサン企業「Dubied Pere et Fils」がクーヴェ村からポンタリオに拠点を移し、大看板 「Pernod et Fils」が独立して操業を始めたのが1805年です。近代アブサンが本格始動する以前の1804年レシピとはどのような由来でいかなる内容だったのでしょうか?まだ薬用酒の域を出ていない事も考えられますが、1794年に記された Abram-Louis Perrenoud のレシピの例もあります。各地で商業的な可能性を秘めた発想が芽生えていても不思議ではありません。ちなみに、あのナポレオンが帝位に着いたのは同じ1804年の5月です。

・“SAUVAGE”の引用元は<LdF>の David NathanーMaister氏秘蔵の未発表レシピ群 Roquetteからです。妄想的な構築力で実現した前作 “Roquette 1797に比べると具体性を帯びた作業コンセプトですが、別の意味でのマニアック度は増したような気すらします。ほぼ完全に非商業的なアプローチと言っても良く、こんなにシリアスで学究的なアブサンを求める人がどれくらい存在するの?と思っていました。ですから、「事前予約だけで300本が捌けた」と聞いた時には驚きましたね・・・数年前とは大違いで、数寄物すきものが増えたって事なんでしょうか?アブサン市場が予想外に拡大している感がしました。

・リリース予告されているRoquetteレシピは、1731年版と1912年版が残されています。どちらも微妙な年代・・・<Archive Spirits> が今後どのような展開を目論んでいるのか?2011年9月のレターでには 「Although we have to resist saying too much at the moment, we'll have some VERY interesting news soon on Archive Spirits creations coming in early 2012... 」とありました。楽しみですね。

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<もう一匹の野獣> 意図的に野生ニガヨモギを使ったアブサン銘柄が他にもあります。フランス/ヴィシーに新設された最近話題の蒸留所「l'Absintherie Bourbonnaise de Vichy」が繰り出してきた六番手 “Raisonnee”。発売時期もSAUVAGEとほぼ同じで、下記のように野生ニガヨモギを採取しています。しかし、基本的な方向性は異なり、かつて無い新しい解釈を導入してるんですね。「Muse de France/Frenchman Ltd」による斬新でエキサイティングなコンセプトです。参照

『The grand wormwood and genepi in this absinthe are accompanied by some rare species of artemisia, or wormwood, found growing at 2000 metres of altitude and above - that's 6,500 feet! These plants have been painstakingly tracked down and harvested especially for Absinthe Raisonnee. 』

<新しい解釈> 最終工程の 「the coloring step」 に必須の Petite Absinthe (小ニガヨモギ )ですが、この俗称は Artemisia Pontica を指すとされてきました。しかし、下記の記述から「19世紀初頭のレシピでは Petite Absinthe (小ニガヨモギ )は高山植物のジェネピーを指していた」という仮説を前提に処方された挑戦的な銘柄だそうです。 Artemisia Ponticaの俗称が Roman wormwood でもある点から地域的に適切でないと考えられます。当時の植物分布図を見ないと分かりませんが、始原地とローマはちょっと離れすぎ?って事なんでしょうか?そして、従来のPetite Absinthe (小ニガヨモギ )=Artemisia Pontica という考え方も、現時点で最も有力ながらも一仮説にすぎないのも確かです。

『Petite absinthe (small wormwood) in earlier absinthe recipes didn't refer to the Roman wormwood (artemisia pontica), but to the alpine plant genepi.』

・今までの流れを考えると相当ショッキングな新解釈には驚きました。しかし、稀に珍しい素材としてジェネピーを使う例が無かった訳ではありませんが、明確な根拠を示した例は初めてです。ひょっとしたら、Petite Absinthe (小ニガヨモギ )=Genepi 説を主張する一派が存在しているのかも知れません。ちなみに、同蒸留所の“Boggy absinthe”セカンド・ヴァージョンも類似の方向性で試行されたとの事・・・う〜ん、 味わいの方向性という形而下学的な野獣SAUVAGEに対して、「l'Absintherie Bourbonnaise de Vichy」こそが形而上学的なアブサン解釈の野獣とも言うべき存在ですね・・・小難しい本を読んだばっかりなので、 ちょっと頭良さげに例えてみました。

・さらに進化する、ハイクオリティー・コンセプト・ 伝統と言う権威に頼らざるを得なかったフレンチ・アブサンは、古レシピの再現にしか説得力の根拠を持ち得ませんでした。長い禁制期に完全に断絶していたからです。しかし、遂に新たなる扉を開く時が訪れたのでしょうか?現代フレンチ・アブサンの未来に向けて、大いなるジャイアント・ステップとも言うべき決定的な展開か?Best of the best !

La Berthe de Joux (ラ・ヴェフトュ・デ・ジュー)”こそ<新しい扉>なのではないでしょうか?禁止以前のレシピ再現という考証的な作業を経ねばならなかったフレンチ・アブサンもその時期を終え、次の段階を迎えた事を感じさせる存在の様に思います。新たな主任蒸留師に任命された Dominique Rousselet氏による第一号銘柄でもある点、処方の根拠を過去のレシピに背負わせていない点、他からの企画ではなく蒸留所の可能性を最高の形で現出させた点、などが今までとは異なる新章の幕開けを感じさせるのでしょうか?考証時代の成果を基に現代のアブサンとしての美意識を確立するという難行を果たせる生産者は、「Les Fils d'Emile Pernot」以外には考えられません。

・蒸留職人が外部の意見を一切入れないで、自らの美意識のみを頼りに作業した本来の姿。もちろん、ワイン・スピリッツをベースに地産のハーブを使い、シンボルともいえる伝来の銅製釜で蒸留しました。現時点での「Les Fils d'Emile Pernotの最高の姿がボトルに詰まっており、自ら<史上最高のアブサン>と語る半端ない自信作です。すべてのハーブが鮮烈に息づきながらも均整の取れたカオス状の美しさ。スパイシーで男性的な味わいを持ちながらも、優しく包み込む大きな懐ふところは絹の肌触りで魅了し、花の香りに惑わされて夢遊病状態・・現代アブサン理想の姿を現出させた稀なる一本です。ただ、この銘柄の本当の凄さを感じるには高い経験値が必要なのかもしれません。でも、「これ、凄く美味しいね!」でOK!なんじゃないでしょうか?是非ともお試し下さい。(Distilled /56度)

<快挙!> 生産者との関わりが無く評価が厳しい事で有名な「Wormwood Society」のレヴューにおいて、初めて満点を獲得した快挙は事件と言っても過言ではありません。ベルエポック期のビンテージ物ですら、こんな高得点は得られませんでした。「古典的な美点とモダンな感覚が両立した、完璧な飲み物!全ての点において非のうちどころが無い・・」こんなレビューがこのフォーラムで記述されるなんて信じられない・・・・ほとんど全ての評価者が手放しで拍手を送っており、いきなり頂上銘柄の仲間入りを果たしました。当面のライバルは“Brevans A.O. Spare”?

<エッ、銀なのッ?> 10回目を迎えた「アブサンティアーデ2010」において、Vertes categoryの銀賞(シルバー・スプーン)・・・えっ!金じゃないんだ・・・金賞を獲得したのは、他と明らかに異なる味わいが印象的な“Maldoror”でした。こんなトリッキーな銘柄が金・・・一般参加票が意外と多い<アブサンティアーデ>の村起こし的お祭り気分をよく表した結果になってしまったのかな?と思います参照。「“Berthe de Joux”こそがぶっちぎりの金だろ!」と憤慨している業界人が多いんでしょうけど・・・最近、本当にシリアスな銘柄は<アブサンティアーデ>にはエントリーない傾向があるようです。

・Blancheの新たなる領域 ・ Blanche と言う透明なボトルは踏み絵の様なもので、ボトルの向こう側に生産者の姿が分かりやすく浮かび上がってきます。座標軸の位置(価値観)、ベクトルの向き(方向性)、ベクトルの絶対値(実力)などがあからさまに示される、ゴマカシの効かない怖すぎるカテゴリーなんです。2種類以上の Blanche をリリース出来る生産者はトップ・クラスと言っても過言では在りません。そして、このニュー・ジャンルを当初から追求し続けて独走状態にあるのが「Les Fils d'Emile Pernot」です。って言うか、様相の異なる数種のBlancheをリリースしている生産者は他には無いんですね。最新の Blanche銘柄La Maison Fontaineの到達点はアブサン愛好家達のはるか先を歩んでおり、最も洗練された史上最高の姿を見せてくれます。

<LdF>

 La Maison Fontaine”は、新時代に向けた斬新なコンセプトによるプレミアム銘柄。無色透明で56度のアルコール度数というスペックはスイス物を意識しているのは明らかですが、リコリス的要素による味の均一化というLa Bleueの弱点を克服しました。グリーン・アニスを最小限に抑える事でマスキングされがちな要素を表出させ、複合的なハーブ・コンポジションを浮き彫りにしています。それなのに、アニスが担う美しい白濁は失っていません。相反する要素を高いレベルで両立させる困難で画期的な試みを成しとげ、新世代アブサンの可能性を示しました。楽しく語らい合うハーブ達の饗宴に、そっと佇たたずむアニスの存在感。そのフレッシュで爽やかな味わいを例えるならアブサン・キュイジーヌ?とてつもない余韻が心地よい。( Distilled /56度/HP

・この銘柄の依頼元は「Metropolitan Spirits Ltd」で、プロデューサーはDave Hughes氏です。最もシリアスで最高の権威を確立している酒類評価団体<International Wine and Spirits Competition>の主席選定委員(senior judge)を30年も務め続けてきた「最も知る男」の一人!アブサン業界外ならではの視点を持つプロフェッショナルから、説得力にあふれた貴重な要件が提示されたのは間違いありません。アブサン処方家の長年の夢だった「最小限のアニスで最大限のアブサンらしさ」を叶える事ができるのは<LdF>と「Les Fils d'Emile Pernot」のスーパー・タッグだけです。今年のトップ・ニュースとも言うべき特別な銘柄をお試し下さい。

・個人的には、“Un Emile La Blanche”から派生した高位銘柄かと捉とらえています。あの素晴らしい“White Fairy”の兄貴分って感じの位置付けでしょうか?ただでさえアニス少なめの生産者なのに、さらに行っちゃったンですね・・・スタイリッシュかつクールかつモダンかつシンプルかつスクウェアなボトルデザインは、やっぱアメリカ狙いですかね?ルックス的には全然そそられませんけど・・・購入しました。

・アニスを少なめにした処方は「Artemisia Distillery」の“Angelique No.2 Fortissmo 72”“Angelique 68”などにも見られます。しかし、こちらは苦味を強く出しており調和性よりも分かり易いインパクトを重視している印象です。先進的な二つの生産者の方向性の違いが如実に感じられ面白いです。値段帯も同じなのでぶつけてきた?のかもしれません。ひょっとして、<LdF>対<ALANDIA>?って事はDavid Nathan氏とHans-Peter Fuss氏のライバル代理戦争?んな訳ないですね・・・話を面白くしようとして走りすぎましたか?あり得るけど・・・

シリアスな「I・S・W・C」でも2010年の金賞と Best in Class 。2011年の「Absinthe Masters competition」では金/銀賞。10回目を迎えた「アブサンティアーデ」においては、Blanches categoryの金賞(ゴールデン・スプーン)を獲得しました。つまり、プロ、アマチュアの両方から高評価を得ているという事で、順当な結果だと思います。

<問答無用のスペシャル・ライン>が以下の旗艦的三銘柄。最高の原材料と熟練の職人技を全てを投入し、時間をかけて丁寧に造られる極少量生産の特蒸品です。最も実力を持つ蒸留所が満を持して世に問うた珠玉の作品達に何処どこの誰が文句を付けられるのでしょうか?古き善き時代を偲しのぶ懐古的な“Roquette 1797”、アブサンの現代的姿を提示する“Doubs Mystique”、将来を見据えたグローバルな“ Vieux Pontarlier Absinthe Francaise Superieure”という三位一体による温故知新的なプロデュースには、<過去⇔現在⇔未来>という流れの中で何かを模索する姿を感じ、飲み手側の意識向上を夢見た企たくらみの様にも思えます。

<Archive Spirits>

・“Roquette 1797”は、ボロボロの羊皮紙に書かれた古いレシピを基に処方されたそうですが、懐古的というよりは積極的な回顧性と言った方が似つかわしい様に思います。1797年は近代アブサン誕生を決定付けた年と言われているので、記念すべき初の商業アブサンのイメージ再現?通常のアブサンでは使用しないルッコラ(ロケット)についての言及もありました。その経緯や企画者の顔ぶれから、マーケット・ニーズなどは考慮せず妄想の赴おもむくままに処方した雰囲気が濃厚です。かつてワン・パッチのみでリリースした終売品“1797(限定200本/右)が前身銘柄だそうで、昨日今日に始まった企みではありません。

『Roquette 1797 was just a faded brown ink recipe on tattered parchment (ボロボロの羊皮紙),』

・レシピだけからの復元はイメージ力に負うところが多いのは明らかで、真性アブサン・クレイジーの頂上的な感覚が垣間かいま見える貴重(異常)な銘柄とも言えるかも知れません。曖昧あいまいなテイスティング・レポートが多く、曰いわく「スパイシーで、極めてユニークな味わい」・・・最高級銘柄に対してユニークなる表現は珍しく、一般的な価値基準を拒むかの様です。飲み手の度量が試される踏み絵的銘柄?(Distilled /75度)

・“Roquette 1797”はレシピ再現銘柄としては特筆すべき存在です。<LdF>のプロデューサー David Nathan氏とアメリカのアブサン・クレイジーPeter Schaf氏の二人による共同作業というビックリ銘柄なんですよ。<アブサン三羽烏>の二人が絡んでいるという点は見逃せないんですね。恐らく、この頃に動き始めた三羽烏のもう一人で復元名手T.A.Breaux氏の「Jade Liqueurs」(David Nathan氏も協力)にインスパイアされたのではないでしょうか?

<1797年>は、商業アブサンの祖ともいえるアンリオ姉妹がフランスのレース商人だったデュビエ公爵 (major Daniel-Henri Dubied /1758〜1841年 )にレシピを売却したとされる重要な年です。デュビエ公爵と娘婿の御大アンリ・ルイ・ペルノー(Henri Louis Pernod )、そして フリッツ・デュバル (Fritz Duval )らによって設立された「Dubied Pere et Fils」こそが初のアブサン企業として近代アブサンの礎いしずえになりました。後にアンリは独立し「Pernod et Fils」帝国を築き上げます。詰まり、本格的な商業アブサンが産声を上げた記念すべき年なんですね。

<“Roquette”とは?> 後述の「Paul Devoille」による<VdA>の再現銘柄として、“Roquette”由来による1899年以前の“La Coquette/浮気女”と1900年以降の“L'Enjoleuse/誘惑する女中”の二種がリースされています。そしてこの“Roquette 1797”の登場ですから、時系列的には“Roquette”の存在は100年以上も続いていた事になるんですね。しかし、“Roquette”というアブサン銘柄の存在を示す記述は見つからず、個人的な <アブサン七不思議> の一つでした。

・謎が解明しました!「Oxygenee France Ltd,」のMarc Thuillier氏によると、Roquetteとは David Nathan Maister氏が秘蔵する未発表レシピ群の事だそうです。つまり、内輪の隠語だったんですね・・・「Oxygenee」内のRoquette専用特別プロジェクトと思われる<Archive Spirits>のHPでは、オルデネール医師の愛馬の名がRoquetteだった事に由来すると記述されていました。この馬に乗りトラヴェール渓谷を駆け巡って薬草採取に励んだそうです。

・1731年版、1804年版、1912年版の“Roquette”レシピがリリース予定、とのインフォメーションがあります。前者は1769年に新聞広告を出していたアンリオ姉妹以前の記録なので、近代アブサン以前の薬草酒なのは間違いありません。そして、2011年7月に1804年版“Roquette”レシピを基にした第二弾 “SAUVAGE” がリリースされました。

Further releases in the Roquette range are in the pipeline, including a "1731", an "1804", and a "1912", all based on original unpublished manuscripts.

<“Authentique”> 限定品だった“Roquette 1797”ですが、セカンド・ラベルが登場しました。新銘柄“Authentique”です。度数を65度に落とし、銘柄名だけでなくラベルもボトルもリニューアルされました。“ Vieux Pontarlier Absinthe Francaise Superieure”と同じボトルなので、このラインに入れ替えでライン・ナップされると考えて良いのでしょう。2011年10月のアブサンティアーデにてデビューを果たし銅賞を獲得しましたが、「in my opinion it(“Authentique”) certainly deserved to be placed much higher.」と順位不適切を明言する某有力サイト販売もありました。販売サイドがこんな記述をするのは珍しいんですが、個人的にも一票・・・まぁ、アブサンを飲んだ事ない人でも票を入れれるアブサンティアーデじゃしょうがないですよね。よほど飲みなれた人で無いと分かりづらい独特の世界観を継承しているので、万人向けじゃないし・・・価格を抑えたセカンド・ラベル的な感じで通年販売される様です。嬉しいな〜

  

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・美神Doubs Mystique”が示唆するのは100年近くものブランクを経て復興した現代フレンチ・アブサンのあるべき姿?様々な要素の進化を背景に「最高の現代アブサンは最高の古き善きアブサンを凌しのぐべきだ」と主張しているかの様な銘柄ですね。特にフランスの銘柄は過去の呪縛から逃れ得ない状態が続いており、生半可な造り手では新しい価値観を提示できないのではないでしょうか?でっ、でも、500mlで49ユーロか・・あっ、HPもあるっ・・・

・“Doubs Mystiqueの複合的ながらもスムーズに切れるモダンな味わいこそがEmile Pernotの考える<最良の現代アブサン>の姿です。今にも崩れ落ちそうで際きわどい、でも、最高のバランス!(Distilled /65度)

2008 < International Wine and Spirits Competition> Double Gold Medal - Best in Class

Doubs Mystique”の銘柄名には???な由来がある様です。2005年に南アフリカ!で造られ <遠い異郷のエキゾティック・アブサン> として話題を呼んだ銘柄がありました。前ヴァージョンの”Doubs Premium - Les montagnes du Jura(右/不在)です。南ア産ゆえに許されたのか「maximum permissable thujone」の表示も話題にもなり、さほどは評価も悪くはありませんでした。 しかし、あの<頑固親父>フランシス・ガイが産地詐称まがいの表記に異を唱えた経由があったそうです。南ア産アブサンにトラヴェール渓谷のあるジュラ(Jula)山脈の名を使うのは確かに不適切です。しかも鮮やかなグリーンは明らかに人工着色な上にMixed & Macerated法とか・・・全く別物のシリアスで高価な特蒸銘柄にイメージ継承させた理由は不可解で、個人的にアブサン業界七不思議の一つです。「 What an amazing transformation from its earlier namesake!(前身の銘柄と比べると、驚嘆すべき変身ぶりだ!)」とか「The only thing it has in common with its predecessor Doubs is the shape of the bottle and the name (共通点と言えるのはボトル形状と名前のみ!)」なんて言われちゃってるし・・・

・上記の前身Doubs Premium - Les montagnes du Juraは“Doubs Premium Absinthe”として密やか?に販売されている様です。このサイトにて発見しました。現状のツヨン濃度は〜10ppmの様で、アルコール度数も55度です。アメリカ市場を前提としているのか通常のアブサン専門の販売サイトでは全く見掛けません。Emile Pernot et CieDoubs Mystiqueとは全く関係ないエリアに生息している印象で、従来のアブサン愛好家から距離を置いているのは上記の事情などが絡んでいるからかもしれません。新しいターゲット層を狙っているせいか促販戦略は相当ガッツが入っています。各種の広告用アイテムが用意されており、下のスプーンやトランプ!などはその一部。アメリカ向け銘柄の“ルシッド”、“オブセラ”なども同様のアプローチです。ちなみに、発売元は年間15万gのスピリッツを世界中に送り出している南ア最大手「Edward Snell & Co.LTD」 なんですね・・・

 

『Doubs promotional material includes a privately commissioned collection of Doubs artwork, TV commercials, trademark perforated absinthe spoons, traditional branded absinthe glasses, light boxes, a massive assortment of promotional gifts, and many other fascinating materials. 』

・“ Vieux Pontarlier Absinthe Francaise Superieure”は、既に各メディアやコンペティションでの栄誉を獲得(下記)して高い評価を確立しています。旧来の価値観や地域的偏りが強い<アブサンティアーデ>に出品が無い点も見逃せません。近所の生産者なんですが・・この生産者の少量生産特蒸品は懐古的な“Roquette 1797”や現代的な“Doubs Mystique”が既にリリースさされており、次なる目的があるかと思われます。懐古、現代ときたら次は未来でしょ・・やっぱ・・・

・極めて多層的なハーブコンポジションを持ち、伝統的手法を大胆にアレンジした過激なシナリオが口中でドラマチックに展開します。飲み手の肝きもを問うかの様な、カオス渦巻く抽象劇。(Distilled /65度)

2008 「Esquire Magazine」 Top Pick
2008 <San Francisco World Spirits Competition> Double Gold Medal - Best in Class
2009 「The Spirit Journal」- 5 Stars - Highest Recommendation
2009 <San Francisco World Spirits Competition> - Hors Concours
2009「Sante Magazine for Restaurant」 Professionals Gold Sta
2009 「Gourmet Magazine」 Top Pick
「Esquire magazine」 ーAn absolutely classic French absinthe. As good as it gets.ー
「The Spirit Journal」 ーThe gold standard for the Absinthe catagory.ー

・意外とうるさいアメリカを狙っている気配は濃厚で、グローバル市場向けの処方が成されているのではないでしょうか?フランス語が×な人の為に「pronounced 'View Pon-tarr-lee-ay'」と発音指導まで記載していますからね。<世界制覇への足がかりとなるべく送り込まれたポンタリオからの刺客>って感じの銘柄名じゃないですか?日本への正規輸入も決定しました。

<苦渋の時期を耐え、復活を果たした定番スタンダードライン> 禁制後はリキュールなどを製造してきた同蒸留所が<LdF>との共同開発でリリース(2001年)した<Un Emile>シリーズこそ、<現代本格アブサンの始発点>とも言えるエポックメイキングな重要銘柄です。しかし、最初期の本格銘柄として規範を示した後、徐々にリリースされ始めた高位銘柄達の後塵を浴びる時期もありました。特に、ニュージャンル故に実験的な手法を取らざるを得なかった“Un Emile La Blanche”が苦しかった様です。2005年、経営体制が変わったのを契機に大幅な見直しが行なわれ、飛躍的な品質改善を成し遂げます。心機一転、新ラベルに変更されたリニューアル・バージョンが見事な高評価を得、見事にトップ・カテゴリーへ返り咲いた事は静かな話題となり喝采を浴びました。

『 So nowadays we think it's worth taking a look at this product and "re"-welcome it back on board! 』

・“Un Emile 68”に関しても順風漫歩という訳ではありません。なんと言っても現代アブサンとしては最古参の本格派です。「インンパクトに欠ける地味な定番」として業界全体の流れに置き去りになっていた感もありました。しかし、2010年の蒸留所移転を期に大幅な見直しが行われたそうです。その結果、さらなる品位向上を成し遂げて業界の評価も上々。下記に様な記述も為され定番銘柄としての地位を揺ぎ無いものにし、歴史的存在意義もさることながら時代に応えうる潜在力をも示しました。“Un Emile La Blanche”と共に、アブサン店のラインナップとして必須の銘柄です。

『Since the distillery moved to La Cluse et Mijoux just 5km outside Pontarlier, things started to change for the better. We think that recently this product is a bit overseen, however it's a pretty good one we strongly recommend. Its nice wormwood texture and not that overpowered anise flavor is well balanced and the natural coloration adds a some nice complex undertones to the whole concept.』

1)2)3)

1) “Un Emile 68”は Emile Pernot社の座標軸的な銘柄です。それは聖地ポンタリオの象徴的存在と云うだけでなく、フランスを代表する一本である事をも意味します。白濁が少なめにもかかわらず主流系アブサンの指針とも云える存在感!高い技術のみならず伝統の息吹と揺るがぬ信念を感じるさせ、揺るがぬ大樹の様な立ち姿で魅了します。マストアイテム!(Distilled /68度)

2) “Un Emile La Blanche” は、同エリアともいえる近隣のスイス・スタイルに似通っている様に見えますが、全く異なるコンセプトによるLa Blanche。最初期は“Un Emile 68”で行われている「coloring step」を経ずにボトリングされたダイレクト・ポット(蒸留直出し)でした。ニュー・ラベルではスイスのLa Bleue達に通ずる世界観(参照)も見せてくれますが、ハーブ使いとアルコール度数の違いなどからも別のツボを効かせてシビレさせてくれます。偏屈なLa Bleue信者をも、思わず肯うなづかせた傑作。シュープリーム!(Distilled /68度)

3) “Un Emile Sapin(サバン)”に は同社ならではのユニークなアレンジが光ります。“Un Emile 68”の最終工程に pain buds ( モミの芽) を加える裏技で新たなる扉を開きました。アブサン解禁以前から得意としていた特殊な高級リキュール類の技術が生かされ、絶妙な+αを加えるのに成功しています。45度のヴァージョンもあり、意外と力が入ってますね。よりミンティでフレッシュな柑橘系の香りを特徴とする無二の個性派。コレクタブル!(Distilled /68度)

)同社はアブサンをリリースする以前から、アニス酒以外にも Gentiane (リンドウの根)、 Sapin (モミの芽)、 Genepi (アルプス・ヨモギ)、Wild Strawberry (野イチゴ)、Framboise (木イチゴ)など、多種のリキュールをリリースしています。特に Sapin はここ周辺とアルザス地方以外のでは見ることのない特異な素材で、「 Replace the sugar in your absinthe by a little dose of Sapin liqueur, the result is surprising! 」とも勧めており“Un Emile Sapin”の存在は自然な流れの様ですね。又、高度な技術を必要とするオー・ド・ヴィ(蒸留酒)に関しての経験も豊富で、多種のラインナップを誇っています。歴史的背景も、実質的技術も、アブサンに必要とされる要素の蓄積量は他に例がありません。比べうる生産者はフジュロルの「Distillery Paul Devoille」だけではないでしょうか?

<LdFの特注銘柄は別格の洗練ぶり> 個人的に「Les Fils d'Emile Pernot」の一押しは何?と聞かれたら、この銘柄なんですね。いやみ無く洗練されていて派手に目立つポイントはありませんが、比類のない<普通の素晴らしさ>です。フランス/スイス物には珍しい60度という設定にも説得性を感じますね。でも、インパクトや驚きを求める方には、物足らないかも・・・

<LdF>

・“White Fairy”は“Un Emile La Blanche”の<LdF>特注チューンナップ版で、 Blanche系の一つの到達点とも言えるターニング・ポイント銘柄です。度数を60度に落としアルコールパンチを減らす事でアロマティックな美しさを追求しました。挑戦的なコンセプトながら穏やかな幸福感に満たされる名作です。さらにLa Bleueの世界観に近づきましたが、グリーンアニスのみの使用でリコリス的甘さを感じさせません(※)。La Bleue的な銘柄をスイス以外の場所で作るにはかなりの必然性が必要ですから、距離は近くとも溝は深くって感じですね。<LdF>の絡んでいない評価サイトでも「You should get it.(絶対買った方がいい)」ですって・・・実際、美味しくて驚きました。絶品ですよ!個人的な評価ではLa Bleueを凌駕しており、当店在庫銘柄中の三本指に入る美酒だと思います。ザ・ベスト!(Distilled /60度

<White Lady?> ちなみに、コカインの事を当時の隠語で「White Lady」と呼ぶんですが、関係なんか無いに違いありません。多分ですけど・・・ケネス・アンガー監督が自作「ルシファー・ライジング 」のサントラの件でジミー・ペイジとトラブった時に「彼はWhite Ladyとデキていて・・・」と語り、完成まで時間が延びたのは麻薬のせいだと非難したのは有名な話です。結局、ジミー音源はお蔵入りになって海賊版として出回りました。超高価だ取引されていましたが、海賊版の海賊版が出たので購入して聞いてみたら・・・芯の無い普通のドローン・ミュージックで、何の輝きも感じられず超ガッカリ・・・「しょせんジミーは半端オカルティストだったんだな、ダークサイド仲間の期待に応えられなかった一個人の苦悩が映し出されたドキュメンタリー?」と思いきや、ジミー名義なのに音は別人の作品なんですね。ブート業者が企んだに違いない!ジミーを首にした後、ケネスはサタニズム教会の仲間だったボビー・ボーソレイユに依頼しました。この人はチャールズ・マンソン・ファミリーの一員で、若頭的存在の切り込み隊長ですが、有名な「シャロン・テイト事件」が起きる直前に殺人事件で逮捕されていたのでムショの中・・・そんな訳で「ルシファー・ライジング 」のサントラは獄中録音です。

(※)<公然の秘密>ですが、スイス・アブサンのアイデンティティーとも言えるLa Bleue銘柄のなかには、スターアニスを併用している銘柄がはとんどです。高級品のグリーン・アニスは地産種ではなく、合法化以前は入手に手間が掛かった事でしょう。スターアニスならではのリコリス的甘味を好む人もいるので程良い使用は必ずしも×ではありません。しかし、安い材料で代用品のイメージが強い為なんとなく内緒で、自ら公言したりはしません。逆に「オレはアレ、ほんの少ししか使ってないよ・・」と、つい口に出しちゃってるLa Bleue 蒸留者もいるくらいです。「 As such, it also comes closer than our well-received “Un Emile La Blanche 68” to the style and alcohol content found in Swiss 'La Bleue', which is typically between 50 - 60 %, but“ White Fairy” uses no star anise, thus minimizing the 'licorice-like' taste. 」という記述でも暗示されていますね。

<La Bleueの抱える問題点> La Bleueの名声は<揺るがぬ岩の様に堅牢>ですが、一つだけ問題があります。ほとんどの銘柄が高いレベルにあるが故に?味が似通っている事実は否めません。多くのLa Bleue銘柄が狭く密接した地域で作られている為か、原材料や手法が均一化してしまうのかもしれません。有力販売サイトでも「どれを選んでも最高の満足感が得られるだろう。でも味は似た感じだよ・・」って書いてあったりするんですね。大吟醸の味が似てくるのと一緒なんでしょうか?そして、ドメスティックな制約のない<Blanche(無色透明なタイプ)>というジャンルは要注意です。今後も“ White Fairy”やBlanche de Fougerolles 74”の様に、La Bleueを凌しのぐ銘柄が続出するのは間違いありません。問題は消費者側が持っている<Verte(緑or黄のタイプ)>に対する親和(神話?)性で、「アブサンは緑色の酒でしょ?色が付いてないと気分が出ないよ」って印象(先入観)はベルリンの壁の様に厚いんですね・・・

・先日、某アブサン専門サイトから<Blanche(無色透明な新しいタイプ)>に興味を持っていない顧客に向け、「That's a pity because you are really missing out on a whole absinthe experience! (あなたが真のアブサン体験をしていないのは残念で悲しい事だ)」とのアピールがありました。同サイトの全Blanche銘柄を10%offで販売するというオファーです。ビギナーが訪れる事が少ないであろう洗練されたサイトなのに・・・とビックリ。やはり、見慣れた<Verte(緑or黄のタイプ)>に対する親和(神話?)性は侮れず、かなりの苦戦を強いられている様が伺えます。「アブサンは緑色の酒」という強烈なイメージの刷り込みを崩すのは至難の技で、消費者側の意識向上を促すしか手はありません。

<普及銘柄も本格派です・45度コンビ> つい高級銘柄に目が行きがちですが、普及クラスでこそ生産者の実力が如実に問われます。しかも困難な低アルコール濃度だし・・・

・“Un Emile 45”は<Un Emile>シリーズの普及版。「ん!45度なの?」と思われた方も多いでしょう。色付きアブサンの緑(黄)色を演出するクロロフォルムの溶解に必要な最低ギリギリの度数です。特定ハーブの精油も溶けにくく、限定されたシンプルなハーブ・コンポジションで処方しなければなりません。技術のみならずセンスも問われる極めて困難な設定だと言えます参照。この普及銘柄にも味のまとめ役として多用されるスターアニスを使っていませんが、必要充分な甘味とフレッシュでハーバルなバランスを成し遂げています。ニガヨモギとグリーン・アニスの<パ・ド・ドゥ>を目の当たりにできる「It is perfect to discover absinthe.」です。同エリアで同じ度数の“Francois Guy”と比べるのも一興ですね・・・  (Distilled /45度)

・“Deniset-Klainguer”は、2006年に合併した旧「Deniset-Klainguer(1895年〜)」の忘れ形見的な銘柄、という理由から同生産者では唯一の「Maceration(浸透法)」によるアブサンで、ラベルのデザインも継承している様です。甘味と苦味のバランスが絶妙で、浸透法ならではの優しい味わいを“Un Emile 45”との比較で実感できるのではないでしょうか。2007年の<アブサンティアーデ>で浸透部門の金賞を勝ち取った優秀銘柄としても定評を勝ち得ています。  (Maceration /45度)

・“Un Emile 45”のヴァリエーションとして、モミの芽のフレーヴァーで個性的な“Un Emile Sapin 68”の普及版“Un Emile Sapin 45”もあります。

・2011年2月のニュース・レターによると、『 Because we want you to discover the new version of the Un Emile 45 , a powerful absinthe with a unique upfront Pontarlier wormwood taste that has amazed the absintheurs who were lucky enough to taste it with us directly at the distillery. "A wormwood bomb" as they said, supported by a savoury green anise and a bouquet of fragrant herbs.』 とあります。“Un Emile 45”のニュー・バオジョンは "A wormwood bomb"だそうですよ・・・気になりますね。

<現代アブサンの道祖神・フランス> 復興間もないフランスのアブサン業界にとって、2005年のスイス生産解禁は脅威以外の何者でもありませんでした。禁制時に最高の評価を得ていたのは La Bleue と呼ばれるスイスの密造アブサンだったからです。La Bleue生産者とは直接の関わりを持たない<LdF>としては解決せねばならない重要課題が目の前に迫っていたのでは?と推測されます。

) <LdF>との協力関係で数々の名品を生み出してきた「Distillery Matter-Luginbuhl 」はスイスの生産者ですが、 ドイツ語圏に属しているため La Bleue的美意識の枠外で活動しています。又、<LdF>と取引のある 「 Kubler & Wyss/ Blackmint Distillery 」、「 Artemisia Distillery 」 、「 Gaudentia Persoz 」なども、純然たるLa Bleue生産者として扱うには微妙なスタンス参照と言わざるを得ません。

・2006年、 <LdF>の肝入りで異例の試験蒸留三銘柄が生み出されました。今にして思えば、スイスの脅威が後押しして大いなるジャイアント・ステップを踏み出した様にも思えます。選び抜かれた最高の原材料、手の掛かる繊細な作業工程、惜しみなく投入された高度な職人技、など言うまでもありません。むしろ、David Nathan-Maister氏が志向する崇高なコンセプトや深遠なイメージ力こそが注目に値するのではないでしょうか?比類の無い経験/知識の蓄積量が支えた果敢なチャレンジ・・・史上最高品位を実現したアブサン成層圏への突入です。

・三銘柄それぞれに 「Verteの原点回帰」、「Blancheの開くべき扉」、「新大陸への鍵」などの明確なテーマが設定され、<LdF>の後の戦略を暗示している様にも思います。酒類全般を見回しても試験蒸留品が広く世に問われる例はほとんどなく、ガッカリするほど面白味のないラベルは特異な存在意義と強い目的意識で輝いています。将来を見据えた視点から現代フレンチ・アブサン至高の姿を現出せしめる為、高度の領域を追求した非商業的かつ非現実的な存在・・・今後、これ程までに高度な試行が行われる可能性はあるのでしょうか?これに比する存在はMatterの“Promethee(プロメテウス)”くらいしかありません。時代の狭間はざまが生んだ <一代限りの儚はかなくも華麗な <三輪の夢の花> です。

<LdF>

・“1797”は、前出のプレミアム銘柄“Roquette 1797”の試験蒸留品です。2006年春にワンポットのみ蒸留され200本をボトリング。100本が関係者に配布され、残りの100本が一般流通しました。当店在庫は3本ともノー・シリアルなので配布分なのでしょうか?極めてレアなコレクターズ・アイテムと言え、現代アブサン史上において象徴的な存在とも言いえる先駆的実験銘柄です。Verte(緑)が進むべき次の段階を模索した原点回帰的な試行作業から、どんなインスパイアを得たのでしょうか?「Eccentric overall presentation.」とも評された非凡な味わいですが、<LdF>のプロデュース(イメージ)力を飛躍的に拡大したのは間違いありません。その成果は生産者の「Les Fils d'Emile Pernot」のみならず 「Distillery Matter-Luginbuhl 」や <Les Parisiennes> シリーズなどの頂上銘柄にも反映されているは間違いないでしょう。「Amer aux Plantes d'Absinthe」と表記されているので〜35ppmのビター類・・・前年に同じ<LdF>絡みでリリースされたMatterの “Duplais Verte”からの流れも感じますあまりにも懐古的かつ扇情的かつ個性的なアブサン有史以前()の味わい。(Distilled /75度/終売品★★★★

()アンリ・ルイ・ペルノーの実父Abram-Louis Perrenoud の日記に残された覚書(下左)が基になっているそうです。今にも通ずるアブサン・レシピの基本的コンポジションを示した最古の記録かもしれず、原点回帰には最適のインスパイア基なのかもしれませんね。しかし、こんな大雑把おおざっぱなメモ?から現実的な処方を起こすには突出した構築(妄想)力が必要かと思われますね。

< 1797年 >は、商業アブサンの祖ともいえるアンリオ姉妹がフランスのレース商人だったデュビエ公爵 (major Daniel-Henri Dubied /1758〜1841年 )にレシピを売却したと記録された年です。デュビエ公爵と娘婿のアンリ・ルイ・ペルノー(Henri Louis Pernod )によって設立され、 フリッツ・デュバル (Fritz Duval )の助力を得た「Dubied Pere et Fils」こそが初のアブサン企業でした。後にアンリは独立し「Pernod et Fils」帝国を築き上げますが、その拠り所となったのが下記の父親のレシピではないか?と言われています。つまり、ペルノー家で確立された近代アブサンのブルー・プリント(基礎設計図)って事ですね。

「This may have been what absinthe was like before the Pernod son went main-stream and is certainly an interesting historical experiment.」

Extract of Absinthe

For 18 pots of eau-de vie,
(approximately 34 litres)
a large bucket of grand wormwood,
2 handfuls of lemon balm
2 of green anise
same amount of fennel.
some calamus.
some mint,

Colour:
1 handful of petite wormwood
same amount of hyssop.

 <Abram-Louis Perrenoud> 語られる事の少ない人物ですが、アンリ・ルイ・ペルノーの父親Abram-Louis Perrenoud は重要な役割を果たした可能性が大です。始原地クーヴェ村に住む蒸留業者だった様で、商業アブサンの祖の一人として讃たたえる記述も少なくありません。彼が遺した日記の1794年頃と思われるページにアブサンの処方(左)が残されていますが、基本的な要素に全く不足無し!の驚くべき完成度です。現代アブサンに類似したハーブ構成で、入手が困難だったと思われるアニスやフェンネルの使用量が極端に少ない位の違いですね。しかし、既に使用しているレシピだとしたら日記に走り書きするのは不自然なので「この瞬間にインスピレーションが湧いた」、又は「他から入手してメモった」などの可能性もあります。しかし、この父親の元で育ったアンリが商才をも兼ね備えていたのですから、後の大躍進は納得ですね・・・・ポンタリオに移転した際、義父の元から独立した理由は明確ではありませんが、この優れたレシピの存在が遠因になっているのかもしれません・・政略結婚?

< “1776 > ちなみに、“1797の件で<LdF>とメールの遣り取りをしている時、“1776”なる謎の銘柄名が頻出して話が混乱した事があります。って言うか、私が知らない幻の試験蒸留品が存在したのか!と無駄に興奮しました。確認すると、「The 1776 is in fact the 1797.」との返事です。どうやら、初期段階では仮名として “1776”の名が与えられていた様で、<LdF>内部では未だにその名の方が通りがよいのでしょう・・・ちなみに、1776年は御大アンリ・ルイ・ペルノーが生まれた年です。

<LdF>

・“Wormwood Blanche(左)は、上記銘柄の直後にワンポット(200本分)のみ試験蒸留され、100本限定(当店20/58番)で一般販売されました。無色透明のBlancheなのは大きなポイントで、蒸留後の風味付け無しでニガヨモギの持つ可能性を追求した稀なる一本!そっけない銘柄名そのもののコンセプトはアブサン成熟期の過程においては避けては通れぬ重要課題でした。この銘柄が、“White Fairy”、“La Maison Fontaine”、新生“Un Emile La Blanche”などの名だたる後続Blanche銘柄達を導き出す貴重な試金石になったのでしょう。現代アブサン史上における必然的かつ挑戦的な試みの成果が封入されたコア・ボトルです。こちらにも「Amer aux Plantes d'Absinthe」との記述があるので〜35ppmのビター類の様です。「"Hi, I'm wormwood, I just murdered your friend anise. Don't be afraid, I taste good." said the glass.」とか「trying to "go out of the ordinary"」などの評が示す通り、極端な美意識に振り切った歪んだ個性が魅力です。 (Distilled /75度/終売品★★★★

・ニガヨモギ(woomwood)の持つイメージとして、ドライでビターな味わいを想像し勝ちなのは否めません。しかし、蒸留という魔術は隠されていたフローラルな香りが引き出してアブサンならではの多層的かつ深遠な風味を生み出す基になっています。アニゼット、ウゾ、ラクなどの単調な風味の他のアニス系の酒類には望めない、花束の様な華麗で深遠な風味こそ高品位な蒸留物アブサンだけに許された美点です。

Blanche と言うカテゴリー自体はベル・エポック期にも少ないながらも存在していました(参照)。それどころか有名なアブサン指南書などにもレシピが掲載されています。しかし、例外と言ってもよいほど特殊だった様で、現在の出土例も片手の指で足りる程の少なさです。恐らく、アブサンに色が付いていると言う固定観念は現在よりも強固な大前提だったのではないでしょうか?それに対して現代の Blanche は存在する意味が異なります。禁制期にはスイスの La Bleue の品位と名声が確立されており、無色透明なアブサンの可能性は実証されていたからです。

・スイスより5年ほど先行したフランスでの黎明期、<LdF>による「スイス的技法に頼る事ない新しい美意識を確立する為の試行」は成されていました。その結果として、“Un Emile La Blanche”や“Blanche de Fougerolles 74”などが世に問われ高評価を得ています。そして、遂に訪れたスイス解禁を機に、さらなる高みを目指す為の試みの成果として現出したのがWormwood Blancheだったのではないでしょうか?

  

<LdF>

L'Artisanale(通称・The Craft)”も上記と同様、2006年に蒸留された異なる切り口の少量試作銘柄。184本の限定販売(当店160/168番)でした。レシピの方向性は古典的な19世紀ポンタリオ・スタイルで、この特蒸三銘柄の中では最もオーソドックスな味わい、って言うか前の二本がイレギュラー過ぎなんです。当時の典型的な評価では「I still think there's too little of a "surprise" in it to score a little extra in the taste but that doesn't really matter. It's a nice absinthe.」と語られ、驚くようなトピックは持ちませんが、「最高の領域を現出させた素晴らしいアブサン」という美点は多くのテイスターが強調しています。最も通常販売を望まれたも“L'Artisanale”でした。未だに揺るがぬ美しさと突出した希少性を併せ持った別格の普通アブサン。 (Distilled /72度/終売品★★★★

「L'Artisanale” , produced by Eric, U.S. secret distiller using a traditional classic recipe. He was invited to France to make a cooked his absinthe in a professional by Emile Pernot distillery. It revealed that the flavors had previously met with so little as pronounced in an absinthe today. 200 bottles distributed in October 2006.」

著名なアメリカ人密造家 Eric氏(誰?)がポンタリオに赴おもむいてプロデュースしたアブサン・・・この微妙な時期にどのような経由だったのでしょうか?アメリカでは解禁への試みが実を結びかけており、勝利間近まじかでした。私見に過ぎませんが、巨大市場として可能性を秘めているアメリカで<LdF>銘柄の現地生産を目論んでいたのではないでしょうか?リアルな空気感を熟知しており即戦力になり得るとしたら、現地の密造者以外には考えられませんよね。キャップ(緑蝋)やラベルの様相、一般販売本数、試みられた方向性、などから別枠扱いだったのではないでしょうか?他の二銘柄とは異なり、認可を取り易い〜10ppmの設定、アメリカでの流通に必須の裏ラベル、あえて伝統的ポンタリオ・スタイルで処方した普遍的な味わい、などから推測すると“L'Artisanale”はアメリカ市場を前提とした標準銘柄現地生産試作品だった可能性が大です。ちなみにアメリカの解禁は翌年2007年で、法改正には<LdF>と関わりの深い T.A.Breauxs氏が大活躍しました。Eric氏はどうしちゃったんでしょうか・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・< My 奇跡 >・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・この三銘柄の入手は完全に諦めていました。しかし、「あまりにも細すぎるルートが開いたその瞬間、偶然に居合わせた」という信じられない幸運に恵まれ、“1797Wormwood Blanche”、それぞれ一本が手元にあります。こんな慶事が再び起こるとは思えず、今後の入手は絶望的・・・もちろん、小人の私には開封する勇気など全く持てません。秘蔵品としての紹介(自慢?)のみになってしまいますが、稀少なだけではなく重要な役割を果たした歴史的な銘柄達です。現代アブサン成熟の課程において、真に求める人々の手による果敢な試みが成され続けていた事を確認できる証あかしと言えます。そして、ほぼ同時にリリースされたもう一つの試験蒸留品が“L'Artisanalet”です。この銘柄だけは全く音沙汰が無く、入手出来る見込みは限りなくありません・・・(2010/10/17)

< 数年に一度の稀なる奇跡 > しかし、上記述の半年後に製造依頼元である<LdF>から驚愕のメールが・・・同社の保管倉庫を整理した際、とてつもなく稀少になってしまったデッド・ストックが発見された!そうで顧客に分配するとの信じられないオファーです。“1797Wormwood Blanche”、Maitress Rouge”、“Brut d'alembic essai 1〜5”など鳥肌ゾクゾクの内容から、業界内配布予定の残り分では?と推測されます。前二者などは「2006年頃にこんなシリアスなアブサンの試飲用サンプルが100本も必要なほど市場が成熟してたの?」と疑問に思っていましたが、時代に先んじすぎた試みだったので余ってしまってたんですね!この信じ難い宝の山にあの“L'Artisanale”も埋もれていたんです!私は思わず「ゲ・ゲ・ゲのゲッ!」っと叫んでしまいましたよ・・・でも、他とは経由が異なる為か「 We can only supply one bottle of L'Artisanale per customer.」とあります。最も難易度の高いアイテムだと判明してチョッと不安に・・・(2011/05/04)

・他のどの銘柄も超A級レア・アイテムですから数が限られているのは言うまでもありません。そこで、購入希望が出揃った時点で同社からの購入実績や希望動機などを考慮し、各顧客への分配種数を決定するという競合的な販売方法を提案してきたんです。つまり、微妙に資格や運が問われる感じ・・・これらの銘柄の価値を知る人=強く求める人=競合相手 がどれくらいいるの?って点も気になります。発売当時は極々一部の人にしか理解されず買い逃した愛好家も多かった様で、今では <知る人ぞ知る幻のアブサン> としてウォンツ・リストの常連銘柄達に・・・各国マニア間で激しい争奪戦が勃発するのは必須・・・しかも、途中報告では「the response has exceeded our expectations.」とあり、<LdF>が予想した以上のオファー数だった様なので抽選やオークションなどの形式も有り得る雰囲気でした。(2011/05/11)

・そんな厳しい状況下で私の様な極東のプチ愛好家なんかが太刀打ちできんのかよ?って思っちゃいますよね。しかし、弱気は禁物です。経験豊富なフランスの友人からアドバイスを得、無理やり勇気(含有率低し)を搾り出して挑戦だ!数度の<泣き落としメール>で攻撃したんですよ。後は運を天に任せて審判を待つこと一週間・・・な・なんと、大本命の“L'Artisanale”だけでなくWormwood Blancheの購入資格を get!しました!新参者にしては大成功なんじゃないですか?これで念願だった<LdF 特蒸キャンディーズ?>を達成でき、極上の悦びに震えた事は言うまでもありません。でも、周りの誰に報告しても反応ゼロなのは分かってるんですけど・・・今回も一人で寂しくポタり祝杯です。(2010/05/20)

・あっ、そう言えばWormwood Blancheは二本の在庫になりましたので一本を開封いたします。こんな自慢めいた駄文にお付き合いくださった心広い方、お申し付け下さい。私の知る限りですが、この銘柄を試せる他の店はベルギーとパリに一軒づつ(1914年の時点で両店とも既に閉店の様です。)?だけじゃないかと思います。web上に情報が無い店は私達にとって存在しないも同然ですからね・・・

< 一生に一度の出来事か? > その後、思わぬ展開がありました。結論から言うと、“1797と“L'Artisanale”の購入資格を再獲得しちゃったんです!「どんな汚い裏技を使ったんだよ・・・」って思いましたか?とんでもありません!数度のメールで、<日本でアブサン店を営んでいる事> <この特蒸銘柄達に対する評価 > <二本目以降は顧客に提供する意向> などを伝えてありました。つまり、日本でのアブサン普及の一助になるから御願い!秘蔵とかしないし!って感じでアプローチしていたんです。すると、最初の交渉が成立してウヒョウヒョ喜んでいた時、「I do have left two bottles of the 1797 and one bottles of the Artisanale.」というメールが・・・最初は意味が分かりませんでしたが、質問してみると配布分以外の別枠(郵送事故に備えた保障分?)がキープ(left)されていた様です。半信半疑で「May I order these bottles ? 」と送ってみたら 「 Yes you may, you can order directly from the site.」とのありがたい御返事が・・手持ちの予算が足りないなんて泣き事こいてる場合じゃな〜い!一瞬たりとも迷う事なく、即注問だぁっ!(2010/05/25)

・ “1797と“L'Artisanale”に関しては「This two bottles are not for my collection, I hopes for my bar's customer. It wishes well for the Japanese absinthe lovers .」と伝えてあった気持ちは本当ですから、誠意ある正攻法が効を成したって事ですよね。実際は粘着質的なメール攻撃が強い印象を残したのかも・・・いやいや、彼らも個人のコレクションとして死蔵されるよりは多くの人達に飲んでもらう事を望んだに違いありません・・・この様な経緯ですから、二本目以降の特蒸銘柄達は私個人の所有物と言う訳ではありません。日本のアブサニスト諸氏の為に Wormwood Blancheだけではなく “1797、“L'Artisanale” も開封可能になり、<LdF 特蒸キャンディーズ?> ついに全開ですよ!でも、「何で大騒ぎしてるの?この人・・・」って方がほとんどなのは分かってるんですけどね・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・< “Muse de France” >・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・<LdF 特蒸シリーズ>の前例として、フジュロルの「Lemercier Brothers RS」が2005年にリリースした“Muse de France”があります(下画像、1、2)。Frenchman Phil (Philippe Fumoux)という人物にレシピを依頼されたそうで、# 1〜3 の処方ヴァリエーションを試作して少数限定販売しました。350mlの小瓶で各105本という小規模の個人企画だった事に加え、未成熟な市場には早すぎる試みだった様で大きな反響を呼ぶ事はありませんでした。残存しているのかどうかも分からない未開封の“Muse de France”は、個人秘蔵の可能性しか残されていません。現代アブサンの中では最も入手困難な <幻の銘柄 No1> になっています。

1)2)3)4)5)

・ しかし、昔は動いていたと思われる“Muse de France”のHPをクリックすると・・・レプリカ・アブサン・グッズ最大手「Muse de France/Frenchman Ltd」が開くんですね!良く分からない構成になっていますがアブサン史最初期の資料なども見れて興味深いですます。しかも、自社オリジナル・アブサンを生産するために蒸留所「l'Absintherie Bourbonnaise de Vichy」まで立ち上げていました。“Muse de France”のコンセプトが発展したのでしょうか?かなり不可解な展開を見せており、銘柄名も “LOUIS XVIII (ルイ18世)”、“NAPOLEON III (ナポレオン3世)”、“IIIem REPUBLIQUE (第三共和制)”・・・時代考証的にはOKなんですが、アブサン的なムードが感じずらい!しかも、「今時コレは無いんじゃねえの?」って感じのダサしょぼいイラストだし・・・ちなみに上(3・4)の画像です。何が気に入ったのか三銘柄とも同じ図案を使用しており一番上の文字列(銘柄名)のみの違い・・・再び「今時ソレは無いんじゃねえの?」って思ってしまいました。しかも、二ヵ月後リリースした“Absinthe de Vichy”も同じラベルでした。さらに、ポーランド密造家のレシピを採用した番外編 “Boggy Absinthe”、“Boggy Absinthe ver.2”もリリースしており、こちらも御覧の通りのトホホすぎるラベル(5)です・・・大胆な仮説に基づく挑戦的銘柄“Raisonnee”に至ってはアブサン史上最低のラベルではないでしょうか?

・あまりの放埓ほうらつ振りが逆に気になったので調べてみると、な、な、なんと、かなり整合性の高い企画の様でレシピの根拠も渋い感じに筋が通っています。本物しか取り扱わない<LdF>にもニュー・ラインナップとして登場!新しい流れ的な雰囲気すら感じられる要注意の動きでした。驚きですね・・・やっぱ、人を見た目だけで決め付けてはいけないって事かと反省・・・蒸留所の身軽さも大したもんで「We also propose to implement your recipes with your label ! 」なんて興味深いオファーも・・思い通りのレシピで My Absinthe を造ってくれるそうです。

<マニアの、マニアによる、マニアのための特注品> パリの<VdA>による特注銘柄は別格の存在感で魅了します。業界の深層で密やかに展開されている<Les Parisiennes>シリーズは、名門「Les Fils d'Emile Pernot」の助力を得た“Belle Amie ver.1”から始まりました。理想アブサンを追求した野心作。 思わず溜息ためいきが・・・

・規制以前のレシピを高いレベルで再構成するには、利潤追求せざるを得ない企業レベルでは無理があるのは当然です(Jade は例外)。<VdA>の店主が一個人の立場で1908年の古いレシピを検証して様々な実験・試行を繰り返した末、ポンタルリエの民間農場で“Belle Amie”専用ハーブを栽培するにまで至ります。長い歴史と高い技術力を誇る「Emile Pernot」にて蒸留を開始するまで、どれほどの困難を乗り越えたのでしょうか。

)このレシピを提供したのは<LdF>David Nathan-Maister 氏です。氏の秘蔵するRoquetteと呼ばれる未公開レシピ群から提供された様で、実際のプロデュースにも関わっていたのは確実だと思われます。しかし、大企業と街の販売店では発想の着眼点や裁量の自由度が異なります。一個人の我儘に満ちた<Les Parisiennes>シリーズの独自性は素晴らしく、商業アブサンでは有り得ない特別な世界観で魅了してくれます。

<VdA>

・“Belle Amie 2007 ver.1/美貌の淑女”はパリのアブサン専門店<VdA>による<Les Parisiennes>シリーズの第一号銘柄。個人店の本格的PBとしては、記念すべき初の試みではないでしょうか?<LdF>の情宣・流通によるver.1(600本限定/当店20番)は待ち構えていたアブサニスト達に衝撃を与えました。初恋に惑まどう乙女の様な散漫な煌きらめきが心に残り、絡み付いてくる鮮烈な芳香は成熟した姿をも予感させてくれます。しかし、残念ながら手元に一本しかない為、お試し頂けません。サンプルは50mlしか無かったので私が頂きました。すんません。(Distilled /72度/終売品★★★★

・“Belle Amie 2008 ver.2”は2008年度版(640本限定/当店219番)。さらに厚みが増したと評価の高いリッチでクリーミィな味わいで、例の<No1、いかがわしさ満点銘柄>でもあります。さらなる試みとして、ワインスピリッツ使用で<Double distillation法>という高度な蒸留法を採用した別ヴァージョン。「The floral balance of Belle Amie still has yet to be equaled in another commercial bottling.」とも評され、一般に流通している銘柄 (commercial bottling)では果たせない特別な領域への扉を開いてくれます。是非ともお試し頂きたい、<両手一杯に狂い咲く花束>の様なアブサン・・ (Distilled /72度/終売品★★★

・“Belle Amie 2010 Distiller's Proof”は2010年度版(ver.3)の試験蒸留品)です。50gのみ蒸留して60本ボトリング、業界関係者の試飲用に36本配布され、24本(当店53番)が一般販売されました。夢の様なアブサンに、さらに手を掛けた・・・夢の、また夢・・・通常品では味わえない特別な味わいです。いささか高価ですが、お試しいただけます。(Distilled /72度/終売品★★★★

)ここで言う試験蒸留とは、年毎の原材料の出来不出来を反映するコンセプトでビンテージ設定された銘柄を少ロットのみ試験的に蒸留する作業の事です。アブサンの該当ハーブ素材10種以上の可能性をとことんまで追求し理想の処方を検討するのが目的で、コストや作業性など現実的なアレンジを免れ得ない流通品ヲ最善の状態に導く高次元の密室のアブサンと申せましょう。通常、一般流通する例はほとんどありません。

 Double distillation法とは各ハーブ成分の適正揮発温度の違いを積極的に利用した技法の様で、一度目の蒸留液の最良の部分heart(中垂れ)に蒸留温度を変えた再度の蒸留を行い繊細な抽出を可能にします。

<Les Parisiennes>シリーズ全銘柄はラベルトップに Les Parisiennes と記載されていますが、最初の“Belle Amie ver.1”だけが Amer Aux plantes d'Absinthe となっています。この時点では、シリーズ化の構想までは無かったのでしょうか?しかし、初銘柄成功での確信を得たのか、「Distillery Paul Devoille」に依頼した第二弾“La Coquette/浮気女”から Les Parisiennes の文字が登場してシリーズ化を宣言しました。

  

・んっ、「Amer Aux plantes d'Absinthe」・・・つまり、Ver,1は〜35ppmのビター類って事ですね。Ve,r2以降は「Spiritueux aux plantes d'absinthe」の表示があるので〜10ppmのスピリッツ類。やはり、Ver,1だけが蒸留法の違いだけじゃなくて別のレシピでした。

・このシリ−ズでは、“La Coquette 2008 /浮気女”も〜35ppmのビター類です。ラベル・トップは他と同様に Les Parisiennes と記載されていますが、下部に 「Amer Aux plantes d'Absinthe」 とあります。コノ銘柄もVer,1のみで、Ver,2の“La Coquette 2010/浮気女”からはレシピが変更され〜10ppmのスピリッツ類になりました。

・二つの蒸留所に依頼した最初の銘柄が同様にビター類だった事から、当時のトレンドが伺えます。折りしも、スイスのビター系アブサンが圧倒的な評価を確立した時期でした。そう、<Duplais シリーズ>や <アルテミジア・シリーズ> の事です。 Ver,2 以降はフレンチ本来の姿に立ち戻った?又は、採算を度外視した造りに現実的な改善を加えたのかも知れません。上記の二銘柄には、夜明けを迎える直前に一瞬だけ瞬またたく明星の様な煌きらめきを感じます。

・“Belle Amie/美貌の淑女”は2010年版より定期リリースが決まった様ですが、味の均一化は気にしていない様です。年毎に洗練させて行く方向性らしく「ヴィンテージによる違いを楽しんでほしい」との事。既に突出した味わいを誇る“Belle Amie”が、さらに楽園度を増して行くなんて・・・ワクワクします。又、「Paul Devoille」が手掛ける “La Coquette/浮気女”の方も定期化が決定し、フランスの二大蒸留所による豪華すぎる二本立てスタンダード・ラインを確立する模様。

・しかし、2011年春の段階で“Belle Amie 2010 Distiller's Proof”しか日の目を見ていません。しかし、“Belle Amie 2011”は6月に新しいデザインのニュー・ボトルにて出されました。個人的にはちょっとガッカリなシルエットです。“Belle Amie 2010”の方はどうなったのでしょうか?最近の方向性が樽熟成や自家熟成向きのマグナム・ボトルに傾いている参照の様なので、“Belle Amie 2010”は熟成期間中につき秋頃のリリースなのでは?と期待しています。

・ちなみに、<Les Parisiennes>シリーズは第二弾“La Coquette/浮気女”がらみのトラブルが原因で<LdF>とは袂たもとを分かった様です。今では自店と同じパリにある「Les Caves du Roy(フランス国内のみ配送)」だけでの取り扱いですが、“La Coquette/浮気女”の別バッチ分だけは<LdF>にて入手可能という不可思議な状態が続いており、初期段階での曖昧な契約(口約束?)が拗こじれた末の忘れ形見かと推測されます。(参照 

<Les Parisiennes>シリーズは北仏フュジュロルの「Paul Devoille」へと造り手を変えて続きます参照。“La Coquette/浮気女”、“L'Enjoleuse/誘惑する女中”、““La Desiree/欲望に満ちた女”などのDevoille銘柄は全てが素晴らしく、どれを選んでも確信に満ちた華麗なる個性で輝いています。この中において“Belle Amie/美貌の淑女”には第一弾ならではの得がたい魔力を感じてしまうのは私だけですか?再びの「Emile Pernot社」による二作目にしてシリーズ第五弾は次項の銘柄“Perroquetペロケ/オウム”です。

<マニアの、マニアによる、マニアと入門者のための特注品普及版> <VdA>による渾身のレギュラー銘柄は、一個人からの華麗なる挑戦状です。

<VdA>

  

・“Perroquetペロケ/オウム”は<VdA>による<Les Parisiennes>シリーズの新展開にして第五弾。「2010年4月27日に発売予定だぜ。震えて待て!」との脅迫メールが届きました。再び名門Emile Pernot社に依頼して、同社と関連性が強い古銘柄“Parrot Fils(下左)再現に挑んだ様です。このシリーズの特徴だった枯れ草色ではなく鮮やかな緑色が目を引きますね。無着色でこの色はすごいですよ。当然の様にワインスピリッツ使用で、七ヶ月タンク熟成。味も他のシリーズ物とは全く異なり、ハーバルでフレッシュな風味が新鮮。フェンネルの香りが印象的で、ココア的なアロマもチャーム・ポイントなんですが、白濁が弱い点が少し残念・・・でもLes Fils d'Emile Pernot製らしい点ではあります。(Distilled /72度)

)国内販売される際の「七ヶ月樽熟成」という商品説明は誤りで、次項の“Perroquet fut de chene”と混同している様です。限定300本の商品を日本で販売できる訳がありませんしね。試してみれば分かりますが樽熟成独特のウッディなアロマはありません。

・日本でも正規販売が決定された“Perroquet”なんですが、早くも左の旧ボトルは終売?そして、2011年5月からニュー・ボトルでの販売が始まった様です。そして、本家の<VdA>の方も同じボトルで“Perroquet 2010(中央)”と“Perroquet 2011(右)”の二種類がリリースされていますが、何故か微妙なラベル違い・・・ちなみに、この黒いボトルは750mlなんですが、あえて700mの内容量・・・空気スペースを増やした瓶内熟成に有利な設定だそうです。でも、l旧ボトルの方が可愛いって思う人は国内に在庫が残っているヤツを早めに買っておいた方がいいかもですよ・・・

・“Perroquetペロケ/オウム”に関しては銘柄専用のwebサイトが設定されている点も特筆です参照。シリアルNoも付かないし、ほんの少しだけ安めだし、本気の普及版?他のシリーズ上位銘柄と違いドイツの<ALANDIA>や<ABSINTHE.DE>、そしてLes Fils d'Emile Pernotの販売サイトでも入手が可能になっています。日本での販売も決定!でも、<Les Parisiennes>シリーズの cousin(従兄弟いとこと称された「Paul Devoille社」製“Soixante-Cinq”の立場はどうなるんでしょうか?

・ん〜っ?そういえばエロ系の銘柄名じゃないんですね!どうしたんでしょうか。蒸留所が違うから?それとも、オウムには何か隠された意味があるのかな?古いアブサン戯画にもオウムの姿をよく見かけますし、「緑色の鳥と言えばオウム」的な感じもあるそうです。そういえば<Les Parisiennes>シリーズの裏ラベルは黒猫と戯れるオウムの絵(3)ですね・・・19世紀には 「etrangler un perroquet = strangle a parrot」という言い回しがあったそうです。「アブサンをグラスで飲む」の意だったそうですが、「オウムを絞め殺す」が譬たとえに使われたのは何故なんでしょうか?

<VdA>

  

・“Perroquet fut de chene(左)はオーク樽(下1)による七ヶ月熟成を施した300本(当店51番)のみの限定バージョン。通常版“Perroquet”はステンレス・タンクによる七ヶ月熟成なので、その上位バージョンですね。かつての高級アブサンは熟成工程を重視していた事が知られており、再現銘柄にとって避けては通れない必須要素なんですね。樽香魔術による芳醇な背景がハーブの芳香を鮮やかに盛り立てて、一枚めくれた味わいを実現。今、密ひそやかに進行しつつある樽熟成アブサンの世界を初体験してみて下さい。(Distilled /72度★★★

・“Perroquet Distiller's Proof(右)は、50g超スモールバッジの試験蒸留版で60本のみのボトリング。情宣・検証用として業界内に配られれた後、12本(当店58番)だけ一般販売されました。試験版の一般流通は珍しく、あっという間(5日くらい?)に完売・・・いきなりコレクターズ・アイテムですね。最も注意深く造られた味は別物で、これを基にポピュラリティ・アレンジを決定するサンプル蒸留品です。(Distilled /72度/終売品★★★★

・通常版“Perroquet”、樽熟成品“Perroquet fut de chene”、蒸留試験品“Perroquet Distiller's Proof”、の三本を比較テイスティングするという体験が可能です。こんな縦方向のラインナップが揃った銘柄は、他にはありません。<Les Parisiennes>シリーズならではのアドバンテージです。アブサン製造時に蒸留職人だけが知りうる未知の世界を、ほんの少しだけ覗けるかも知れません。当店にて可能です。

・第二弾“La Coquette/浮気女”は“Roquette”由来の再現版でした。“Perroquet/オウム”の名は当時ボルドーで操業していた「Joudan Freres」の銘柄“Absinthe Perroquet”由来らしいですが、綴りの一部が一致しているのは妙に気になります。<含み文字>による縁戚関係を暗示した関連銘柄だったのでしょうか? 恐らく、前身の「Emile Pernot et Cie」創業時(1889年)に参入したParrot兄弟の「Parrot Freres」銘柄“Parrot Fils"(2)も無関係ではないでしょう。Parrot × Roquette = Perroquet だったりして・・・・関係ないかもしれませんが、“Paquette” という名の古銘柄(4,5)もありました。当時は文盲の人も多かったので、“Roquette”と間違え易く名付けたバチ物なんでしょうか?当時の商業モラルは劣悪だったそうです。一応、ポンタリオ産ということになっている様ですが・・・

1)2)3)4)5)

<VdA>とは、パリのマニアックなアブサン専門店「 Vert d'Absinthe」の事です。2007年から始まった自店のプロデュースによる<Les Parisiennes>シリーズのほか、選び抜かれたアブサン達、Simon Pearce社の惹きこまれる様なグラス、アンティークのアブサン器具など、他の販売サイトとは一味も二味も違うラインナップでクラクラ度満点!の top of the world !次項、フュージュロー産の“La Coquette/浮気女”と“L'Enjoleuse/誘惑する女中”なども<Les Parisiennes>シリーズ銘柄です。それにしても、web 上のアブサン専門販売サイトなら珍しくもありませんが、実店舗のアブサン専門店なんて他にあるんですかね?でも、アメリカのアブサンフォーラムで苦情が出るほど送料が高いのが<玉に瑕きず>なんですよね(その後、多少は改善された模様です)。あと、支払いの時にフランス語なので分かりにくくて何度か失敗(トホホ)しました。

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アラン・ドロン似の店主リュック・サンティアゴ・ロドゥグェ (Luc-Santiago Rodriguez) 氏

<LdF>とは、英国の「Oxygenee/Cusenier社」傘下の有力な販売代理業者 「Liqueurs de France」の略です。長年の流通業者としての経験を生かして各地の優秀な職人気質(世間知らず)な蒸留家たちに指針を提示し、高品質で特別なアブサンを世に送り出してきました。業界全体のプロデューサー的存在になっており、商売がらみ的で強引な側面はあるものの、確実に花舞台を用意してアブサン自体の存在感を高めています。「Emile Pernot」、「Paul Devoille」、「Distillery Matter-Luginbuhl」の<LdF三羽烏>を筆頭にT.A.Breauxで有名な「JadeLiqueurs」など多くの生産者にコネクションを持っており、下項の“Verte de Fougerolles”の裏ラベルには、<LdF>の販売サイトであるabsintheonline.comの文字が書いてあったりします。

・「Oxygenee Cusenier社」はアブサン業界で最大の業務グループを形成しており、英国がアルコール飲料消費(流通)国としての長い歴史と豊富な経験を持っていることを示しています。圧倒的な蓄積情報の「The Virtual Absinthe Museum」、高級アブサン販売の「Absinthe Classics(=LdF)」、レプリカ・グッズの「The Absinthe Spoons」、アンティーク・グッズの「Absinthe Originals」、印刷物の「Absinthe Poster」、ヴィンテージリカーの「Finest & Rarest」、アブサン総合情報の姉妹サイト「La Fee Verte」など、関連サイトだけで全てが賄える一大帝国を築いており、圧倒的な影響力です。

・2010年5月のメールによると、フランスとドイツに勢力を拡大した模様。長年の協力者で有力なアブサニストMarc Thuillier氏による「Oxygenee France」が活動を開始しました。どういう展開を目論んでいるのでしょうか?ドイツでは Antoine Generau氏の有力販売サイトの「Rue Verte」を買収したそうで、「ALANDIA」あたりとの真っ向勝負は必須ですね。<LdF>ルートが使えるので、送料的なアドヴァンテージを持つので有利になるのでは?と期待しています。

・<LdF>と<VdA>の関係は微妙です。初期は良好な協力関係にあった様で、処方自体がDavid Nathan-Maister氏の秘蔵レシピ群Roquetteから提供されている様です。蒸留所の協力を仰ぐ際にも<LdF>の助言・協力が大きかった様で、同じ蒸留所に依頼しています。そんな訳で“Belle Amie”1st バージョン(終売)は<LdF>からも正式に販売されていました。“La Coquette/浮気女”も「LdF」関連サイトで入手可能ですが、「VdA」店主によると「 The batch of Coquette sold on LdF was not approved by us.」とあるので無許可生産された感じで、チョッと憤慨している様子が漂っていました。この後の<Les Parisiennes>シリーズの限定品は必ずシリアルナンバーを付ける様になりました。フォーラムなどでも第三弾の「“L'Enjoleuse/誘惑する女中”がLdFで販売されないのは何故なの?」などと質問状が出ていましたが、この銘柄から疎遠になった感じですね。マニア店と流通業者では理想や姿勢などが異なるのは仕方がありません。

・ココで気になるのは<VdA>の“La Coquette”及び“L'Enjoleuse”と、<LdF>のRoquette・1797”の関連性です・・・処方の時代は異なりますが、この三銘柄は“Roquette”レシピを基にしているのがアピール・ポイントでした。<VdA>の販売HPでも、“La Coquette”及び“L'Enjoleuse”の銘柄由来として“Roquetteの文字が誇らしげに記述されていましたが、今は変更されました。やはり<LdF>の、と言うよりも“Roquette”レシピ群の所有者である David Nathan-Maister 氏が完全協力していた銘柄である事は明白です。

<有力アブサン・プロデューサー達> ほとんどの生産者は職人気質の人が多い上、解禁以前にはアブサン以外の酒類を地域産業の一環として造ってきました。アブサンという特殊で新しい商品への企画/販売戦略には疎うといのは当然かと思われます。それに対して外部からのサジェスチョンや刺激を与えて生産者の潜在力を表出させ、市場を拡大する為の有効なアイディアを提案する人々の存在が不可欠なのは言うまでもありません。中でも<LdF>が行ってきたプロデュースは突出しており、現代アブサンの方向性に決定的な影響を与え続けています。

David Nathan-Maister氏はOxygeneeのプロデューサーです。<LdF>が企画・リリースしてきた高級銘柄のほとんどを手がけ、復興後のアブサン業界を牽引してきました。“L'Italienne”、“Verte de Fougerolles”、“Blanche de Fougerolles”、“Francaise Superieure 65 ”、“Doubs Mystique”、“Roquette-1797”、“White Fairy”などなど枚挙に暇がない程の素晴らしい銘柄達を送り出しており、英国の指針力を見せつけ続けています。しかも、なんと彼は「Les Fils d'Emile Pernot」の株主でもあるんですね!

・ドイツにはアブサン業界の裏番長Hans-Peter Fussがいます。LogisticX GmbH & Co. KG」というアブサンの卸売り/企画会社を拠点に、<アルテミジア>のクロード・アラン氏やEichelberger Distillery参照などとコンビを組んで<ALANDIA>に独特なスタンスと攻撃的な戦略を提供しています。その他の場所でも彼の意向が反映している例が多く見られ、法スレスレのアプローチも辞さないリスキーな方法論は物議を呼んでいます。影の立役者・・・

・ドイツ両雄のもう一人は「ABSINTHE. DE」を率いる Markus Lion氏です。「Distillery Matter-Luginbuhl」からリリースされているアーテュスト・ラベル系銘柄は彼の仕掛けなんですね。過激なラベルに目が行き勝ちですが、内容の方も素晴らしい!先進的コンセプトで新しい扉を開いてくれます。次世代への影響力は相当に大きく、新しい価値観エリアを確立しつつあるのではないでしょうか?ラインナップの共有性やオリジナル銘柄の傾向から<LdF>との協力関係を感じさせます。

・同じくドイツ人のUlrich Hosse氏は某販売サイトの運営者ですが、チェコNo1生産者「Ales Mikulu-Cami」のプロデューサーでもあります。評判の悪いチェコ銘柄の品質向上に意欲を燃やしており、様々なトライを繰り返してきました。近年、遂に“Toulouse Lautrec”シリーズにて対外的な評価を確立。伝統的な根拠の薄いエリアからの本格アブサンによる参入という難業を成し遂げました。

・チェコのMartin Sebor(〜2003年)は、突出した生産者でありながらもプロデュース能力にも長けた無二の存在でした。ドメスティックな要素を固持しつつ、初期アブサン業界に大波乱を巻き起こした孤高の人です。チェコ・アブサン本格化への始鞭を鳴らしたただけでなく、webでの販売を最初に試みた点も特筆すべきかと思います。あまりにも確信に満ちた彼の美意識は他者を拒むようなオリジナリティーに満ちており、実質的な後継者がほとんど存在し得ない状態です。今は無き彼のボヘミアン銘柄達は、遠い地に咲いた異形のアダ花としてアブサン史の一ページを飾る事でしょう・・・参照

T.A.Breauxs氏はアメリカ人です。かつて<新世界のパリ>と称されたニューオリンズ出身のフランス系の様で、画期的なコンセプトで名をはせるJade Liqueurs」が祖先の出目地ロワール地方の蒸留所で造られているのは偶然では無いのでしょう。アメリカにおけるアブサンの解禁を主導し、最初期にアメリカ市場向けの“Lucid ”をリリースしました。その経験を生かしてフランスでの規制解除を成し遂げたのはアブサン業界全体への多大な貢献と言え、Jado銘柄の評判に隠れ知られる事の少ないロビイスト?としての側面でもあります。影の顔役・・・

・同じくアメリカ人のPeter Schaf氏もよく聞く名前です。Nathan氏とも旧知の仲らしく、「Jade Liqueurs」の創設時や“Roquette-1797”の復元などに協力しました。特に属する拠点が無い様で、一匹狼のフリーランスなのでしょうか?David Nathan Maister氏、T.A.Breaux氏、Peter Schaf氏の三人は<アブサン三羽烏>として、アメリカの『ニューヨーカー』誌で特集されたそうです(2006年)

・業界に決定的な影響を与え続けてきた有力プロディーサー達が、英独米と本場以外の地を拠点にしているのは興味深い事ですね。スイスやフランスの人達は手前の事過ぎて客観的になれないんでしょうか?唯一、「VdA」店主のLuc-Santiago Rodriguez (リュック・サンティアゴ・ロドゥグェ) 氏だけが<Les Parisiennes>シリーズを展開しており、一個k人の立場で孤高の戦いを続けています。

 フジュロル Fougerolles

・フジュロルはアルザスに程近いフランス北東部にある人口約4000人の山村(標高300〜600b)です。ポンタリオから北に約100kmほどの距離で、<アブサン第二の地>とも云われました。アブサン最盛期にはポンタリオの生産が追いつかず、フジュロル村から樽で買い付けてブレンドしていた事は有名な裏話です。たぶんペルノー家系列と思われる J.Francois Pernot の名が、この地域の有力プロデューサーとして記述されているのを見かけますが、買い付け要員だったのでしょうか?ポンタリオのデュバル系「Emile Pernot et Cie(現「Les Fils d'Emile Pernot」)」が創設(1889年)する際、フジュロル出身のEmile-Ferdinand Pernotが参加した史実などから察するに、ポンタリオのアブサン生産者がフジュロルの高度な蒸留技術を取り入れるのに積極的だった事が伺えます。ほぼ同時期に設立された「L. Lemercier & Duval(1890年)」なる会社も「Emile Pernot et Cie(現「Les Fils d'Emile Pernot」)」と、フジュロルで現在も稼動する「Lemercier Brothers RS 」との関連性を示唆しています。

・もともと各種のフルーツブランデーで知られており、特にサクランボの透明なブランデー Kirschwasse(キルッシュワッサー)の名産地です。様々な原材料を扱ってきた経由から多様性を秘めた手法が独自の発展を遂げました。ベル・エポック期のアブサンを影から支えた高度な技術は「Distillery Paul Devoille」にて継承され、現代に華麗な花を咲かせ初めています。「Paul Devoille」以外では、優秀な銘柄で評価を得ながらも新たなるチャレンジに挑むLemercier Brothers RS (1811年)」、安価ながら優良な銘柄で定評のある「Artisan Distillery Emile Coulin」があり、村にある四軒の蒸留所のうち三軒がアブサンを手がけています(参照)。

・フジュロル村が誇る醸造技術のレベルの高さは半端ではありません。先日、 フランスで初めてブドウ以外の原料で造られる蒸留酒がAOCに指定されました(2010年5月5日公布)。地産のサクランボから造られる<Kirsch de Fougerolles>です。 フジュロル周辺の7村を含む地域で規定に基づき造られたキルシュが対象との事。乾燥ハーブよりも生の果実を使う作業の方が難易度が高いのは容易に想像でき、柔らかくて繊細なサクランボでのAOC獲得は大偉業です。当地のサイトを見る限りでは様々な果実酒を造っており、この技術がアブサンに応用されているかと思うと説得力を感じませんか?

・Kirschwasserはドイツ南西部バーデンウュルテンベルク(Baden-Wurttemberg)州の Black Forest と呼ばれる山脈エリアで発祥した名産品でしたが、16世紀にはサクランボの育成に適したフジュロルにも伝わり定着しました。19世紀前半には圧倒的な生産量を誇っていたそうです。

・とてつもない豊かな芳香を生み出すと云われる<double distillation> や <triple distillation>のような高度な技法の使用例はあまり聞いた事がありません。各ハーブ成分の適正揮発温度の違いを積極的に利用した技法の様で、一度目の蒸留液の最良の部分heart(中垂れ)に蒸留温度を変えた再度、再々度の行程を加えます。繊細な芳香成分が失われやすいサクランボの蒸留で培われた技法なのでしょうか?Lemercier Brothers RS」の野心作“Coeur d'Absinthe”シリーズに使われています。そういえば、ポンタリオのLes Fils d'Emile Pernotもフルーツブランデーを得意としており、<VdA>の依頼による<Les Parisiennes>シリーズの第一弾“Belle Amie/美貌の淑女”も<double distillation>による造りですね。フジュロルから伝わった技術がシッカリ定着している様です。

Distillery Paul Devoille ポール・デボアール は、150年以上もの歴史(1859年創業)を誇る<北東フランスの雄>です。アブサン全盛期から継続している数少ない蒸留所の一つで、古い資料や蒸留器のみならず蓄積された職人技と心意気も受け継いできました。そして、名産品のフルーツ・ブランデーで培われたフジュロル特有の蒸留手法をも操る稀有な生産者です。1915年の禁止令以降はアブサンの生産は中断していましたが、その高い技術力に着目した<LdF>からの依頼がキッカケで再びの生産が始まります。初の現代銘柄“Verte de Fougerolles 72”は、未成熟だったアブサン市場において稀有なる本格アブサンとしてく衝撃的なインパクトを与えました。(HP

・柔軟な姿勢と高い技術力は折り紙付き。ハーブ別に浸透・蒸留を行ってブレンドし無濾過・熟成を経てボトリングする至高の手法は融通性にも優れ、高いレベルでの豊富なバリエーションをも可能にしています。<VdA>に限らず、マルセイユの名店「PASTIS HOUSE」の依頼による“ 'LA BONNE MERE”も「Paul Devoille」です。様々な特注依頼も快く受ける開けた経営方針と職人気質は、閉鎖的になりがちなアブサン業界の大きな推進力となるのでは?と期待されているそうです。独特の暗い色合いと複雑に織り成す調和のとれた深遠な味わいこそが「Paul Devoille」の真骨頂。

<歴史的な役割を果たした二つの宝石> 揺るがぬ評価を欲しいままにしてきた名作です。今でも中堅クラスの銘柄としては突出した存在感を持ち続け、飲むたびに幸せな気分を呼び起こす<極楽アブサン>です。

 

<LdF>

・“Verte de Fougerolles 72”は「Paul Devoille」の看板とも言える銘柄で、<LdF>のプロデュース第一号です。<古レシピを基に処方された初めての現代アブサン>というエポックメイキングな存在でもあり、未成熟だったアブサン業界に衝撃を与えて意識の向上を促しました。必ず体験すべき銘柄です。二ガヨモギ、アニス、フェンネル、ヒソップス、ヴェロニカ、カモミール、コリアンダー、ジェネピ、アンジェリカなどが織り成す繊細で複雑な味わいはは圧巻!(Distilled /72度)

・“Blanche de Fougerolles 74”も最初期のBlanche(白)として先駆的な美意識を提示した最重要銘柄です。スイス的な様式を基にしていますが、ハイプルーフによって拡大された背景が新たなるハーブ構成を可能にして新しい世界観を展開しています。複雑なアロマが絶妙に織り成された末のカオス的な深みを持ち、現代のLa Bleue銘柄を凌しのぐ味わいでは?との評価も納得です。(Distilled /74度)

・“Capricieuse 72”を筆頭にスイスの生産者達も数種のハイプルーフ銘柄をリリースしています。“Blanche de Fougerolles 74”や、同じ<LdF>関連Blanche(白)銘柄“Un Emile La Blanche 68”、“Duplais Blanche 68”などからのフィードバックだったのかも知れません。

・上記二銘柄は2009年に銘柄名が変更になりました。その名も“Enigma エニグマ”です。<LdF>の説明では、フランス固有地名なので他国での発音が難しい事から名称が定着せず認知度が上がりにくい、と判断した模様です。内容には一切の変更が無く、名称変更してまで存続させるべき銘柄との判断も示しています。ラベルイメージも地酒スタイルから懐古モダンなベル・エポック調デザインを採用して印象に残り易くしてありますね。言葉の意味も「謎」とか「パズル」の意で、ハーブ別に蒸留した後のブレンド魔術を暗示している様な気がしませんか?

<定評に満ちた普及ライン> フレンチ・アブサン復活の最初期にリリースされた<Libertine>シリーズは地味ながらも決定的な方向性を示しました。この価格帯でこの品質を超えるスタンダードラインは今だにありません。

・“Libertine 55”は同生産者のスタンダード・ライン普及版です。このクラスの銘柄でも、ワインスピリッツをベースに分別蒸留という手間のかかる手法とは驚きですね。二代目創始者Paul Devoille自信の手で書き留められた(1894年6月)家伝“Libertine”レシピが『Musee des Eaux de Vie』という博物館で見つかりました。それをベースに、ニガヨモギ、 グリーンアニス、セージ、スターアニス、フェンネル、コリアンダー、レモンバーム、甘草、ヒソップ、ベロニカを処方して 2002年に登場。メローでフレッシュな口当たりで擽くすぐられた後に苦味の余韻が爽やかに広がる・・・アブサンならではの物語性が充分に楽しめ、コノ銘柄ならではの個性も充分!日常的に楽しむアブサンとして、これ以上の何を望めるのでしょうか?(Distilled /55度)

・上位銘柄の“Libertine Intense 72”は“Libertine 55”とは全く異なる風景を見せてくれます。高いアルコール度数のみが支え得る、複雑で力強い味わいが更に本格的!そして最上位の“Libertine 68 Amer”はニガヨモギ増量の本来のLibertineです。上品で強い苦味と高品質な味わいをスタンダードラインで実現したハイ・コストパフォーマンス・アブサン!68という度数も「何をか云わんや」って感じですね・・・ちなみに、「Amer」とは一応「苦い」の意ですが、「Amer aux Plantes d'Absinthe」の略です。ツヨン濃度〜35ppmのビター類を表すフランスの慣用表現で、必ずしも苦〜い訳ではありません。

Libertineシリーズはポンタリオの<アブサンティアーデ>において数度の入賞を果たしています。さすがに金賞はありませんが、並み居る高級銘柄を相手にスタンダードラインの銘柄としては大健闘と言え、フジュロル村の実力を知らしめました。

<マニアの、マニアによる、マニアのための Roquette系特注品> Belle Amie 2007 ver.1 ”を契機として“Belle Amie 2008 ver.2”で始まった<VdA>の<Les Parisiennes>ですが、この「Distillery Paul Devoille」三部作から本格的にシリーズ化しました。フレンチアブサンの知られざる系譜を辿った野心作、と云うだけでは語りつくせない華麗なる美女軍団。どの銘柄もタダの御嬢さんなんかじゃありません。

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<VdA>

 1)“La Coquette 2008 /浮気女”は<VdA>による<Les Parisiennes>シリーズ第二弾(300本限定/シリアル無し。1899年以前の“Roquette”レシピを基に処方されたそうです。この無濾過・熟成による枯れ草色のアブサンは、通常の商業的な銘柄とは桁違いのパフォーマンス!衝撃的な素晴らしさです。スパイシーで奥深い華麗香・・悩ましくも鬱うつな深み・・(Distilled /72度/終売品★★★

  2)“L'Enjoleuse 2008 /誘惑する女中”はシリ−ズ第三弾(300本限定/当店221番)です。“La Coquette”の姉妹版で、もちろん無濾過・熟成タイプ。1900年以降の“Roquette”レシピを基に、自信に満ちた新世紀(20世紀ですけど・・)の味わいです。調和の粋いきを極めた複雑な芳香、滑らかで豊満な立ち姿に誘惑されない訳ありません。(Distilled /72度/終売品★★★

  3)“La Desiree 2008 /欲望に満ちた女”は、<Les Parisiennes>シリーズの第四弾(300本限定/当店03番)です。アンリ・ルイ・ペルノーの長男が手がけた名作“Edouard Pernod”に最も近い味わいとの事で、1908年のレシピが基になっているとか。アニスの鋭さを伴うフルーティーで鮮烈な芳香。指で潰したハーブと樹木の青い葉っぱを感じさせるフレッシュな風味。クリーミィでリッチな舌触り。ニガヨモギのアロマが立ち上がるスパイシーな余韻。忘れ難い体験。 (Distilled /72度/終売品★★★

<Les Parisiennes>シリーズ中、“La Coquette 2008 /浮気女”と“Belle Amie ver.1”だけがAmer aux Plantes d'Absinthe」との記載でツヨン濃度〜35ppnのビター類の様です。ちなみに、ver2の“La Coquette 2010/浮気女”の方は「Spiritueux aux plantes d'absinthe」とあるので〜10ppmです。レシピに変更があった理由として、年毎のハーブの出来に準じて処方する方向性との事で、ビンテージによる違いを積極的に意識している様です。

・“La Muse Verteと言う南仏パスティス系銘柄にも類似のアプローチがあり、レシピを積極的に変えた特別版を年度毎にリリースしています。どちらのコンセプトも説得性があり、極めて高いプレミアム性を感じさせます。

<二系統のLa Coquette 浮気女”> この銘柄には<VdA>のオリジナル限定品と<LdF>が独断リリース?したと思われる増産品があります。前者は年度毎にシリアNo付き(2008を除く)で限定リリースされており<VdA>のみの販売ですが、後者は<LdF>関係の特定のサイトで普通に入手可能な通年供給品です。規模こそ異なっていますが二つのアブサン業者の協力体制で生み出された経由から、契約上の矛盾が生じたのではないでしょうか?<VdA>によると「 The batch of Coquette sold on LdF was not approved by us.」とあり、「断りも無く造りやがって・・・」的な憤慨ムードが漂っていました。(参照

<ニュー・ボトル> 2011年の春、“La Coquette 2011 ver.3”も登場しました。ver,2と同様にマグナム・ボトルの設定もありますが、レギュラーの700mlは“Perroquetペロケ/オウム”や限定300本中30本の最終出荷分“L'Enjoleuse fut de chene 2010 ”などと同じ黒いニュー・ボトルです。恐らく、熟成方向に不可欠な紫外線対策を重視したのでしょう。

・ニュー・ボトルの新装“Perroquetペロケ/オウム”に関する生産者からのインフォメーション(下記)にも熟成を意識した方向性が明記されていました。

『The Perroquet is now presented in a thick and dark 75cl bottle deliberately filled to 70cl - the extra 5cl space in the bottle helps promote continued oxygenation of the absinthe as well as a continued maturation of the wine alcohol base even after bottling. 』

<VdA>

・“L'Enjoleuse fut de chene 2010 ”は、“L'Enjoleuse 2010/誘惑する女中”をオーク樽にて一年寝かせた熟成(300本限定/当店86番)で、この銘柄のvre.2です。このシリーズの樽熟品には「Les Fils d'Emile Pernot」による“Perroquet fut de cheneという前例がありますが、「Paul Devoille」の方でも抜かり無く仕込んでいたんですね。味をまとめる為の軽熟成ではなく、さらなる再現性を目指した攻め方向のコンセプトなのは同様です。樽ならではのオーキーな woody notesが加わり、よりクリーミーで豊潤な芳香が表出しました。コニャックを彷彿とさせる複層的で深遠な味わいは特筆したい魅力で、放埓な美青年を思わせる“Perroquet fut de chene”と比べると高品位な大人の味わい。なにしろベースが強力ですからね・・・別次元の花園に誘い込まれ、子供な私は<迷子の子羊>状態です。現代熟成アブサンンの先駆的な存在になるかもしれません。(Distilled /72度/旧ボトル終売★★★

・さらに驚いたのは、1500mlのマグナム・ボトル(36本限定/当店15番)という設定。画像の通りに存在感も抜群・・・・ボトルのシルエットが素敵ですね。でも、人数の多いアブサン・パーティーの時くらいにしか出番がないじゃん・・あっ、ひょっとしたら購入者自身による長期保存瓶熟成を想定したサイズ?瓶も黒く(抗紫外線)て流線型(対流に有利)だし・・な〜んて世迷い事を言いながらも、妙な吸引力に負けて注文してしまいました。財布を落とした事にして・・・

<アブサンの樽熟成>はベル・エポック期の高級銘柄では当然の様に行われていました。当時の加熱した市場競争を勝ち抜く為、差別化や品位向上を目指した様々な熟成作業が試されていたのは周知の事です参照。この点からも「本格的な熟成工程を経ていない現代アブサンは必須の要素を欠いている」と言えるかも知れず、未だに昔のレベルに届いていない部分がある様です。バランスを整えて馴染ませる為のタンク熟成を aged と謳うたったアブサンも見掛けますが、新しい要因が加わる訳では無いので全く意味が違ってきます。数ある現在アブサンの中には数える程も無い本格樽熟成アブサンだけが、ほんの狭い隙間からアブサン本来の姿を覗ける鍵なのでしょうか?

<樽熟成の現状> 本格フレンチ・アブサンの樽熟成に関しては、“L'Enjoleuse fut de chene 2010”、Perroquet fut de chene”、“SAUVAGEなど<VdA>及び<LdF>系が独走中。しかし、他のカテゴリーの生産者もこの手法にトライしています。「浸透法」の南仏パスティス系では“La Muse Verte vieillie en fut de chene”が注目株。独自性の強いアプローチ(下記)を持つ生産者の樽熟成バージョンで、マニアの話題を集めています。本来、樽熟成とは無縁のスイスにも “La Valote Bovet・Nostalgie”があります。54度ですから La Bleueの樽熟成に挑戦している事が分かりますが、先の見えないスイス的技法参照の今後を模索しているのでしょうか?前述の様に樽熟成は避けては通れぬ必須技法であり、各ジャンルに先行して取り組んでいる生産者達がいるのは当然の成り行きとも言えそうです。.

・ “La Muse Verte” のラインナップ展開は非常にユニークです。スタンダードな“La Muse Verte”を基にしたバリエーションは挑戦的で、6年熟成して2010年に出された“La Muse Verte 2004”はニガヨモギ、続く“La Muse Verte 2005”はアンジェリカの美点を強調した特別版。つまり、レシピのバリエーションだけでなくタンクによる長期熟成にもトライしているんですね!そして遂に、オーク樽1年熟成品の“La Muse Verte vieillie en fut de chene”のリリースに至っています。乾燥していない生のニガヨモギを使っている点も特筆点!かなり、気になる・・・生産者の「Artez SARL」はアルマニャックも造っているそうです。

<マグナムの設定理由>について質問したら、こんな返事が返ってきました。『The magnum was created for people who want to keep absinthe for aging for a long period of time (20+ years). 』 推測した通りの瓶熟用でしたが、20年かよッ・・・・2030年・・・まだ、生きてるかな?

<開栓直後の刺激臭> 上記の返事には興味深いことが追記されていました。何回か体験した事のある開栓直後の独特の刺激臭についてです。『We also discovered that the absinthe tastes different in the magnum than in the regular bottle, it's in perfect condition at the opening of the bottle, different from the small bottle that needs the oxygen for a longer time to reach full potential. 』とあります。少なくともレギュラー・ボトルに関しては本来のコンディションを得るために、酸素との共同作業が必要なことが明言されていました。

・以前、他の銘柄でミニ・ボトル(200ml)とレギュラー・ボトル(700ml)では味が違う感触があったのですが、間違ってなかったようです。フォーラムなどでも、「開封直後の荒々しい刺激臭が2〜3日経つと驚くほどの芳香に変貌していた」という記述は珍しくありません。知る限りではDistilled &Maceration 法によるVerteで起こりがちな現象の様に思います。<the coloring step>が原因になっているのかも知れません。別の酒類についての記述ですが、「注入方法、瓶内のアルコール溶液と残留空気の状態、栓をするタイミング、などは意外と重要だ」という指摘もありました。

 

<VdA>

・“La Coquette 2010 ver.2/浮気女”の熟成用マグナムも出てしまいました。2010年は「An exceptional year!」と強調されており、ニガヨモギの出来が素晴らしかったビンテージだったそうです。300本限定のレギュラー・ボトルは既に終売で、「この素晴らしいビンテージを見逃すな!」って脅されてたのに買い逃しました・・・不覚。そんな耳垂れ状態の私には見逃せない大瓶!しかも “ L'Enjoleuse fut de chene 2010 ” マグナムより少ない18本限定・・・一本しか買えないので開栓する勇気が無い、・・・しかも、長期熟成設定・・・そんなジレンマを抱えながらも購入せざるを得ませんでいた。あ〜ぁ。(Distilled /72度/終売品★★★

・前回、マグナム・ボトルについて質問した際、こんな感じの言葉も返ってきました。「We are really pleased with the result and think we will continue to use the magnum size for the next batches… 」 つまり、本人もマグナム設定が気に入っちゃったンですね。その後、“La Coquette 2011 ver.3”のマグナムも登場!

Lemercier Brothers RS最近、気になるフジュロル村の二番手です。1811年に創業した家族経営の古い蒸留所で、アブサン禁止後も数多くのリキュール類やフルーツ・ブランデーを出し続けてきました。現在の経営者Alain Aureggioは禁止解除後の1991年から試行を始め、65種ものレシピを研究したそうです。“Francois d'Argeys”、“Abisinthe”シリーズ三銘柄をリリースして高評価を得た後、ここ2〜3年は静観していた様ですが徐々に動き始めました。渋いところでは、2005年に外部の依頼でリリースした各105本限定の特蒸シリ−ズ"Muse de France #1/#2/#3”でも知られています。HP

・一つ気になる記述を見つけました。1890年、フジュロルに創設された「L. Lemercier & Duval 」 という生産者の資料です。ポンタリオにある現「Les Fils d'Emile Pernot」の前身「Emile Pernot et Cie」はDuval家系列の生産者で、社名由来人のEmile-Ferdinand Pernotはフジュロル出身です。時代的に考えると、フジュロルからポンタリオに不足分を樽供給する為の中継ぎ的な会社だったのではないでしょうか?

・“Abisinthe 45”は、この生産者のスタンダード・ライン普及版です。45度という低い度数ではハーブ精油の溶解が困難な為、技術的な実力やハーブ扱いのセンスが問われる難しい設定と言えます参照。シンプルなコンポジションの中で個性を出さねばなりません。やや苦め方向に振りながらもアニスの程良い甘味を漂わせた軽やかで気軽なアブサンとして高評価を得ています。(Distilled /45度)

・他には、より高いアルコール濃度で充実感を高めた“Abisinthe 72”、基本処方を高級化して「最も強力なアニスアブサン!」と評される代表銘柄の“Abisinthe Amer 72 (〜35ppm) ”などで定評を確立しています。初期銘柄の“Francois d'Argeys”もありますが“Abisinthe 45”とほぼ同内容の様です。

・最近のリリースとしては、ほぼノー・アニスで無色透明な“Pandor Black(69度)とPandor White(40度)。今時の若者が集うクラブやバーをターゲットにした戦略銘柄で、暗い(であろう)店内に映えるドクロのラベルが印象的です。アニス少なめで白濁が少ないカクテル向きレシピの様です。

・そして高度な技術を見せ付けて「Paul Devoille」超えを狙ったかの様な“Coeur Double Distillation”と“ Coeur Triple Distillation”が最新の注目銘柄。特殊な蒸留技法で奥深いアロマを現出し、マニアの注目を集めています。

 

Artisan Distillery Emile Coulinフジュロル村から最後の生産者は1989年に創業した新しい蒸留所です。HPを見ても規模が小さい個人経営規模なのがすぐ分かる感じで好感度抜群。由緒ある<アブサン第二の地>で、こんなに新しい生産者がアブサンを造っている事には興味をひかれます。事情通の人にはモロ分かりの理由を持つアブサン店必須銘柄です。(HP

・“Emile Coulin”の生産者「Artisan Distillery Emile Coulin」は数多くのリキュール類やフルーツ・ブランデーを出していますが、アブサンは2003年にリリースした一銘柄だけです。明確なアニスとフェンネルの風味を凌駕するかの様に被さってくるニガヨモギの強い風味・・極めてストレートなハーブ。コンポジションを持ち、潔いさぎよくシンプルな味わい!複合的な味わいを競う高級銘柄の数々に対して逆個性派とも言えます。今時珍しい、必ず甘味を加えたくなる「苦味ばしったいい男(あ、間違えた)アブサン」なんですね。さあ、角砂糖を乗っけて気軽にポタりましょう!(Distilled/55度)

・“Emile Coulin”はアブサン界では知らぬ者が無い有名な銘柄です。何故なら<最もコスト・パフォーマンスが高い本格フレンチ・アブサン>としての定評があるからなんですね。もちろん、『本格』と名乗るからには「Distillation法」による銘柄に限られる事に異を唱える方は極少数でしょう。この範疇では群を抜く最安値です。フランスに限らないとしてもPhilippe Lasallaに次ぐ2番手につけてますよ。前述の<安旨アブサン>最有力候補がコノ銘柄です。

・あっ、当店に届いたボトルは画像のラベルじゃないんですね・・・・より素朴な手書き風のラベルに変更された様です。ん、ビンの形も少し末広がりの鈍重な感じで微妙に違うなぁ〜?中身は一緒だと思いますが、何があったのでしょうか・・・地酒的なイメージの方向性に切り替えたのかな?表記が“Spiritueux a l'Absinthe”から“Spiritueux Aux Plantes D'absinthe"と偉く?なっているので、ひょっとしたら造り方を改善したのかもしれません。

 

 ソミュール Saumur

Distillery Combierは1834年より続くロワール地方(仏中西部)最古の蒸留所。ワインで有名なソミュール市にあり、ジンを除くほとんどの酒類を手がける総合酒造場です。T.A.Breaux氏がヴィンテージ・アブサンの再現を目論んだ際、工場大火災(1901年)以前にペルノー社が使用していた蒸留器(参照を所有するDistillery Combierは見逃せない存在でした。T.A.Breaux氏の祖先がフランス人で、この地域が出目らしいのも無関係ではないでしょう。

・Jean-Baptiste Combier founded his distillery in Saumur in 1834, and was the inventor of the world-famous orange liqueur, Triple-Sec (which the firm still makes). Later in the 19 th century, the Combier distillery became famous in Europe for its “hygienic” liqueur, L'Elixir Combier , and is also documented as having produced absinthe.

Jade LiqueursT.A.Breaux氏はニューオリンズ生まれの有名なアブサン・コレクターです。多くのビンテージ・アブサンや古レシピなどの資料を収集するだけでは無く、シリアスな姿勢で研究/分析を続けてきました。雑誌、新聞、テレビなどでアブサンの美点を喧伝してきたアメリカ・アブサン業界の有力な推進者でもあります。そして遂に、長年の成果を現出するため盟友David Nathan-Maister氏の助力を得てフランスを生産拠点とした「Jade Liqueurs」を創設しました。彼が協力を要請したのが「Distillery Combier」です。エポック期にアブサンを生産していた実績もさることながら、ペルノー社で使用されていた本物!のヴィンテージ蒸留器を所有する点が決め手になったのは言うまでも無いでしょう。なにしろ、再現に掛ける意気込みは半端ではなく、他の再現銘柄とは全く異なる独自の視点で展開しています。ちなみに、このシリーズも<LdF>の息が掛かっているのは確実ですが、販路は大いに開かれている様です。日本でスポット輸入されていた時期もあり、古くからの愛好家には「憧れの最高級アブサン」としてお馴染みの銘柄ですね。

・「Jade Liqueurs」最大のセールスポイントはDistillery Combierが所有する蒸留器です。Pernod Fils社が100年前、火災事故の折に売却したたオリジナル(左)が使われている事を見逃しに出来るアブサニストは居ないでしょう。1870年頃に造られた器具で1150gだそうです。これに見合う、妥協を許さない精細で根気強い検証・研究が繰り返されました。Ted .A. Breaux氏の尽力で実現した銘柄達は説得力のある高次元の世界観を展開しており、別格の存在感で輝いています。

・“Using the same recipe, if you change the alembic, you won't find the same taste again”. これは、スイスのクロード・アラン・ブニヨン氏がアメリカン・アブサン“Butterfly absinthe”の再現版を依頼された時の言葉です。再現を謳った作業において、オリジナル蒸留器を使う事が必須事項である事が示唆されています。ちなみに、現時点(2010/9)で、古いにしえのアメリカン・アブサン再現を本格的に志向した銘柄は“Nouvelle-Orleans”と“Butterfly absinthe”の二つだけです。

<アブサン業界への貢献> T.A.Breaux氏はアブサン・プロデューサーとしてだけでなく、法改正に対して実質的な働きかけをしたロビイスト?としての功績も見逃せません。アメリカにおいては、積極的な弁護士や企業と手を組み、困難と思われたアブサン解禁を2007年に勝ち取りました。その時にアメリカ市場向けの銘柄としてリリースしたのが後記の“Lucid ”です。その後、この苦難とも言える経験を生かし、フレンチ・アブサンの手枷足枷になっていたフェンネルとピノカンフォン含有量規制の解除や「Absinthe」名称の使用許可取得にも大貢献したそうです。彼のアメリカ人というスタンスは、フランス当局にとって外圧的な効果を果たしたのでしょうか?

T.A.Breaux氏は、2007年に <アブサン禁止令で裁かれる最後の人物> という記念すべき勲章?を得ています。ご存知の様に、この法令は100年近く前の1914年に制定された例のヤツです。Jadeシリーズの供給が停滞していたのは、こんな理由があったんですね。

< Jadeシリーズ > 他の再現アブサンとは全く異なる次元で別格。通常の再現アブサンとは別枠に据えるべき特別な存在ではないでしょうか?100年もの時を経た熟成アブサンの現物を再現したという特殊性!稀有にして無二の<現実的ロマンティック銘柄>です。

<Jade銘柄の存在意義>個人的な見解ですが、T.A.Breaux氏は理想の味わいを追求したというよりは、自分に驚きと感動をもたらしてくれた現物(ヴィンテージ・ボトル)の再生を試みたのではないのでしょうか?そして、サンプルになった古いアブサン達は時を経て円やかで落ち着いた姿に変化しており、その完全に瓶熟成しきった味わいの再現を試みているのがJade銘柄なのでは?と思っています。奇跡的な保存状態においても瓶の中で起きる魔法を止める事はできず、ベル・エポック期に飲まれていた <100年前そのままの味> は現時点では存在しません。<100年前に瓶詰めされ瓶内熟成などの変化を経た味> が目の前にあるのみです。(日本の古いアブサンを体験した事がある方は、あの円やかな瓶熟味を思い出してみて下さい。)しかも、ワインと同じコルク栓のワックス封という防御の弱さや保存状態のバラつきなどを考慮すると<100年前に瓶詰めされ瓶内熟成などの変化を経た味>のより良い基準を獲得するには数本の同銘柄ビンテージ・ボトルを体験する必要もあります。

・上記推測の根拠は各銘柄ごとにバラつきのあるツヨン濃度です。他の現行品よりもかなり低めで、現状においては商業上の大きなマイナスポイントと言わざるを得ません参照。しかも、各検証資料から察するにベルエポック期のアブサンがこれ程までに低い濃度だったとは考えにくいです。しかし、サンプルが存在しないと思われる“Nouvelle-Orleans”は高ツヨン濃度で処方されています。

<Jade銘柄の評価>は両極端に分かれている様です。「値段と前評判の割りにパッとしないなぁ」とも、「素晴らしい!人生最高の体験だった・・」とも言われました。過激だった事前情報によるフラシーボ効果?が悪さをしたのかもしれません。しかし、数多い再現銘柄の中でも本物のヴィンテージ・ボトルを拠りどころにしたのはJade銘柄だけで、現物をテイスティングして処方を試行した例は他にありません。不確定要素の多い蒸留過程も当時の現物(蒸留器)を使う以上の策があるでしょうか?

<再現銘柄?> ほとんどの再現銘柄に付き物の「古いレシピによる復元」・・・商業的なアピールやロマンティックな説得性が主体な感じがしてならず根拠の薄い権威付けな気がします。大まかな作り方を基にした解釈の幅が広過ぎて再現の正確性は期待できません。割と詳しい資料でさえ本当のツボが記述されている訳ではなく、ガイドライン程度の内容です。それ以前に著名な古銘柄の正確なレシピが公開されている例もほぼないんですね。少数ながらもシリアスな姿勢による再現作業も存在しますが学究的な再構築の一つの可能性にならざるを得ないのが実情です。

<.ロマンティシズム > 復元作業に付き物なのが懐古的ロマンティシズムですが、原動力になると同時に舵取りを誤る原因にもなる両刃の剣です。しかし、そのロマンティシズムを振り払って考えれば、醸造技術の飛躍的な発展、交通や農業の発達による原材料の優位性、グローバル化に伴う嗜好レベルの向上など、100年前とは比較にもなりません。幾つかの要素を除けば現在アブサンの到達点の方が高いレベルにあると考えるのが当然ではないでしょうか?例えば、“White Fairy”や“La Coquette/浮気女”を凌駕する銘柄が100年前に存在したとは考えづらいです。

<個人的な結論> とは言え、ロマンティシズムという妙薬こそが現代アブサンの存在根幹を支えている大要因なのは間違いありません。そして、このロマンティシズムと言う衝動を独自の形で具現化したのが <Jade銘柄 > なのではないでしょうか?このように考えると、Jade銘柄が「鮮烈さや強いインパクトを期待する人は裏切り、古熟酒を知る人やロマンを愛する人を感動させる」という結果は当然な気がします。

<本物の味わい?> 「100年前の本物のアブサンが最高の現代銘柄より美味しかったのは当然だ」、と考える人は多いようです。とてもロマンティックかつ魅力的な意見なので反論するには勇気が要りますね。しかし、それが本当にそうなのか?という事は誰にも分かりません。前述の通り、現在 <100年前のそのままの味>は存在せず比較できませんし私達が当時の人達と全く異なる嗜好性を持っているのも確実です。つまり、アブサンに関しては <本物の味わい> と言う座標軸を設定する事自体が無理なんですね・・・

<ベルエポック期の主要銘柄の再現挑戦>

PF 1901 は1901年の工場大火災以前のOPF (オリジナル・ペルノー・フィルス/参照真剣再現を目指しました。「Jade Liqueurs」の存在証明の様な根幹銘柄です。2007年の< I・W・S・C>にて銀メダル。(Distilled /68度)

L'Esprit d'Edouardはアンリ・ルイ・ペルノーの長男が起した銘柄(参照、規制直前には業界第三位の人気を誇っていました。2006年の< I・W・S・C>にて銀メダル。(Distilled /72度)

VS 1898 (旧名Verte Suisse 65)はフランスでの評価を二分したスイスの古跡 “C.F.Bergerベルジェ (参照”の1898年製未開封ボトルを基に処方されました。La Bleue(無色透明)以前の色が付いていた頃のスイス・アブサン再現版は珍しいです。2007年の< I・W・S・C>にて金メダルと Best of Class 。(Distilled /65度)

・上記の通り、全ての銘柄が最も権威あるインターナショナル・ワイン・スピリッツ・コンペティションで金か銀のメダルを取得しており、このシリーズの品位とT.A.Breaux氏の手腕を裏付けています。加えて、その突出した存在意義からも「アブサン店の必須アイテム」なのは確実かと思います。お試し下さい。

・<Jade銘柄 > の中でも四作目にあたる“Nouvelle-Orleans”だけはコンセプトが異なります。T.A.Breaux氏が自らの故郷アメリカの古アブサン再現を目論んだとしても、ビンテージ・アメリカン・アブサンの現物は発見されていません。欧州より規制が厳しかったアメリカでは既存のアルコール飲料のストックが徹底的に破棄されたからです。恐らく、現地で生産されていたアブサンの古レシピを基に妄想構築したと思われます。

<故郷に錦のニューオリンズ・アブサン再現!>

Nouvelle-Orleans” なる銘柄名は、19世紀に<新世界のパリ>と讃えられたルイジアナ州ニューオリンズのフランス読み。自らの故郷の銘柄再現にトライした今回、さぞかし力が入った事でしょう。キニーネの様に現実的な薬用効果が期待された古いにしえのアメリカン・アブサンをイメージした変り種で、ヨーロッパ系とは明らかに異なるハーブ・コンポジションが最大の特徴です。当然の様にグレープ・スピリッツ・ベース。フェンネルのタッチとヒソップスのフローラルな存在感をニガヨモギとアニスの力強い背景が支える特異なテクスチャーを持ち、花の様な余韻と柑橘系の刺激的な舌触りが個性を際立たせています。異国の麗人・・・2006年の< I・W・S・C>にて銀メダル(Distilled /68度)

・「Jade Liqueurs」の最新銘柄。日本でも “PF 1901”、“ Edouard ”、“ Verte Suisse 65 ”などは少量流通した時は値段(12000円くらい)でも話題になりました。これらに続く四番手でしたが、スピリッツ類としてはツヨン濃度が高すぎた(30ppm前後)ために輸入許可が下りませんでした。

・「 We have been informed that due to legal issues with Pernod Ricard over the use of certain design elements in the Edouard and PF1901 labels, these labels will be changing in future.」 あんなアブサンしか出してない有名メーカーからクレームがきたらしく、PF 1901”、“L'Esprit d'Edouardは2011年からラベル変更を余儀なくされたそうです。なんか、つまらん話ですね・・・

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左から旧 “PF 1901”、新 “PF 1901”、旧“ Edouard ”、新“ Edouard ”、“ VS 1898” 、そして別ラインの“Blanchette”

・四種のラインナップとはチョッと趣きが異なる銘柄があります。上右の“Blanchette”です。T.A. Breaux氏が例の蒸留器を使ってDistillery Combierの19世紀レシピを基に演出しました。でも何故か60度で無色透明なんですね?従来のLa Blancheには無い独特のテイストを得ており、一味違ったコレクションとして好まれるそうです。粋な試みですね。2006 <International Wines & Spirits Competition>で銀を、2006 <Absinthiades>で金を取っています。(不在)

 

Viridian Spirits company 」 in NY

Lucid ”の可愛らしい視線に見つめられると、何故か嬉しくなります。web上では長らく売り切れ状態で、終売品かと思っていたからでしょうか?実は昔飼っていた黒猫の目つきにソックリなんですね・・・名前は「スモモ」で、22歳まで生きました。あっ、関係ない話ですね・・・“Lucid”はJadeとは別ラインで“Nouvelle-Orleans”の妹分的存在。ニューヨークの会社から依頼されたアメリカ市場向けのアブサン(2007年承認)です。アメリカ解禁後の黎明期を飾り「 This is the first authentic absinthe to be released for purchase within the U.S. since the early 1900's.」と評されました。しかし、本当に市場を支えてくれる、テイスティングなんて分析を重視しない人たちの為のカジュアル・アメリカンです。(Distilled /62度)

 

<イタリア>

・ハーブリキュール王国ともいえるイタリアでは同種のハーブ酒は既に普及しきった末に嗜好性が確立しており、グラッパにも反映された独自の歴史を誇る蒸留技術やハーブ類の扱いの熟達度などには他国を凌駕する側面を持ちます。アブサンの生産は全盛期においても盛んではありませんでしたが、1900年代初頭からはある程度の需要はあった様です。新時代を向かえて幾つかのイタリアン・現代アブサン銘柄も登場しはじめた矢先、アブサン最大指針国イギリスの砲台から打ち出された華麗なる巨大砲弾(ボトルも太い)が“L'Italienne”です。

・イタリア的な文化を持つフランス領のコルシカ島には二つのアブサン生産者が稼動していたことが分かっていました。しかし、不明な点が多すぎて印象に残り辛いエリアだったんですね。しかし、近年、“Absinthe Bregante”の1890〜95年産と思われるボトルが出土。明らかな物証として輝いています。やはり、記録だけではなく現物が出てくるとリアリティーが違います。

Bregante were one of only two distilleries in Corsica, a significant centre for absinthe consumption in the early 1900's.

Distilleria Alpe フランス国境近くのヴァッレ・ダオスタ州は、アルプスの山々(モンブラン、マッターホルンの麓)に囲まれたイタリアで最も小さな州で、スイスの名産地トラヴェール渓谷と地理的にも環境的にも似ています。この地で長年の経験を持つリキュール名人 Stefano Rossoni はジェネピ酒やビター酒の名手として知られており、特に高山ハーブに対する高い経験値を持つ専門性の高い特殊な蒸留者です。グラッパも生産しており、ベースとなるグレープスピリッツの自家生産などもお手の物らしいですね。<LdF>がイタリア産のハーブに着目してプレミアム・イタリアン・アブサンの生産を託す先としては最良の選択だったのでしょう。(参照

・とんでもない話が伝わってきました・・・なんとStefano Rossoni がチェコ?に移り住み?新たな展開を目論んでいる?というのです。“St. Antoine”で名を挙げつつあるMartin Zufanek が絡んでいる様で、協力体制にあるのでしょうか?新銘柄“La Grenouille(カエル)”もリリース済みとのことですが、いまだに信じられません・・・<LdF>との関係は・・・超お気に入り銘柄“L'Italienne ”の行く末は・・・“La Grenouille”はどんな感じなの・・・気になって夜も眠れません(すんません、ウソです)・・・でも、さすがに「移り住む」は誤報じゃないの〜(2011/01/17)

<LdF>

・“L'Italienne Ver,1”はイギリスの酒類流通業者 <LdF>のプロデュ−スで実現した特別なアブサンです。地産ハーブ(※)にこだわり、その選択と品質には今までに無い細心の配慮がなされました。使われている高品質のピエモンテ産ニガヨモギは長年イタリア産ヴェルモットの評判を支え続け、一朝一夕に出来たものではありません。他の主要ハーブもエミリア=ロマーニャ州の契約農家の有機栽培品を軸に、イタリア中から集められたそうです。もちろん高品質のグレープスピリッツの使用も必須条件でした。

・そして、その味わいは「the feminine and floral style absinthes 」との事で、かつてのPernod et Fils社製アブサンに冠された形容詞を標榜する事は、アブサンの理想形を現出せしめんとの心意気を表しています。新鮮でフローラルな芳香と力強さには多くのアブサニストが魅了され、絶賛の嵐が巻き起こりました。イタリアというアブサン業界では評価されずらい国から丁重で確信犯的な企たくらみです。女性的な繊細さと華やかな花の香りを放つイタリアの名花をお試し下さい。(Distilled /65度/終売品★★★

・こちらにあるファースト・ヴァージョン(2008年)には Stefano Rossoni の魂が込められており、耽美的で不思議な存在感が感じられたそうです。2008年5月にデビューした時に多くのアブサニスト達が賞賛(90P!)した事実は驚きですが、私もフォーラムでの圧倒的な評判を目にして興味を持ちました。世界市場にインパクトを与えた後にも進化し続ける“L'Italienne”は、現在セカンド・バージョン(当店不在)で、<LdF>関係のサイトから購入可能です。

()例えば、ポンタリオやトラヴェール渓谷の様な本場と言えども全ての原材料がスイスの地産原料というわけではありません。昔から<聖なる三草>の内、フェンネルはイタリアや南フランス、グリーンアニスはスペインや南フランスなどの地中海沿岸産が使われてきました(参照)。そして、スイス周辺の適正生育主要ハーブ(ニガヨモギ、小ニガヨモギ、メリッサ、ヒソップス)ですら禁制期には栽培が途絶えており、密造者達は自生ハーブを主に使用していたそうです。規制解除直後は商品化に必要な量と品質を確保可能な栽培技術の確立が急務で、その試行・検証には大きな苦労があったようです。(参照

・栽培法のみならずハーブを良い状態に乾燥させる技術も以外に難しいようで、原材料の品質管理において重要なポイントになるそうです。シビアな収穫時期とか適正な含有水分量など酒用以外の用途とは異なる要素が求められるのではないでしょうか?ハーブリキュール王国のイタリアがこの点でも突出しているであろう事は容易に推測できます。

左は使い物にならない×メリッサ    右はトップ・クォリティーの◎メリッサ

・この蒸留所が得意とするジェネピ酒の原材料ジェネピ(下左)は、アルプス原生のニガヨモギの一種で高級アブサンに使われる事もあるレア・ハーブです。標高2000bの冷高地に自生し、アルプスの霊草として珍重されてきました。耕作可能地域も限られ、収穫時期もシビアな手の掛かるハーブだそうです。ジェネピ酒は聖なる薬草酒として高地住民の健康に寄与した歴史も長く、かつては登山家などの記述で存在が知られていただけだったそうです。

・そう言えば、某コレクターサイトで“L'Italienne”のラベルにクリソツな小瓶を発見しました(下右)・・・Vieille Absinthe“ La Pontissalienne"なる ヴィンテージ銘柄です。デザインもマンマだし、銘柄名の類似性もハンパないですね。ポンタリオ産と称してはいますが、当時の商業モラルを考慮するとイタリア語圏スイスのアブサンとなんらかの由来関連があるのかもしれません。実はイタリア産と聞いても驚けません・・・

     

 

<スペイン>

・アブサンの銘柄数が最も多いと思われるスペインには、現行アブサン最高価格(300ユーロ/現地の値段です!)の“Segarra 68(1)から、他国では見かけないお徳用3gペットボトル(2)までが流通しています。ゲテもの的銘柄(3)のトレンド・ヒッターでもあり、さすがに唯一の適正地域非禁止国は懐が深いですね。玉石混交の面白い地域ですが、今後を見据えた戦略的な銘柄(4)には注目が集まっており侮れません。基本的には大衆向けの気軽な銘柄が充実した最大のアブサン消費国です。

1)   2)   3)   4)

・スペインではほとんどの蒸留所が地中海側に集まっています。驚いた事に、“Tunel”で有名な「Antonio Nadal」や特徴的なボトルの「Mari Mayans」などは地中海の島!にあるんですね。地図上で見ると、この島も含めたスペイン地中海沿岸、プロヴァンス地方、トラヴェール渓谷、ポンタリオ、フジュロルなど、アブサンの名産地は一線上にある事に気付きます。同じ断層地盤の上にある軟水地帯で、ハーブ育成に向いた石灰質が少なめの土壌という共通点があるのかもしれません。

・アブサン生産国としてのスペインを侮れない理由として、本家ペルノー・フィルス社のタラゴナ工場の存在という歴史的事実があります。解禁以前の最後期(1965年)までフランスタイプの本格的なアブサン “ Pernod Fils Tarragona ” を生産し続け、その技術がスペイン国内に継承されている事は確実ではないでしょうか?某ドイツのマニアサイトによると、当時「Montana Distillery」がその流儀を継いだ様な記述もあり、1970年くらいまでは68度を守っていた様です。働いていた職人さんや器具などは残存しているはずで、“タラゴナ・ペルノー”の復活を考えているスペイン人がいない訳ないと思うんですけど・・・もし実現したら注目度抜群ですしね。

Destilerias del Penedesは南スペインのヴァルセロナに近い Gelida という町にあります。スペインというお国柄を反映してラムなども造っている様ですね・・・しかし、下記の“Philippe Lasalla”は世界でも稀に見る優良銘柄で、コストパフォーマンス的にはダントツNO1と言っても過言ではありません。凡百の本格アブサンを凌駕する味わい!当店でもお勧めする事が多いんですよ。個人輸入などなさる際には必ずご購入下さい。ちなみに、この銘柄は1818年から生産されていたらしい・・とのウソ臭い記述も見かけましたが、スペイン語の翻訳ソフトがホニャララ〜なので不確実です。

××

・“Philippe Lasalla”はスペインの典型的(typical)アブサン達の中ではいささか異なった趣を持ちます。数多いスペイン産普及クラスとしては相当珍しい無着色・無加糖という美点は特筆すべきで、安価な良いアブサンの例として引用される事もある超優良銘柄。国内を壊滅状態に追いやったスペイン内戦(1936〜9)の後、最初に復活したアブサン銘柄でもあります。メリッサの引きが残る高品位な味わいが印象的で、花束系入門編にピッタリのブーケです。( Distilled?/50度)

・バルセロナにある製造元の「Bardinet」社はスペインには良くある「何でも造ってるゼ」的なラム系総合酒造生産者なんですが、パスティスは四種類もリリースしてるくせにアブサン銘柄は一種類なんですね。でも、この価格帯なのに「Distilled法」らしくて、昔からの銘柄に手抜きが無いとは矜持を保っているエライ会社なのかも・・・1857年創業の伝統を誇る筋金入りです。

・中央のボトルは1970年代後半のヴィンテージ・ボトル(1g)で、350ユーロの値が付いていました。面白い事にアルコール濃度は60度の製品なんですけど、ラベルには赤に白抜きで68という数字が・・・ペルノー・アブサンと同じ表示じゃないと×だったんでしょうか?ペルノーのタラゴナ工場が撤退した1965年以降もスペインでのアブサン生産は続いており、今にまで至っています。( Distilled?/60度/不在)

・右のミニ・ボトルは、幻すぎて精細不明の“Philippe Lasalla Bianche

・ “Oxygenee”という限定銘柄があります。有名なポスター(参照)で知られている古跡の再現?判ですが、今では200ユーロ(3万円前後)の高値で取引されているコレクターズ・アイテムです。この再現“Oxygenee”を飲んだ人が「 I enjoyed it but it is comperable(actually better) to say a good Spanish brand like “Lasalle” (オキシゲン”も楽しかったけど、どうせ選ぶならスペインの良い銘柄、例えば“ラサール”みたいな奴の方がいいじゃない?)」って感想を残していました。でも、この高価で稀少な“Oxygenee”は「Mixed & Macerated タイプ(後述)」なんですよね・・

Monforte del Cid は1982年に創業した比較的新しい生産者です。地中海側のアリカンテ(Alicante)にあり、様々なリキュール類やウォッカなどを作っているようです。銘柄名の“NS”とは安全を示す略語らしく、非禁止スペインでもアブサンのダークサイド感を考慮する必要があった雰囲気がうかがえますね。(HP)

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・“NS 55”は赤!他に緑色の“NS 55 Verde”と“NS 70 Verde”を出しており、多くのサイトでは緑の方がポピュラーです。それなのに赤の方が基準銘柄名になっているのは何故なんでしょか?そういえば、別のスペイン生産者「Licores Sinc(1964年〜)にいたってはアブサンは赤い“Serpis”のみで、ある時期には黄や緑や青もあったそうですが消滅・・・なぜスペインは赤?まさか、闘牛で使う布(ムレータ)の色が赤だから?ラテン的メンタリティーでは「男は赤だろっ!やっぱ赤よ〜赤しか無えじゃん!」って事じゃないでしょうね・・・・アブサン業界七不思議の一つです。

・“NS”シリーズの評価は以外と高く、海外では「This cheap absinthe is one of the best Spanish absinthes !」などの表現がなされ、日本のマニア間でも評判を得ています。フレッシュな柑橘系のトップを持つハーバル(植物的)な芳香に満ち、ミンティな個性が爽やかな爽快感!本格派以外のエリアでは人気者です。(Mixed & Macerated/55度)

・ドイツ仕様は別ラベルの別銘柄名になっています。ドイツの販売サイトで良く見かける“Candela(右)がそうらしくて「中身はNSと一緒だよ」って書いてありますね・・・緑色/55度なのでNS 55 Verde”の対外ヴァージョンの様で、ドイツの「Baumgartner」という輸入業者の銘柄だそうです。現代のゲルマン感覚のデザインですね・・・・(不在)

・このページの冒頭でフランソワ・ギー(Francois Guy)氏が指摘(参照)した様に、スペイン産は×なのでしょうか?主要ハーブ生育適正地でありながら非禁止国だったスペインにおいてはアブサン自体が特殊な飲み物と言う訳ではありません。地域限定ながらもお徳用3gペットボトル!があるくらい庶民にとっての日常選択品の一つですから、ハーブ精油をアルコールに溶かし込んだ「Mixed & Macerated 法」の銘柄が多いのは無理もないんですね。スペイン産アブサンの品質アベレージが低いと言う印象は、市場の要請に応えて裾野が広すぎるだけなので技術力が劣るという訳でもない様です。

Mixed & Macerated法」 この手法による品質のフレ幅は意外と大きく、Mixed & Macerated =低品質とは限りません。評判のスタンダード版“ヴェルサント”はこのタイプの良品です。他には、ドン底の現行“ペルノー・アブサン”、???な “アブサント55”などもあります。スペイン銘柄のほとんどがこの手法ですが、アブサン市場の熟成に伴って「Distilled法」のスペイン産本格銘柄も増えていくのではないでしょうか?

・ちなみに、「Mixed」はハーブ精油のエッセンスをアルコールに溶かし込む「「Essences Added法」の事で、スペインやチェコの普及銘柄の多くに使われていますが、出来不出来の差が大きいであろう安易な手法という印象は免れません。「Macerated」は「Maceration法」の事で、原材料をアルコールに漬け込み浸透させる手法です。南仏系パスティス系や各地の地リキュールを発展させた銘柄によく見られますし、一般的リキュール類の多くに使用される洗練された手法です。「Mixed & Macerated法」という表記では、どちらかの単独なのか併用なのかが分かりづらいですね。

<アブサン蒸留法の区分け> アブサン業界では大まかに「Mixed & Macerated法(=普及品)」と「Distilled法(=高級品)」に分ける事が多いですが、厳密には「Essences Added (Mixed) 法」、「Mixed & Macerated 法」、「Maceration (Macerated) 法」、「Distilled &Maceration 法」、「Distilled 法」に分けられ、難易度も同様の順で上がっていきます。緑(黄)色の高級アブサンは蒸留後にハーブを浸透させて色付けや香り付けをする最終行程(coloring step)を経ているので「Distilled &Maceration法」ですが、習慣的に「Distilled法」とされる事がほとんどです。

Esmeralda Liquors スペインには「Distilled法」で造られたアブサン銘柄はほとんどなく、法外な値段の趣味的銘柄“Segarra 68”、“Segarra 45”、先述の優良品“Philippe Lasalla”くらいでした。しかし、カリフォルニアのナパ・ヴァレーから参入して来た二人のプロデューサーと現地の蒸留職人の手で新しい蒸留所が創設され(2007年)、「Distilled法」による斬新な銘柄をリリースしました。出目からも推測できる様に、アメリカという未開拓の巨大市場をターゲットにしているのは確実です。Segarraの流儀を参考にした上、特徴のあるハーブ構成などでスイス・フランス系主流派に対して強い差別化が成されました。固着化したスペインのアブサン業界に大きな一石を投じましたが、その波紋がどのような拡がりを見せるのかは州法の拘束力が強く遅々として法定緩和が進みづらいアメリカ市場の反応次第です。

・“ Obsello (オブセラ)”は、「ベネデス産高級ワインのストックを直に蒸留!してベース・アルコールに使用」と云う点が最大の謳い文句で、この様な前例は非現実的な特殊銘柄“Segarra”しかありません。さらに、8種類のハーブ別に蒸留した後にブレンドするというフジュロル並みの強力な技も加わりました。ナパ・ヴァレーの流儀(科学的合理性)とスペインのテロワール(自然の恵み)が融和した、かつてないアブサンです。

・“ Obsello (オブセラ)”に関しては、むしろスペインでは入手容易な高級原料グリーンアニスではなく、あえて安価なスターアニスを使用しているらしい点にこそ確信犯的な戦略を感じます。主流派とは違う販売需要を開こうという意図が感じられ、リコリス味好きのアメリカ市場を狙っている(ナルホド!)様で、低アルコール志向とも合致します。ボトルデザインのアブサンらしからぬ洗練振り(個人的には?)も差別化を意識していますね。登場した時には某フォーラムで<“Segarra 68” vs “Obsello”>なんて具体性満点のトピックが立つほど話題を呼び、“Obsello”に軍配を挙げた人が少なくありませんでした(両者の価格差は10倍近いんです)。今ではスペインのトップ銘柄としての確実なシェアと信頼を得ています。「 Obsello Absinthe Verte is the only premium grade, Spanish absinthe on the market today. 」だそうですよ・・

・極上グレープ・スピリッツの意義と存在感を味わうのに、これ以上適切な銘柄はありません。この美点を引き出す為にも50度という低い度数を設定しているのでしょうか?そして分別蒸留という高度な技による華麗で多層的な味わいも見逃せないポイント。そして、ワイン界に新潮流を起こしたナパの流儀、困難なアメリカ市場に絞りきった斬新な戦略など、他に類を見ないコンセプトを実現しました。蜂蜜を想わせる甘やかで豊かな味わいと、その美点を支える洗練されたハーブ構成。新感覚のフル・ボディーをお試し下さい。とても良いアブサンです。(Distilledd/50度)

・蒸留所の場所はローマ時代からのワイン産地として有名なペネデス( Penedes )地方で、 フランスに隣接したスペイン北東部カタロニア州に広がる地域です。当然の様に地中海に面していますね。シャンパーニュ方式スパークリングワインのカヴァが特産品なので、ワイン生産が本格的に盛んになったのは'60年代からですが、国際的な港湾都市バルセロナに近い先進的環境もあり近代的で革新的なワイン造りに挑戦してきました。ナパ・ヴァレーの革命児ロバート・モンタビが動き出したのも同じ60年代なのは興味深い事で、モダンなワイン生産地としては同時代ライバルだったのでしょうか?現在では「赤のリオハ」に対し「白のペネデス」などと言われる程の評価を確立しています。

<余剰ワインの副産物?> 新興地域(ニュワールド)の安価で良質なワインにシェアを奪われ、ヨーロッパ産ワインの消費が激減した結果、大量の余剰ワインがアルコール含有廃棄物と化しています。この問題はかなり深刻な様で、安いワイン向け畑の「減反」奨励金、ブドウ園の早期閉鎖に多額の奨励金、余剰ワイン蒸留に対して補助金、工業用アルコールや バイオ燃料(バイオエタノール) などの原料に利用する、などの対策が行われてきましたが先は見えていません。特にフランス、イタリア、スペイン、ポルトガルなど伝統的に主流だった国ほど行き詰っているそうです。“ Obsello ”の登場は名産地の余剰ワイン有効利用という隠れた側面があるのは確実かと思われます。とは言え、ワイン原料のグレープ・スピリッツと云っても品質の幅は相当広く、その価格にも10倍以上もの開きがあるそうですよ。

・最近、「大衆銘柄も含めたスパニッシュ・アブサンの多くはグレープ・スピリッツを使用しているらしい」と聞いて驚きました。「現地では最も安価な醸造アルコール原料は余剰ワインだから」との事です。上記の事情を考慮すると納得できる話です。もちろんグレープ・スピリッツ自体の品質差はあるにしても、Mixed & Macerated法が使用されることが多いスペイン銘柄に割りとイケル奴が多いのはそんな理由があるからでしょうか?“NS”、“Serpis”、“Montana”、“La Salla”などはOK牧場ですもんね・・・

<スイス>

スイス国内で操業しているアブサン蒸留所の内、販売サイトなどで良く見かける(=対外的に販売網を持つ規模やスタンスを確立している)主要な生産者は10軒ほどです(2010年4月)。しかし、次項カルナッハ村の「Distillery Matter-Luginbuhl」を除くと、クーヴェ(Couvet/2755人)、ボバレス(Boveresse/392人)、モティエ( Motiers/825人)、フルリエ村( Fleurier/3518人)などを含むヴァル・ド・トラヴェール地区の半径10km以内に凝縮)して集まっているんですね。下の画像を御覧下さい。なんと、一枚の写真に納まっています・・・これを知った時、La Bleueが超ドメスティックな名産?品である事が実感されて驚きました。同業者同士ですから、ほぼ全員が顔見知り(たぶん馴染み)なのは間違いありませんね。この地域は時計産業の方が有名だったんですが、クウォーツに押されてかつての勢いはありません。ちなみに村の(地名/人数)は2007年12月時点での人口です。

・ In 1914, there was a total of 25 distilleries in Pontarlier (France), whereas in 1910, there were only 13 in the Val-de-Travers (Switzerland). This shows how famous absinthe had become in France. Indeed, although absinthe was born in the Val-de-Travers, it is in France that it really rose.

< ヴァル・ド・トラヴェール地区 / フランス語圏>

<モティエ(Motiers)> にはイブ・キュプラーの「Kubler & Wyss/ Blackmint Distilleryがあります。スイス国内シェアの70%を占めるダントツ一位の生産者で、2005年の段階で年8万gもの大量出荷を成しとげてISO(工業国際規格)も取得してる唯一の企業レベル生産者です。HPもウザい位に本格的・・・そして<Distillerie La Valote Sarl >という名の有限会社もあり3名の個人生産者が蒸留器を共有して各自の銘柄をリリースしています。割と流通しているお馴染みのLa Bleue達で、「Bovet、「Fornoni、とボバレスに蒸留所を新設した「Martinがメンバーです。あと、謎の「Roger Et ienne」なる生産者の“La Motisanne”もあります。

<フルリエ(Fleurier)> には、“L'interdite”で知られている小規模な「Distival distilleryと、酒類流通業者のBezencon Francis氏が古い「Sandoz distillery」を買い取って始め(2005年)た 「Distillateur de l'Elixir du Pays des Feesがあります。後者は個人アブサン博物館を併設している事でも有名で、元密造者ではない地元マニアの銘柄として異色ながら高評価を得ています。両者とも対外的には出遅れ気味な感じですか、ドイツへは出荷している様です。他には、<Bovet Racine Sarl>という有限会社もあるようで、 Marthaの姪でアブサンチョコレートの「Sylvie Bovet」、「Delachaux Fritz」、“La Fine”の「Racine Christophe」などが協力し合って「Distillery Bovet Racine」を運営しています。手書きボトルや妖精との交流で異彩を放つ「Absintherie Celle a Guilloud」は気になる存在。ヴェリエールの<Les Artisans de l'Absinthe>に参加している“La Fee Vallonne”、“La Troublante”の「Alain Rey」もこの地の生産者です。有名なラ・マロットが活躍していた町という事もあるせいか密造血脈が濃い感じがしますね。こんなに沢山の生産者がいるのに、最初の二銘柄だけが極一部のサイトにしか出回ってないんですもん。

<クーヴェ(Couvet)> では、有名なクロード・アラン・ブニヨン氏の「Artemisia Distillery新進女流「Gaudentia Persozなど外から移り住んできた新しい世代が活躍しており、新たなマーケットを拓きつつあります。そして、“55 de"のDistillerie Distab Sarl」、“La Philosophe”の「Chris Julmy」、そして「Marco Previtali」など在村家系の元密造者と思われる生産者の存在は見逃せません。しかし、ブニヨン氏の様な若い新規参入者の存在ばかりが目立ち、始原地としての説得力は今一つという印象です。仙人みたいな老齢の生産者が年に100本くらいしか造ってなくて入手できない・・・な〜んて話があれば雰囲気なんですけど。そう、ロマーノ・レヴィ的な感じでね!

<ボバレス(Boveresse)> に蒸留所はありませんでしたが<La Valote>のFrancis Martinが2010年1月1日に自分の「Distillery Francis Martinを始めました。4銘柄を出しているそうで、無色透明で72度の“La Valote Martin l'Originale”など挑戦的な銘柄もあります。この地では毎年6月にLa Fete de L´Absintheという村起こし的なアブサン祭りが行われ、各生産者の交流の場とスイス・アブサン高揚の場にもなっています。

<ヴェリエール(Les Verrieres)> はフルリエから5kmほど西の小さな村です。<Les Artisans de l'Absinthe>というグループ?があり、「Christian Rey」、“Jeanjaquet Suisse Absinthe”の女流「Rene Jeanjaquet、そしてフルリエから「Alain Rey」などが参加しています。

<オヴェルニエ(Auvernier)> はヌーシャテル市の傍かたわらにある小さな湖畔の村です。有名な密造者ラ・マロットの姪娘が「Absinthe Duvalloniを操業しており、マニア向けの稀少アブサンをリリースしています。

< ドイツ語圏 >

<カルナッハ(Kallnach)> はヌーシャテル市と首都ベルンの間に位置する小さな村です。ヴァル・ド・トラヴェールからは50km程離れたドイツ語圏にあり、その不利なスタンスを逆に生かした特異な展開でアブサン業界全体を先導してきたDistillery Matter-Luginbuhlがあります。<LdF>とのコンビも好調で、フランス的そしてLa Bleue的な美意識のどちらにも縛られない処方から生まれた銘柄達は今後のアブサンの可能性を示唆するかの様です。

<チューリッヒ(Zurich) > もドイツ語圏ですが、ドイツとの国境に接する州です。この地で蒸留業を営んでいた「Brennerei Hans Erismannがアブサン製造に名乗りを挙げました。2010年以降、初めてアブサン蒸留許可を正規取得した新規参入者です。リキュール、ウイスキー、グラッパなどを生産している多酒類系蒸留所ですが、2005年にリリースされたLa Bleueタイプ銘柄“Zurcher Fee”の評判は上々で、< Swiss Schnapps Forum>にて3回の金賞を得ています。今後のアブサンの普及に伴い類似の動きが始まってくるのは当然で、アブサン専門業者には出来ない発想が爆発する可能性もあり油断できません。 (→国内流通のみと輸出可能な2種類の法的枠組みがあるのかもしれません。次項参照)

・上記の生産者中ほとんどがLa Bleue的銘柄を手掛けており、味の傾向が似通っています。それぞれの銘柄の違いが微妙すぎて困る事がある程・・・そんな中で、La Bleue的な価値観から脱却した数少ない例外と言えるのは、途出した存在感のドイツ語圏生産者「Distillery Matter-Luginbuhl 」とその強い影響下にある新進のArtemisia Distillery」だけかもしれません。共に先進的なディーラーとタッグを組み古い価値観には拘らない柔軟な姿勢と挑戦的な方向性を打ち出し、スイスのみならずアブサン業界全体を先導し続けてきました。又、女流生産者では新進の「Gaudentia Persozと密造家系のAbsinthe Duvalloni」も毛色の変わった存在ですが、後者は明らかに「Artemisia Distillery」の影響下にある弟子的な存在に思えます。両者とも純La Bleue的な価値観の範疇から逸脱している訳ではありませんが、今後の展開が注目されます。

の付いた生産者の銘柄は大手販売サイトで購入可能です。★は当店在庫銘柄もあり、項目を設けて詳しく紹介してあります。)

< 密造者/謎の生産者> もちろん、非合法の密造者は今だに存在している様です。「今まで通りのやり方で地元で顔見知りに売る分だけ造れればいいヤ」と考える生産者がいるのは当然ですね。このサイトなんか超怪しげじゃないですか?正規操業をするためには衛生面を含めた設備変更の経費を捻出し煩雑な法的手続きをクリアする必要もあるでしょう。モティエの<La Valote>やフルリエの<Bovet Racine Sarl>などは数人で協力して組合や有限会社(Sarl)を作って認可を取り、各個人の負担を軽減しようとの試みの様です。よほど気心が知れた仲同士ではないと無理な方法ですね。

・真性マニアが多いドイツ語圏スイスと思われる某個人サイトで、偏ったコレクションの中に見たことも聞いたことも無い秘蔵アブサンが紹介されている記事がありました(2009年9月頃)。同じラベルなのに容量がバラバラの色も形状も全然違うビンだったり、生産者の事情に詳しいくせに個人名は伏せて「he」などと記述してたり、写真は下手くそなのに画像保護は強力だったりと非合法感がポタポタ滴したたってます。このサイトから生産者へ連絡を取ってくれるそうで「何度かのメールのやり取りの後に信用を勝ち得たら購入可能かも」などと匂わせてあり怪しさ満点です。先日(2010年5月)、再確認しようとしたらサイト自体が完全に消滅しており「やっぱりな・・」って思いましたよ。ひょっとしたら密造者本人だったのかも・・・もう、そんな時代じゃありませんぜ、旦那。

・それにしても、“de la Gruyere”、“Zurich La Fee Verte”、“Z'Graggen”、“Lussi”、“Geiss Daddy's”、“Zimmerli”、など謎のドイツ語圏スイス製と思おぼしき銘柄達(下)も販売されている様ですが英語の販売サイトやフォーラムでは完全に見かけません。稀まれに売っているサイト(ドイツ語)を見つけても海外からはアカウントが取れないようになっており、現地で購入するしかない様です。それ以外にも、“Nuance 68”の「Allen & Mann」、“Malicia 53”の「Distillery Guinand」、“Boldini”の 「Assenzio Boldini」、“Absintissimo 55”の「Rene V. Wanner」など、web上で見かける精細不明のスイス生産者を加えると数えきれません。非EU国のスイスでは、上記の輸出されている銘柄を生産可能な正規生産者達?とは別枠の地域的な法的枠組みがあるのでしょうか?又は、面倒くさがってるだけ?個人的な<アブサン業界七不思議>の一つです。

     

< Association Interprofessionnelle de l'Absinthe >はヴァル・ド・トラヴェール地区のアブサン生産関係者による相互協会?です。スイスの伝統的なアブサンを保護する為に地区の主だった生産者17人によって運営されており、副会長にイブ・キュプラー氏、会計?にクロード・アラン・ブニヨン氏などが名を連ねた本気の集まりです。要するに、『アブサンの起源はスイスのヴァル・ド・トラヴェール地区だって事を権威付け、優位性を確保する為に皆で頑張ろう!』って感じの様ですね・・・先日、リリースされた“Absinthe de la Fete du 24 Fevrier 2010”は協会の一周年を記念したアニヴァーサリー銘柄で、協会員のアブサンから選抜された中身らしいです。つまり、協会が認めた最優秀のLa Bleueって事になるんでしょうか?チョッとだけ気になります・・銘柄名から2009年の2月24日が協会の発足日かも知れません。

・しかし、この協会は2009年の3月31日に、ITG(Indication geogra-phique protegee/地理的表示保護)を申請する強硬手段に出ています。"La Bleue"、"Fee Verte"、"Absinthe"などの名称を、ヴァル・ド・トラヴェール地区以外で生産されたスイス・アブサンに対して使用制限する法案が審議中の模様・・・狭い限られた地区以外のスイス生産者が"Absinthe"の表記を禁じられるかもしれません。"La Bleue"の名称だけなら納得できますが・・・これに対して海外からも反対の声が上がっているのは当然だと思います。こちらのリストは異議申し立て者のリストです。ドイツの資料なのでITG→GGAと表記されているのかもしれません。これを見ていると、ヨーロッパや米英のアブサン界全体を敵に廻しているだけでなく、スイス国内からの抗議が一番多いです。今後の立場が変になっちゃいそうな感じですね。自分達の利益だけしか考えてない我儘わがままが通るはずありません。

・このITG申請に対してPAS AUTHORISEE par le VdTのような抗議銘柄まで登場。<LdF>の主導でDistillery Matter-Luginbuhlが造りました。何と言っても、地区外のOliver Matter氏こそがスイスNo1生産者なのは周知の事実です。そして、唯一の有力ドイツ語圏生産者という点で民族主義的な政治戦略の様に感じられるのも仕方がありません・・大きく差をつけられてますからね・・・くどい様ですが、"La Bleue"の名称だけなら特に問題ないと思うんですけど・・・

< ACAV (association des cultivateurs d'absinthe du Val-de-Travers) > ヴァル・ド・トラヴェール地区には、アブサンの原材料ハーブを生産している農家の集団があります。ボヴァレス、フーリエ、トラヴェール地区の生産者5人の名前が出ていました。育成のみではなく最終行程として重要な乾燥作業まで受け持っている様です。上記のアブサン生産者協会に属しています参照

<アブサンのテロワール?> スペインの地中海側、フジュロル、ポンタリオ、トラヴェール渓谷など、アブサン名産地のはとんどは山脈沿いにあります。これらの地域は石灰質が少ない土壌を持つ為、ヨーロッパ大陸では珍らしい軟水エリアだそうです。造山活動による断層で稀な地質の表出を得た事と高地ならではの寒冷な気候、という二つの条件が原材料に適していたのかもしれません。特定の植物にとっては最適の土壌を持つ「逆テロワール」になっているのではないでしょうか?

< 非EU国 > 「スイスのアブサンがグレープ・スピリッツを使わない傾向にあるのは、輸入するにあたって税的に不利な非EU国だからのでは?」という話を伺いました。国内消費量(世界第五位)が生産量を上回るスイスでは他の国と異なり余剰ワインの問題はなく、グレープ・スピリッツの国内供給は難しい様です。比較的高価な<アルテミジア>シリーズに上位ヴァージョンとして“La Clandestine Wine Alcohol”が設定されているのはコレが理由の様です。6ユーロ程高いです・・・・

・スイスはEUのみならず国連にも参加していません。スイスは今時珍しい国民投票制度を持ち、両方とも国民から拒否されてしまったからです 。世界の大企業がスイスに欧州本社を置いたりチューリッヒが国際金融の中心になっている理由も、中立国であることを支え続けてきた独自の伝統的制度や政策を支える保守的な姿勢にあると云われています。ちなみに、ヨーロッパ国連本部はジュネーブにあります。

・ギリシャ経済破綻を機に下降したユーロ・レートですが、非EUであるスイス製品の価格は跳ね上がっているようです。ドイツにある某販売サイトからの緊急レターがスイス・アブサンの値上がりについて理解を求める内容でした。 「We pay Oliver Matter in Swiss Frank, our price has risen dramatically.」 しばらくはスイス物を諦めねばなりません。(2001/8/26)

< La Bleueの抱える問題点 > スイスの名産品とも云えるLa Bleue銘柄の名声は<揺るがぬ岩の様に堅牢>ですが、一つだけ問題があります。特殊な状況での洗練の末、ほとんどのLa Bleue銘柄の味が似通っています。狭く密接した地域(※)で作られている為か、原材料や手法が均一化してしまうのかもしれません。有力販売サイトでも「どれを選んでも最高の満足感が得られるだろう。でも味は似た感じだよ・・」って書いてあったりするんですね。大吟醸の味が似てくるのと一緒なんでしょうか?そんな中だからこそ、ドイツ語圏蒸留者の懐古銘柄“Kallnacher”の地味な個性が輝いて見えます。一方、La Bleueの閉塞的な状況に一石を投じようとしている次項<クーヴェ村>の新しい生産者達の動向には目が離せません。

・新しいジャンルであり同じく無色透明な 「Blanche (白)」の洗練振りは目覚しく、アブサンの新しい扉を開きつつあります。愛好家の欲求レベルも右肩上がりで、それに向応した高品位な新銘柄が出揃い始めました。それらに比べると、どれもが似かよった味わいのLa Bleue銘柄達は市場での戦闘力が落ち始めており、知名度が高い特定の銘柄のみが数字を維持しているのが現状です。個人レベルの生産者が多いのも進展を妨げる要因となっており、今後の世界マーケットに対応するのは困難に思われます。各国からの非難にまみれた< Association Interprofessionnelle de l'Absinthe >によるITG申請などは苦し紛れの保身行為以外の何者でもありません。一部の生産者が今後を見据えた姿勢で頑張っているのは確かですが、La Bleue銘柄の権威が<揺るがぬ岩の様に堅牢>とは言いかねる状況が訪れるのは時間の問題と言えるでしょう。

(※) La Bleueの蒸留所は、クーヴェ(2755人)、ボバレス(392人)、モティエ( Motiers/825人)、フルリエ( Fleurier/3518人)など、全ての町?村?が半径10km以内で収まる狭い範囲に凝縮して集まっています。同業者ですから、全員が顔見知り(ヘタすると幼馴染)なのは間違いありませんね。ちなみに(人数)は2007年12月時点での人口です。この地域は歴史的に時計産業の方で有名だったんですが、クウォーツに押されてかつての勢いはありません。

< 時計産業 > ジュラ山脈一帯の時計産業は有名ですね。当時のスイスでは市民層が政治と文化を担っていたため、普及品の懐中時計の生産が中心でした。他国では富裕層向けか船舶用が主だったのとは事情が異なります。量産の為に規格化された部品がイギリスやフランスにも輸出されていた程で、冬の間は時計部品を製作していた兼業農家も多かったそうです。世界でも最も古い時計ブランド「ブランパン」が創業したのが1735年、ジュラ渓谷で作られる部品をジュネーブの職人が組み立てる分業スタイルが確立されたのが1755年、と時計王国スイスへの地盤を固めつつあった頃がアブサンの生誕前夜でした。アブサン名産地として知られるフルリエやヌューシャテルなども有力な部品生産地だったそうです。特にヌューシャテルは時計史上に大きく名を残しているんですね。 「時計の歴史を200年早めた天才」と称えられるアブラアム・ルイ・ブレゲの生誕地だったからです。もし時計部品産業が地域全体を支えるほどの規模に至っていたら・・・この地がアブサン聖地として名を成す可能性は薄かったかもしれません。

 

 カルナッハ村 Kallnach

Distillery Matter-Luginbuhl は< International Wine & Spirit Competition>などのシリアスな国際的コンペティションでも多くのメダルに輝く名蒸留所です。“Kallnacher”みたいなモロ地味な銘柄やレギュラー銘柄 “Duplais”シリーズの方よりもモダンなコンセプトのアブサン銘柄の方が印象に残っており、スイスの作り手としては異色の存在です。La Bleue参照集中エリアのトラヴェール渓谷から離れている(50kmくらいですが)からこそ成しえる視野の広さなのでしょうか?スイスでは唯一のドイツ語圏蒸留所なのも大きいかもしれません(参照)。それにしても、高い技術力を誇りつつも革新の意気に溢れたイケイケの作り手かと思いきや、“Kallnacher”の様なレトロで太い変わり技を喰らうとは意外でした。正に温故知新。ちなみに、酒作りを始める以前のMatte家はKallnach村で牛飼いをしていたとかで、昔に出していた古い銘柄(下)はチャンと牛ラベルでカワイイですね・・・(HP)

<イギリスのLdFとの協力関係>はかなり強固で、オリジナル銘柄 “Kallnacher”以外のリリースに関しては<LdF>からのサジェスチョンが大きい様です。ポンタリオの「Les Fils d'Emile Pernot」、フジュロルの「Paul Devoille」と共に<LdF>三羽烏を成し、スイス・エリア担当としてアブサン業界を盛り上げてきました。イメージ・コンセプト的にはドイツの<ABSINTHE.DE>も深く関わっている様です。マリリン・マンソン名義の“Mansinthe”、ギーガーのラベルで有名な“Brevans H R Giger”、ハーレー乗り御用達!の“Biker Medicine”、333本限定の特蒸品“Promethee”などの突出した柄達でアブサニストの度肝を抜いただけでなく、国際的なメダルの最多保有者として田舎の蒸留所の技術力も見せ付け続けています。しかし、何と言っても、スイス解禁最初期にリリースした<Duplais シリーズ>こそ、初打席場外満塁ホームランとも言える最重要銘柄ではないでしょうか?最近では、技術監修を担当した“Nemesinthe absinthe”が「ついに出たッ!」カジュアルな本格銘柄です。気軽な値段でチャンと美味しくて無着色で緑色の本格アブサンは有りそうで無かったんですね。「初めての方にも自信を持ってお勧めでき」、「飲みなれた方も充分に楽しめる」待望の銘柄ですよ。

<裏 La Bleue?> 一番最初にリリースしたアブサン銘柄。一見、限りなくLa Bleueに近い様に思えますが、La Bleueには有り得ない緩みきった癒しのハーモニー。

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 “Kallnacher”はトラヴェール渓谷の近くにあるKallnach(カルナッハ)村の銘柄ですが、一般的なLa Bleue参照)とは区別すべき由来を持ちます。近年、ボバレスの有名な蒸留者が残した手書きレシピ(1920年代以前)が発見され、アブサン古文書発掘の白眉と話題になりました。意外と残っている大手銘柄の古レシピなどより稀少だからです。タイムカプセルに眠っていたレシピではメリッサの緩やかな包容感が際立っていました。これを基に処方したのが“Kallnacher”です。地元向けに細々と生産されていた禁制以前のスイスアブサンへ贈る、穏やかなオマージュ(敬意)とも云える特別な存在です。

・「La Bleueへ連なる古い系譜を彷彿ほうふつとさせる、懐古的な忘れ物」との評価が、この銘柄の美点を語り尽くしています。(もう、聞き飽きた)古い銘柄の再現などを狙わぬ方向性も潔く、限りなく地味なラベルも相まって個人的には好感度高いです。新しいコンセプトのアブサンの数々で話題を喚起してきた作り手が基根となる静かな味わいを忘れない姿勢には、シミジミとした説得力を感じます。現代La Bleue銘柄への血脈を感じさせながらも、豊かな草のアロマがのどかに漂う牧歌的なユルい味わい。(Distilled /55度)

・それなのにアブサン評価サイトでの得点が意外と低い(59P)のは何故でしょう?思うに、「一心不乱に走り続けてきた人が、ふと立ち止まって見上げた青い空」の様な見逃しやすい穏やかな銘柄だからではないでしょうか・・・周りには目を引くグラマスクな銘柄が目白押しで、ついLa Bleue的な味わいを期待してしまうのは無理もありません。インパクトが強く分かり易い黒麹の芋焼酎を好む人が、飲み飽きしない穏やかな白麹銘柄に物足りなさを感じてしまうのに似てる様な気がします。“Kallnacher”は、主張してくる我の強い人ではなく話を聞いてくれる優しい人です。個人的には一番のお勧め。

 “ Kallnacher Red Absinthe Bitter(2) ” は同社のバリエーションです。 アニス、ヒソップ、コリアンダー、リンドウの伝統的ハーブ酒にアブサンを加えたスペシャルアレンジには、Matter Olive氏のサービス精神が伺えます。肩肘張らず、気軽に楽しめる一風変わったアブサン・フレーバーをお試し下さい。(Mixed & Macerated +Distilled /22度)

<アーティスト・ラベル> Matterと言えば、アーティスト・ラベルです。次2項の<Duplais シリーズ><Brevans シリーズ>は特に有名です。この方向性の発端にはドイツの販売サイト Absinthvertrieb Lion(=ABSINTHE.DE)が深く絡んでいるそうです。しかし、イギリス系のペインターが多い事から<LdF>のプロデュースが主導の様に思います。今世紀初頭にアブサン流通のきっかけとなったロンドンでの爆発的流行の残り香なのかもしれません。しかし、面子を見る限り尋常なラインナップとは言えず、ギーガーですら意外とソフトケイトされた画家だった事に気付きます。特に初期の銘柄に関しては、英国のノイズ/インダストリアル系アーティスト達がインスパイア因子を求めて早くから関わっていたの?

・個人的にビックリしたのが“Duplais Verte”のアーティストラベルの作者です。<Current 93> という神秘学系ノイズバンドのリーダーDavid Tibet(デヴィット・チベット)のイラストとの事。このバンドが20年ほど前に来日した際、私の音響ユニット<触媒夜>でオープニングアクトに呼ばれました(新宿アンチノック)。後日、勤めていた店にメンバーと共に立ち寄ってくれて交流を深めた思い出があります。ステージ上での狂気じみたカリスマ性は欠片かけらも感じられない普通のイギリス人中年男子でしたが、私のレコード棚から<ザ・サード・イヤー・バンド>の『マクベス』を見つけ小躍りしながらリクエストしてきた姿が印象に残っています。その後の付き合いは薄れましたが、アブサンがらみで名前が出てくるとは「エルサレムで再会した幼馴染」な感じで感慨深いです。

そして “Duplais Balance”と云う銘柄のラベルデザインに至っては<サイキックTV>や<コイル>などのノイズユニットで活躍した Peter Christopherson が手がけています。な、なんで・・・?しかも、Balanceという聞きなれない表記は<コイル>のメンバーJohn Balanceに因ちなんだ命名という極道ぶり・・それにしても、エグい画ですね・・・買う気しますか?でも、2007年<IWSC>の銀賞銘柄なんですよね。う〜ん・・(今のところ当店にはありません)

MansintheもMatterのアーティスト・ラベル銘柄です。ロック歌手でアブサン愛好家のマリリン・マンソンが企画して、ラベルに自らのイラスト(自画像)を使っています。恵比寿のアブサン店「Bar Tram」関連で日本に輸入されており、購入可能です。

<現代アブサンの“新しい波”> 最もアーティスト・ラベルらしい銘柄がこの “Nouvelle Vague” 。ヌーベル・ヴァーグとは「新しい波」の意で、 ジャン=リュック・ゴダール や、 フランソワ・トリュフォー などに代表される1950年代のフランス前衛映画に使われた名称なのをご存知の方は多いと思います。その名の通り、Matteのアーティスト・ラベル銘柄中で最もデザインにふさわしい斬新な内容を具現化しています。それにしても、なんて怖いラベルなんでしょうか?ギーガーのラベルが可愛くみえるほどですね・・・

<ABSINTHE.DE>

・“Nouvelle Vague”のラベルを飾る?のは、 画家、写真家、兼パフォーマンスアーティスト として活躍するオーストリア系アイルランド人のGottfried Helnwein(ゴットフリート・ヘルンヴァイン)氏です。心理問題、歴史矛盾、政治不信などをテーマにした極めて概念的な作風で、その挑発的なアジテーションは数々の物議を呼んできました。『観る者に驚愕の認識を呼び起こさせることがこのアーティストの使命である。観る者が既に知っている事、それなのに本人にはその自覚のない事柄を改めて分らせるのだ。ヘルンヴァインは驚愕の認識の達人である。』と評するウィリアム・バロウズ の言葉がヘルヴァインの存在感を象徴しています。

・瓶の中身に関しても、旧来の古レシピ解釈の時期が終わった事を宣言し新しい可能性に挑戦する明確な意図が感じられます。そして、今までに無い処方としてコーヒー豆が使われているんですね!こっ、これは斬新です・・・かつてない味わいですよ。<LdF>が投げ込んできた新魔球を、遠くに打ち返せる人がどれほど存在するのでしょうか?(Distilled /68度)

    

<現代スイスアブサン史上の最重要銘柄 ・Pierre Duplais'の遺産> Duplais”という銘柄はスイス物としては特異なスタンスを感じさせます。まるで、至近にあるトラヴェール渓谷のLa Bleue的美意識をやんわりと否定するかの様・・・逆の視点に転ずれば、新しいスイス・アブサンの可能性を暗示しているのかも知れません。これほど先駆的かつ圧倒的な銘柄だ、と思い至るには時間が掛かってしまいました。一見、奇をてらったかの様にも見えなくも無いアーティスト・ラベル群に惑まどわかされちまったです・・

  

Duplais Verte(画像左)”は、初の色付き現代スイス・アブサンです。なんと、スイスで製造が合法化された2005年の7月にいきなりのリリース!2006<IWSC>で金賞、2008<SFWSC>で銀賞を取るなどプロの高評価を得ただけでなく、フォーラムなどでの評判も抜群です。フランス的美意識のスイス銘柄という文化感情的なハンディにも拘らず、マニアが選ぶ「私のベスト10銘柄」などでは良く見かける位にスタンダード化しています。スタンス的に後続銘柄の比較対象にし辛いせいか、逆に話題に出なくなっているほど・・・ リリース時に<LdF>のサジェスチョンがあったのは確実で、その先見性と生産者の実力には頭が下がります。

・フェンネルやメリッサのフレッシュで力強いトップノートに、アニスの鋭い芳香が核を成して華麗なハーモニーを引き締めます。遅れて立ち上がるニガヨモギの苦味とともに長く心地よい余韻が始まり、うねりを持つ美しい物語が心に残る絶品アブサン。(Distilled /68度

<Duplais シリーズ>Duplais Verte”は当然の様に68度で、これは納得なんですが、二ヵ月後に出た無色透明の“Duplais Blanche(画像右)”も68度なのは何故なんでしょうか(参照?Matter Olive氏がLa Bleue的美意識に全く拘こだってない事の証の様にも感じますね。後のLa Bleue的銘柄“Duplais Balance”にしたって60度のチョッと高めですから・・「俺は、あの辺の頭が固い連中とはチョッと違うよ」的な反骨精神すら感じてしまう設定です。あの“White Fairy”と同じ設定なのも気になります。同じ<LdF>関連ですから・・・後にCapricieuse 72”やAngelique 68 Verte”を出しているクロード・アラン氏がインスパイアを受けたに違いないと感じるのは私だけではあいでしょう。ちなみに、“Duplais Verte”と“Duplais Balance”は bitter spirit なので高ツヨンなんですが<アルテミジア>シリーズも同様です・・・

・このシリーズはスイス国内用のレトロ・ラベル(画像中央)と輸出用のアーティスト・ラベルの二種類がリリースされています。ちなみに“Duplais Verte”は左と中央。右は“Duplais Balance”のアーティスト・ラベルです。

・内容に関しても年々進化を遂げており、レシピの見直しを含めた積極的な試行が続けられているそうです。味の品位が向上するにつれ独特の色彩も確立しました。アブサンティアーデでその色に魅せられた<頑固親父>フランソワ・ガイが「Absinthe de Mars」、つまり「火星(異世界)のアブサン」と驚嘆した事は有名な話です。Matter Olive氏の実力は世界的にも突出しており、La Bleue的メゾットにはノウハウの無い<the coloring step>でも他の追随を許しません。この最終工程は、色、芳香、ファースト・ノート、などを決定するVerte(色つきアブサン)の竜眼を入れる重要な作業です。旧然たるLa Bleue的美意識に縛られたスイス業界にとって、世界市場に展開するため解決を迫られている最重要課題となっています。そして、唯一の有力ドイツ語圏生産者であるMatter Olive氏への法的力圧力と思えるような動きも進行中で、その暴挙に対する抗議銘柄をリリースしました。

)2009年8月の試みとしてスイス銘柄としては珍しいワイン・アルコール・バージョンの “Duplais Verte Grape Base”が仕込まれていました。Matter Olive氏の動向に目を光らせているクロード・アラン・ブニヨン氏が追随した“La Clandestine - Alcool de Vin”があります。でも、せっかく熟成に効果を発揮するベースを使ったのに即リリース・・・しかも透明な瓶で・・・“Duplais Verte Grape Base”の方は二年の熟成を経て2011年春に発売!500mlの56本限定シリアルNo付き金封だそうです。Matter Olive氏とプロデューサーMarkus Lion氏の見識の高さを感じさせるサブマリン物件ですね。

<Pierre Duplais'> このシリ−ズ名の由来元は、酒類史上の決定的蒸留技術研究書『Traite de la Fabrication des Liqueurs et de la Distillation des Alcools (1855年)』を著したフランス人Pierre Duplais'です。1871年には英訳もされて世界中で蒸留バイブルとして必需の書となりました。26章のうち9章目参照が「The Manufacture of Swiss Absinthe」に充てられており、後世のアブサン研究者達の引用元になっています。最初期の現代スイス・アブサンをプロデュースするにあたってDuplais'の名を敬用するとは<LdF>のアブサンの歴史に対する含蓄/慧眼/敬意などを感じさせられますね。500部が復刻され購入可能参照です。

<現代スイスアブサンの最先端 ・J. de Brevansの遺産> 上記のPierre Duplaisと並び、アブサン処方家達にとってのグル(指針者)とも云える先人がJacques de Brevans です。1897年に著した『La Fabrication des Liqueurs』という資料は、上記と双璧を成す聖典として敬うやまわれてきました。

<Jacques de Brevans> 上記のPierre Duplaisが残した著作が研究書だったのに対して、Jacques de Brevansの資料は酒造現場のマニュアル形態という違いがある様です。連続複式を含む各種蒸留器や周辺機器の解説、それらの具体的な設置法、精細なデータ、原材料についての記述までも細やか記載されています。つまり、基礎研究的なDuplaisと現場に即した内容のBrevansという組み合わせがフレンチ・アブサンの再構築に不可欠だったのでしょう。以下でご紹介する二種のBrevans銘柄に、何種類も記載されているレシピ例がどのような形で反映しているのかは不明ですが、骨格が整った基盤があってこその成果なのかな?と思います。下は英訳版の表紙で、内容についてはコチラを参照して下さい。PDFで全ページも落とせます。

現代フレンチ・アブサン処方の際、遺されたレシピの再現を売り物にせざるを得ない実情があります。しかし、実用的なレシピと言うよりは<覚書>や<メモ>程度の資料も多く、現実的な処方を起こすには無理がある場合がほとんどです。Brevansはこれらを解釈し方向付ける根拠を与えてくれる現実的な必須資料として欠かせません。つまり、ベル・エポック期アブサンのブルー・プリント(基本設計図)的な決定版ともいえるでしょう。

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<ABSINTHE.DE>

Brevans H.R. Giger”は、2007年に登場した先駆的なコンセプト・アブサンです。Duplais シリーズで足元を固めた後、次なるステップへの挑戦的な試金石。スイス生産者のフレンチ・タイプならではの大きな翼を持っており、旧来の再現アブサンとは次元の異なる投下点を設定して爆発させました。ノスタルジーに走らない現代的な解釈で処方されており、鮮烈な印象と新しい価値観を提示してフレンチ・アブサンの概念を変革する一助になりました。なによりスゴイのは、現在でも説得力を失わないトップクラスのクオリティーではないでしょうか。フレッシュで調和のとれた味わい。 (Distilled /68度/不在)

・ご存知の幻想画家ギーガーのラベルです。言うまでもありませんが、あの「エイリアン」のイメージを造ったスイス人ですね。この絵の名は『Brain Salad Surgery II 』で、1970年に書かれました。そう、「エマーソンン、レイク&パーマー」の『恐怖の頭脳改革』でジャケに使われた『Brain Salad Surgery I 』(下左)の姉妹版。この二枚は2005年に盗まれたそうで、5000jの賞金が掛かっているそうです。

    

・ギーガー・ジャケと言えば、個人的にはフランス・プログレ界の雄Magmaの6枚目“Attahk”(中)なんですけど、残念ながら内容は今一・・・お勧めは次作“Udu Wudu(右)”です。クリスチャン・ヴァンデ(Christian Vander)の特異な世界観が、ドロドロ・クールに表出・・・それまでの大作志向とは異なるコンパクトな切り口で超カッコいい!この人はJ・コルトレーンに開眼し、独自の世界観を確立したジャズ・ロック系の音楽家です。自分で作った言語で作詞するし・・・ポアダムスという日本の幕の内弁当系バンドが、このアルバムの曲をライブでモロコピしてる映像を見てアキレタ事がありました・・・選曲は納得でしたが、オーディエンスはポアダムスの曲だと思ったんでしょうね。あんなの、普通の人が作れる訳ないじゃん・・・

<ABSINTHE.DE>

・“Brevans A.O.Spare”は、とてつもない偉業を成し遂げました。アブサン愛好家にとっては<心の拠り所>とも言える老舗個人評価サイトで、歴代アブサン中最高得点を得たのです。この「Bibel.de」の存在は業界も無視できない程で、低い評価を受けた生産者から訴訟を起こされた事がある程の影響力です。事情を知る人にとっては絶対的評価と言え、あの<LdF>でも「Bibel.de - 95 Points, 1st Place」とプッシュされています。個人の意見がこんな扱いをされるのは極めて異例な事です。

・その完成度は極地のエリアに入っており、Matter Olive氏が次なるレベルに達した事を示しています。能書きはなしで試してみるしかありません・・・当面のライバルは“Berthe de Joux”ですか?あっ、そう言えば<I・W・S・C>の金賞も取っていました。(Distilled /68度

・ラベルに使われているのは、日本ではポピュラーとは言いかねる画家 Austin Osman Spare(下中央/1886〜1956年)の作品 『Astral Body and Ghost』です。近代の<幻視者>だった事が伺えるペインティングは多くの潜在的フォロワァーを生みました。神秘家/魔術師としては<知らなきゃモグリ>的な巨人で、アレスター・クローリーとの交流/離反でも知られています。旧魔術とは概念が異なる新魔術ケイオスの創始者として、現代の神秘主義者達やダーク・サイドの住民達に与え続ける影響は計り知れません参照。この銘柄の初蒸留は彼の誕生日に行ったそうです。その様な呪術的な工程から企画者の内包されたメンタリティーが垣間見えます。アブサンという存在を追っている時、稀に表出するヘルメス的な要素の好例として面白いと思いました。

      

魔術サイトへのリンク集

<新たな展開で外へ拡げる企画物> 無関係エリアへの侵食はアブサン愛好家の増殖を狙うには必須戦略です。旧来のアブサン界住民の数なんて知れてますからね。まだ例は少ないですが、アブサンの持つネガティブなイメージを背負えるジャンルの生きてる?有名人にも頑張ってもらわねばなりません・・・先発打者マンソン君の次は、アレスタークローリー狂いで評判のジミー・ペイジさんなんてどうでしょうか?彼の黒魔術好きはバンド崩壊の遠因になったとも言われ、「天国への階段」を逆回転再生させると悪魔崇拝のメッセージが聴こえるなんてデマが飛んでた程ですから・・・あっち系監督ケネス・アンガーの映画「ルシファー・ライジング(悪魔君が来た!じゃなくて 堕天使、降臨!)」でサントラもやってますしね。ボツりましたけど・・・「サージェント・ペパー・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のジャケにもクローリーが登場しているので、ジョージさんにも可能性が・・・ポールさんとリンゴさんは品行方正で無理っ!って感じだし・・・ロック界のキムタクと言われるジョン君が生きてればな〜 リッチーさんフィリップ君も超怪しいです。でも、当時のブリティッシュ・ロック界隈では神秘主義がお洒落アイテムだっただけなので、今では毒気も抜けて×なんでしょう。デス・メタル周辺にビッグ・スターが現れたら・・・いけるかも!

・ちなみに、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」という有名な曲ですが、当地にあったアントン・ラヴェイサタニズム教会を題材にしていたって事は筋物の間で常識になっています。ラヴェイはポランスキー監督の「ローズマリーの赤ちゃん」に悪魔役で登場した事でも知られており、「ルシファー・ライジング」の監督ケネス・アンガーも教会員でした。歌詩の中で、ワインを注文すると給仕が 『1969年以来、そんな酒(that spirit )はホテル・カリフォルニアに無い・・・・』と応える内容は、アントン・ラヴェイ著「悪魔の聖書」が出た1969年以来カリフォルニアにはキリスト教の聖霊はいなくなった。カリフォルニアは悪魔(サタン)の天下だ!と解釈しちゃってるんですね。ワインは<キリストの血>の例たとえと考えるのが通例・・・ 『いつでもチェックアウトは出来るが、二度とここからは出られない』という歌詞にも重い暗示が・・・チェックアウトには自殺と言う意味もありますんですよ。曲を逆回転再生すると 「サタンが助けてくれた」と聞こえなくもない場所があるのは事実・・・10人中3人位がなんとなく頷うなづく程の高確率なんですね。  あ〜〜っ!アブサンとは全く関係ないヨタ話を長々としてしまいました。すっ、すマンソンっす・・・

<ABSINTHE.DE>

・“Mansinthe”もアーティスト・ラベル系の銘柄と言えますが、上記二種の様なコンセプチュアルなアブサンではありません。<使い捨てのティーン・エイジャー>ことマリリン・マンソン本人の意向が反映された企画物です。そう聞くと「お手軽な色物系?」と不安になるかも知れませんが、生産者がMatte氏なので中身は保障付きなんですよ。2年もの試行を経てリリースされたアブサンですが、当初は否定的な世評に見舞われたそうです。アブサンとは無関係エリアでのマスコミ騒動だったので、謎の液体を始めて飲む<無関係>関係者にとっては理解しがたい味だったのでしょう。目立ちすぎた時代の寵児への潜在的反発感も一役かったのでは?と推測しています。

・で、その内容は?と言うと・・・国内購入可能な銘柄中でもかなりイケてる内容なのではないでしょうか。個人的には、“Duplais Verte”のアレンジ版的な印象を持ちました。<夢の様なアブサン>と言う訳でありませんが、モダンな要素を支えるオーセンティックな背景には説得力があります。マンソン氏の好みが最優先されているはずなのにスタンダード品としても充分に通用する優良銘柄に仕上がっており、「さすがMatte氏!」面目躍如って感じで素晴らしいですね。さほど甘すぎず角砂糖を使った作法にも比較的向いている感じなので、<最初の一本>を購入する際の最有力推薦銘柄として特筆すべき存在です。(Distilled /66.6度)

<マリリン・マンソン> 以前からアブサン愛好家として知られるロック・ミュージシャンですが、かなりエキセントリックなアプローチを取っているためロック者以外でも知っている人が多いかもしれません。マリリン・モンローとチャールズ・マンソンの尊名を受け賜った事は有名ですね。個人的には、アリス・クーパー、アーサー・ブラウン、マーク・ボラン、デビット・ボウイ、などの流れを汲む<シアトリカル・ロック >系の人でKISSの後輩って印象です。V系って訳じゃないでが映像無しで音だけ鑑賞するには厳しく、前出のロック・スター達やポップ感覚もあるKISSなと比べると時代の壁というハードルの高さを感じざるを得ません。80年代初頭にはロックのリアリティーは尽き初め、90年代初頭には完全終了しています。ニルヴァーナの登場にだけは度肝を抜かれましたが・・・ちなみに、<シアトリカル・ロック >系で白眉の映像はこちら

マリリン・マンソンとアブサンの<蜜月>ともいえる時期は “Sebor”にまで遡ります。フランスもスイスも始動していなかった頃のイギリスではチェコ銘柄がトレンドでした。ちなみに、マンソンはアメリカはオハイオ州の田舎物なんですけど・・・・初期イギリスの状況についてはこちら、マンソンとジム・モリスンの関係?についてはこちら、マンソンと“Sebor”の関係についてはこちらを御覧下さい。

<現代アブサンの道祖神・スイス> 新しいコンセプトの試行や至高品にトライする過程で想定以上のアブサンが生まれ出る事もあります。数10gの少量実験蒸留 (Distiller's Proof)で得た成果を基に、数100gの小さな釜で蒸留したワンポットのみの特蒸品。外部から依頼された試行の成果を少量限定リリースされる事は稀にはありますが、生産者自らが企画・生産することは稀で“Promethee”は唯一の例外。(ついに来た!)スイス解禁(2005年)が混乱を呼ぶ黎明末期、と言う時期ならではの出来事で、今後この様な銘柄が生み出される事があるのでしょうか?素晴らしすぎる味わい、特異な存在感、稀なる希少性、など比類無き特筆点を持ち、<夢のアブサン> を体現した頂上銘柄。時代の狭間に咲いてしまった奇矯にして華麗なる夢の花・・・一夜だけ咲く月下美人の幽美で儚はかない美しさを思い起こします。

 

Promethee(プロメテウス)”は、2008年に333本(当店 87/118番)のみ販売された特蒸銘柄です。成熟期を迎える以前のアブサン業界に究極のイメージを喚起し、意識のパラダイム・チェンジを促す役割を(結果的に)果たしました。しかし、様々な事情があった様でワンポットのみで終了。各国で瞬時に売り切れてしまい即 <幻のアブサン> に・・・当店の在庫分も、今にも切れそうな細い個人ルートからの入手です。アンジェリカを強調したコンポジションが特徴で、クロード・アラン・ブニヨン氏の“アンジェリーク”迷走の遠因とも云われています。チョコレートを思い出させる甘く豊穣なトップノート。アンジェリカとヒソップスの香りが醸しだすヴェルベットの様なテクスチャー。花束系アブサンの指針とも言い得る華麗な立ち姿・・・スイス産 Verte (緑)の頂点とも言い得る力強い存在感・・・まさに極上の楽園です。(Distilled /68度/終売品★★★★

・“Promethee #1 Distiller's Proof”は上記の実験蒸留版です。処方決定において業界関係者の意見を求める為に少量だけサンプル配布されたのが右の画像のボトル。一般に無流通の存在していないも同然のアブサンですが、ラベル・デザインが本気な感じなので正式リリースを前提にしていた可能性が大です。上記と同じ個人ルートですが、2杯分も入手できたのは稀なる幸運でした。いささか高値ですが、一杯だけお出しできます。(Distilled /68度/非売品★★★★★

・この銘柄は蒸留所のスタッフだったMike Schutz氏が提案した個人レシピを基に実験蒸留したそうで、プロデューサーとして裏ラベルに名前が明記されています。具体的な処方に関する記述はありませんが、Matte氏の心に響く斬新で現実的な提案だったのは間違いありません。絶賛された銘柄だったにも拘らずワンポットのみで終了した経由は不明です。人的な要因でリリース不可になった可能性もあります。Mike氏の個人HPでも紹介されていましたが停止状態・・・現在の二人の関係も不明です。

Promethee(プロメテウス)を取り扱ったのは、「Absinthe.de」、 「Absintheonline.com(LdF)」、「Vert d'Absinthe」の三軒だけでした。当時の事情を考えるとマニア御用達の厳選販売サイイトですね。比較的に敷居の低い「Absinthe.de」では、販売開始した四日後で売り切れてしまったそうです。

< 特留品の必然性 > Promethee(プロメテウス)以前のシリアスな実験蒸留銘柄としては<LdF・特蒸シリーズ>が世に問われていました。フレンチ・アブサンの新たな座標軸を構築する目的で試行された “1797”、“Wormwood Blanche”、“L'Artisanale”です。この三銘柄はポンタリエの「 Les Fils d'Emile Pernot 」に依頼して、2006年に限定販売されました。謎に包まれていたスイス密造者達が明るい場所で動き始めたスイス解禁(2005年)直度の騒乱期・・・フランスのアブサン業界が脅威を感じていたであろう事は疑い様がありません。

・しかし、Matter Olive氏はスイスの生産者です。そして、解禁直後の2005年7月には名品Duplais Verte”をリリースしています。<LdF>と共同開発した初めての銘柄でしたが、 2006<IWSC>で金賞、2008<SFWSC>で銀賞を取るなど世界的に高評価を得ました。後続の “Duplais Blanche”、 “Duplais Balance”なども順調で、<Duplais シリーズ>はアブサニスト必須アイテムとして常識化しているのは御存知の通り。一見、絶好調にしか見えないMatter氏がスタッフの提言とは言えPromethee(プロメテウス)の様なチャレンジを試行した動機は何だったんでしょうか?

・恐らく、唯一の有力ドイツ語圏生産者という特殊なスタンスが要因かと思われます。某スイス生産者のサイト内ブログでも、「アブサンはトラヴェール地区の特産品」という独りよがりな占有意識が感じられ、Matter氏に対する否定的な記述すら見うけられます。この地域の人達から、Matter氏は「成功した部外者」、「目の上のタンコブ」的な扱いを受けている雰囲気が濃厚・・・Matter氏としては明確な力量差とスタンスの違いを示す必要に迫られていたのかも・・・そうだったとしたら現時点では大成功しています。スイス実力No1生産者がMatter氏だって事は多くの人達が知っていますし、それどころか世界で三本指に入るのも確実ですからね。しかし、この微妙な民族問題は根が深く、大変な出来事にまで発展してしまいます・・・それに対して強い反意を示す為、<LdF>Matter氏は具体的な行動に出ました。次に紹介する<抗議するアブサン>のリリースです。

< Promethee(プロメテウス)の精神的継承者? > 少しだけ意味が違いますが、試験蒸留品的なアブサンをコンスタントに限定販売している例が一つだけあります。<VdA>による<Les Parisiennes>シリ−ズこそが理想追求型コンセプトを貫く唯一の存在で、少量しか造れない個人店の特性を生かした素晴らしい方法論なのではないでしょうか?商業アブサンでは不可能な世界観と希少性、そして品位の高い味わいを実現している白眉のライン・ナップ。いくつかの銘柄(年度毎のビンテージも含む)を300本程度のシリアル・ナンバー付きでリリースし続けており目が離せません。最近では貴重な「Distiller's Proof」を市販する事もありますが、世界で12本とか24本とかの非現実的数量のマニア向け商品・・・私はマニアではありませんが無理して入手してしました。でも、最初のオファー・メールを見逃してしまうと次のチャンスは???です。

・時期的な一致から<Les Parisiennes>シリ−ズのインスパイア元はPromethee(プロメテウス)だった可能性は大です。シリーズ化を決定したのは2008年からで、Promethee(プロメテウス)の存在と消失が何らかの自信と使命感を後押ししたのかもしれません。特に、「Distiller's Proof」を販売するという前例の無い発想は、“Promethee #1 Distiller's Proof”を手にした<VdA>の店主の衝撃的な感動が生んだのかも・・・12本とか24本分だけラベルを印刷するなんてやり過ぎですよね?個人的にはPromethee(プロメテウス)”を具体的に継承した唯一の流れだと思っています。品位の理想値も継承してますしね・・・

<抗議するアブサン> 皆で手を携たずさえてアブサンの普及に尽力する幸せな時期は終わったのかも?と思わせる銘柄が登場しました。始原地ヴァル・ド・トラヴェール渓谷の生産者達が協力し合って守りに入り、La Bleueブランドの権威を死守し始めAbsintheという文字を占有しようと企んだ?と思うのは考えすぎなのでしょうか?そして、群雄割拠し覇権を争う時代の前触れなのでしょうか?アブアン三国志が始まってしまいます・・・

<LdF>

PAS AUTHORISEE par le VdT”のラベルにはAbsintheの文字が見当たりません。それは下記の様な理由に由来しており、トラヴェール渓谷生産者達の怪しげな動きに対する<LdF>の抗議のシンボルだからです。銘柄名自体が「VdTの権限を無視して」って感じの意味。来るべき時代の悪しき側面を、あからさまに照らし出してしまった銘柄・・・紹介文にも「'protest' absinthe」の文字が強く刻まれいます。しかも、挑発するかの様な「 And we had to make it green, which is something they can't do that well in the VdT anyway.」の一節も加わっており、飛びぬけたOliver Matter氏の技術を誇示するかの様です。確かに、他のスイス生産者達が持つメゾットには<the coloring step>のノウハウはありません。色の美しさだけでなく、より重要な香り付けの技術が不得手なのは事実です。

・それにしても、このシリアスな局面に突きつけたアブサンに、Matter氏がどんな気持ちを注入したのかは興味深いですね。かなりの気合が効いてるはずです。ビンテージ・ペルノーを彷彿とさせるフェミニンで華麗な味わい・・・素晴らしいです。そして「very high-quality, very competitively priced」と謳っている点も見逃せません。存在意義はさて置き、超お勧めの銘柄です!(Distilled /65度)

スイスで妙な出来事が進行中です。"La Bleue"、"Fee Verte"、"Absinthe"などの名称を、ヴァル・ド・トラヴェール地区以外で生産されたアブサンに対して使用制限するIPG(地理的起源表示)法案が提出(2010年3月)にされており、審議中の模様・・・しかし、納得できるのは"La Bleue"だけで、他の二つは一般名詞にすぎませんからね。少なくともアブサン業界に限り・・・ですけど。表向きには東欧などの劣悪な商品への対策とされていますが、その為だけとは思えない民族/政治上の駆け引きによる利権独占の匂いがプンプンと・・・なにしろキナ臭い話で、実質的に一人勝ち状態の地区外蒸留者 Oliver Matter氏への牽制策に思えなくもありません。彼以外の主要なスイス生産者のほぼ全てがヴァル・ド・トラヴェール地区で稼動していますから・・・Matter氏と繋がりの深い<LdF>などは強い反発を表明しています。このMatter銘柄をリリース2010/11/05)したのも抗議活動の一環です参照

<LdF>だけでなく、かなり広い範囲から反対の声が上がっています。こちらの異議申し立て者リストを見て下さい。ヨーロッパや米英のアブサン界全体を敵に廻しているだけでなく、スイス国内からの抗議が一番多いのは当然でしょう。今後の立場が変になっちゃいそうな感じですね。自分達の利益だけしか考えてない勝手な我儘わがままが簡単に通るはずありません。

We read with interest that Switzerland was pushing for a “protected geographic designation(地理的呼称保護法案)” status for Absinthe Val de Travers.

<次世代のアブサニストへ向けて・・> <LdF>と「Distillery Matter-Luginbuhl」の名タッグから次への一手です。業界全体の活性剤。

<イギリス/ロンドン>

・同蒸留所のMatter Olive氏がヤッてしまいました。<LdF>と組んで初のイギリス産アブサン“Nemesinthe absinthe”なる銘柄のリリースを監修・指導した様です。サイト上に明記されていない innovative swiss company (革新的スイスの企業)が「Distillery Matter-Luginbuhl」なのは間違いないでしょう。低温蒸留のプレミアムジン “ Oxley”で有名なロンドン近郊の 「Timbermill Distillery」にて生産。

・初めてアブサンを試される方にお勧めする銘柄は悩みの種です。手頃な値段で伝統を感じさせながらもモダンな味わいを合わせ持つ本格アブサンは今までありませんでしたから・・・しかも、イメージにお応えするには緑色が望ましい上、安定供給が保障されている必要もあります。さすがですね。<LdF>にしか成しえない企画・戦略ではないでしょうか?この銘柄の存在意義は極めて重要だと思います。将来の愛好者へ向けた礎いしずえとも成り得る、アブサン店待望の銘柄だと感心いたしました。

・オーセンティックな味わいを感じさせながらも、モダンなフレッシュ感を演出するシトラスな要素がポイントです。初めての方にこそお勧めしたい普及価格帯の銘柄ですが、飲みなれた方にも充分楽しんで頂ける本格的な味わい。是非とも、お試しあれ・・ (Distilled /60度

・最もシリアスな品評会<International Wine and Spirits Competition/2010>にて、Silver Medal、Best in Class を受賞しましたが、驚きませんでした。当然でしょうって感じです。

・相呼するように「Distillery Matter-Luginbuhl」の方も、な、なんと!ジンをリリースするというオマケ付き!さすがに<LdF>のやることは抜け目がないですね・・・今、盛り上がっているプレミアム・ジン市場にアブサン職人の技術で参入とは・・・考えてみればハーブ・フレーバード・スピリッツともいえるジンはアブサンとの類似性が非常に多いんですね。酒類の中では親戚ともいえる間柄で、オルディネール博士がクーヴェ村で近代アブサンの前身を試行した時もジンの蒸留法を参考にした事は良く知られています。逆は?ですがアブサン職人がスーパー・ジンを捻り出すのは困難ではないでしょう。こちらも素晴らしい戦略だと思います。

 

 クーヴェ村 Couvet

・近代アブサンの故郷とも云えるクーヴェ村ですが、この地では新進気鋭の生産者達が目立っており、“Artisanale”で有名なクロード・アラン氏やGaudentia Persoz嬢など新しい世代のエリアとなっています。懐古的な吸引力を秘めた始源地クーヴェ村から、新しいスイスアブサンの流れが始まっているのかもしれません。他には、「Chris Julmy」 、「Distillerie Distab Sarl」、「Marco Previtali」、などの生産者が操業している様ですが在村家系の元密造者なのでしょうか?ちなみに、村の標高は750bくらいだそうです。

Artemisia Distillery クロード・アラン・ブニヨン(Claude Alain Bugnon)氏は新しい世代の蒸留家です。1989年まで石油関係の技師として活躍していた彼は、1990年から12gの家庭用蒸留器でアブサン処方の実験を始めました。石油精製とアブサン蒸留には何か共通項があるのかもしれません。2000年に、友人の叔母で有名な作り手だった シャルロット・ヴォティエ(Charlotte Vaucher)が残した1935年以来のレシピを譲り受けたそうです。そこから得た輝く様なインスピレーションから飛躍的な品質向上を成し遂げました。スイスでの全面解禁(2005年3月10日)以前の2004年に最初の蒸留許可を申請し、法的規制解除の口火を切った点も特筆すべき功績ではないでしょうか?(HP

   ・左の写真が1989年に使い始めた自作の12g蒸留装置。普通の寸胴鍋を改造して作ったようですね。中央は2004年頃の約60g器。そして現在稼働中の本格的蒸留器です。

・私見ですが、その先鋭的に見える戦略も、前述の「Disitillery Matter-Luginbuhl」と<LdF>のタッグが最初期に提示したコンセプトを後追いせざるを得なかった様に見えなくもありません。つまり“Duplais Verte”→Angelique 72 No.2 Fortissmo、“Duplais Balance”→“Clandestine(Marianne) 55”、“Duplais Blanche”→“Capricieuse 72”というラインナップ上の類似性が見えてきます。アルコール度数は微妙に変えてあり味の方向性も全く異なりますが、前二例の「bitter spirit」=高ツヨン設定というスイス物としては稀な共通項は見逃せません。もちろん、合法化が遅れたスイスよりも5年程先行していた<LdF>戦略の方が優位だった事は間違いありませんけど・・又、<LdF>のコンセプトではありませんが、2008年にワンポットだけリリースした特蒸銘柄“Promethee”の存在感が“Angelique 72 No.2 Fortissmo”以降のフランス系バリエーションを迷走させてしまった?と言う一部の憶測も「さもありなん」って感じがします。当サイトで「Disitillery Matter-Luginbuhl」を重要視してスイスのトップ生産者として扱う大きな理由の一つです。

・さらに私見ですが、スイスでの合法化をビジネス・チャンスととらえ周到に事前準備していたと思われる点などはべンチャー的スタンスを感じます。少なくとも1989年以前の石油関係の技師としての経験から他の生産者達に欠けたグローバルな視点は得ていたと思われます。わざわざ始原地クーヴェ村に移り住んだのもまだ無名だった頃の彼の銘柄にネーム・バリューを得る為?「まさかそこまで・・・」と思うかもしれませんがちゃんとした企業家ならそれくらいの考え方が出来ないと×ですからね・・・最初の蒸留許可を申請、直後に規制のあいまいなドイツのディラー(出資者の可能性あり)と取引して深い関係性を築いた事、最初の<アルテミジア・シリーズ>)の後は販売に有利なフランス系銘柄のみをリリースしていた事、特別なフェンコン規制があったフランス専用銘柄の設定、外注を受けた依頼銘柄の多さ、名前の出づらい依頼銘柄の2度の(おそらくツヨン過剰による)自主回収、「Absinthe Duvalloni」との微妙な関係性、など単なる蒸留家の枠を大きくはみ出たイケイケの企業家的姿勢ではないでしょうか?念の為くりかえしますが、こちらもかなりの私見です。

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1) Clandestine 53”は<アルテミジア・シリーズ>の一番手です。発祥地スイスの解禁後初銘柄として注目のデビューを飾った後に数々の賞にも輝き、瞬く間に不動の評価を確立しました。明確なアニス、ワイルドフラワー、ニガヨモギのアロマが醸しだす鮮烈でドライな印象、蜂蜜の様にメロウな力強い口当たり、心地よく続く長い余韻。旧来のLa Bleueとは一線を画すタイトかつシリアスな味わいが印象的な、新時代を象徴するスイスの代表選手です。(Distilled /53度)

2) “Clandestine(Marianne) 55”は、以前のフランス規制に合わせてフェンネル5ppm以下に処方されており、メリッサとミントの比率が高くなっています。その結果、スパイシーかつシャープな個性を獲得しました。アブサンティアーデにて3年連続ゴールデン・スプーンを得たモンスターラベルで、「もはや競う必要は無い」と殿堂入りを果たした銘柄(欄外図参照。ラムの“ロン・サカヴァ・センテナリオ”の様に別格扱いですね。しかし、この銘柄が連続受賞している理由にはある種の事情が絡んでいるのは間違いありません参照)。(Distilled /55度/終売)

3) “Clandestine Capricieuse 72”は(1)の高アルコール濃度バージョンで、日本の焼酎で言えば原酒に相当する存在です。同レシピでも蒸留後の割水率が異なるだけで同じ酒って事にはならないのは不思議ですね。もちろん味も違います。禁止以前のVerte(緑or黄)だったスイス・アブサンには75度のものまでありました。しかし、無色透明になった禁制以降の密造酒(La Bleue)は55度前後で造られていたので、この設定は解禁後の新しい試みです。こちらを参照して下さい。(Distilled /72度/終売

<ワイン・アルコール・ヴァージョン?>(1)の・別ヴァージョンとしてワイン・アルコール使用の高級版“La Clandestine - Alcool de Vin”があります。透明なボトルなので(2)の“Recette Marianne 55”と間違え易いんですが、“ Clandestine 53”と同じラベルで、ボトルの首に銀色の丸いシール(ALCOOL DE VIN)があるので判別できます。(Distilled /53度/不在)

・ “La Clandestine-Alcool de Vin”に関して研究熱心な販売サイトに以下の様な追記がありました。『 Because it is elaborated with wine alcohol, it will be perfect if you wish to keep a couple of bottle in you cellar. It will only go better ! 』 つまり、自家保存による瓶内熟成を勧めているんですね。ワイン・アルコールを使用するメリットは風味の向上だけではありまあせん。最大のアドバンテージは長期熟成に耐えるボディーを得る事につきます。しかし、この銘柄の様に小容量の条件下では熟成の進行が極端に遅いため、充分な効果を得るには十年単位もの熟成期間が必要に・・・しかも、大敵である紫外線にまったく無防備な透明瓶が使用されています。しかも、本人のHPには熟成に関する記述は一切ありませんでした。

・ワイン・アルコールによる品位の向上という効果を果たしているのは確かだと思いますが、スポット的なバリエーションとして展開する程の意味があるのか?と疑問に思いました。何故なら、余剰ワインで困っているフランスやスペインなどではアブサン原料にワイン・スピリッツを使うのは珍しい事ではなく、対外的なアピール・ポイントにはなり得ません。むしろ、比較的高価な<アルテミジア>シリーズに印象の良くないビーツ系アルコールを使用している事を公開する結果になり、戦略的にマイナス面の方が多い気がします。

<もうひとつのワイン・アルコール・ヴァージョン>・ブニヨン氏の意外な隠れ銘柄に、有名なアブサン博物館 『Musee de l'Absinthe』を主催する女流アブサン研究家マリー・クロード・デゥエラ (Marie-Claude Delahaye)から依頼された “La Fee XS Suisse(1)があります。かなり早い時期にリリースされていた「Le Fee」のスタンダード・ラインがスペイン産のエッセンス法だったのに対して、XSラインはワイン・アルコールをベースに蒸留法で造られた本格派トップ・ラインです。最高のスペックを要求されたブニヨン氏が初めてワイン・アルコールに挑戦し、その成り行きで自らも“La Clandestine - Alcool de Vin”をリリースしたのかもしれません。あっ、ひょっとしたら実験過程で生じた余剰分とか・・・ちなみに、フランス系Verteタイプ“Le Fee XS Francaise(2)の方はポンタリオの頑固親父Francois Guy氏が手がけています。

1) 2)

・それにしても、フランスでは“L'Enjoleuse fut de chene 2010”、Perroquet fut de chene”などの本格派樽熟成品も登場し始めている時代です。同じスイスのMatter氏が“Duplais Verte Grape Base”を二年タンク熟成した姿勢などに比べても熟成に対する意識の薄さを感じます。熟成工程こそ現行銘柄がベル・エポック期の高級アブサンに後れを取っている唯一の点で、ブニヨン氏が推し進めているVerte系の展開(緑化運動)には絶対外せない要素ではないでしょうか。

・最先端を走る頂上生産者として語られる事が多いブニヨン氏なんですが、石油業界からの新規参入者なんですね。2011年の時点でもプロとしての実質的なキャリアは6〜7年程で、解禁以前から蒸留業を営んできた職人さん達に比べると経験/蓄積/見識の欠如は免まぬがれません。とは言え、慣習に囚とらわれ勝ちな熟練蒸留職人には出来ない新しい発想/展開こそがブニヨン氏の持ち味で、動き出したアブサン業界に新風を吹きこんだ功績はご存知の通り。しかし、典型的なスイス物とは全く異なるタイプのアブサンを造る人なので、彼の銘柄を「典型的なLa Bleue」、「伝統的なアブサン」の様に勘違いする愚だけは避けねばなりません。ブニヨン氏はニュー・ウェイブなんです。

・しかし、完全な外注品とは言えOpaline”はオーク樽熟成品としての優位性を謳っています。チャンと黒いボトルなので長期瓶熟成にも耐えうる仕様ですね。問題は熟成期間ですが精細は不明なので味をまとめる為の軽熟成なのか本格的熟成にトライしたのかは分かりません。ただ、この銘柄は下の“Sapphire”と同じ「LogisticX GmbH & Co.KG」のプロデュースなのでHans-Peter Fuss氏の意向が強く働いている可能性が高いです。邪推すると“Angelique 68 Verte Suisse”を樽で味付けしたバリエーションなのかも知れません。

<ハイ・ツヨン指向> <アルテミジア・シリーズ>は、全ての銘柄がEU規定における[Bitter Spirituose]です。つまり〜35ppmの強ツヨンのシリーズで、後述のAngelique”各種Opaline”、“Sapphire”なども同様です(PBの“Absint 56”は例外)クロード・アラン氏の処方はニガヨモギの存在感を強く押し出したインパクトの強い味わいがベースになっているんですね。シャルロット・ヴォティエ(Charlotte Vaucher)のレシピが与えたインスピレーションとはコレなのでしょうか?イメージ的にも流通上も不利な[Bitter Spirituose]をメインラインに据えた勇気ある行動原理こそが、今の名声を造り上げたのかも知れません。この点(強ツヨン)を強くアピールしていない方針には、ある種の頭脳的な戦略ピーター氏?)を感じます。

・と思いきや・・・・・下記の銘柄の裏ラベルには今時珍しい<・MAX THUJON・>の文字が・・・しかし、外注品のようでブニヨン氏関連の記述は一切ありません。ドイツはハンブルグの「LogisticX GmbH & Co.KG」なる会社名義になっています。そうです、この会社は2010年の<アブサンティアーデ>で金賞を受賞した話題のブレンド・アブサン“Maldoror”を出してるんですね。フォーラムなどで、フランス、スイス、チェコからのブレンド元銘柄候補の一つとしてSapphireの名も挙がっていましたが、大外れでは無い様です・・・

LogisticX GmbH & Co.KG / Vertribe International

Sapphireサファイアはブニヨン氏が手掛けた<宝石シリーズ/ Diamond Line>ラインナップの一つです。1935年のレシピ由来とか・・・同時に、色が付いたフランス・タイプで72度のOpalineオパール”もリリースされています。<アルテミジア・シリーズ>ほどの突出した評価は得てはいませんが、以前に比べて高品位なアブサンが充実した現在では無理もないですね。そんな中でも、外注品とはいえブニヨン氏久々のLa Bleueタイプ銘柄第二弾として“Sapphireサファイアの評判は上々でした。って言うか、極一部の愛好家の間では異様な盛り上がり!そして、その理由が明らかに・・(Distilled /53度★★★

・遂にバレてしまいました。Sapphire、2010年10月頃に流通制限・・・・ほぼ全てのEU内販売サイトではsold out扱いになっていました。ツヨン濃度が規定を超えていたのが発覚したそうで、50ppmくらいだったとの噂もあります。恐らくプロデューサーのピーター( Peter Fuss )氏がヤッちゃったんでしょうね?それにしても、ばれるに決まってる様な事を何故?きっと裏の事情があるに違いない!って思いたいですね・・えっ、だって、そうだったら面白くないですか?かわいそうなのはブニヨン氏です・・せっかく評判が良かった銘柄だったのに・・

『This absinthe, whose character is grand wormwood driven, will utterly seduce you. Simply try and you will not be able to live without it ! 』

<La Bleueに興味なし?> 初期Clandestineシリーズ以降、5年間も途絶えていた無色透明なスイス・タイプ?新作がSapphireサファイアです。とは言え、前述の様に外注品・・・ブニヨン氏は伝統的なLa Bleueには興味がない様ですね。歴史の中で洗練を極めて来たLa Bleueは密造というリスクを犯してきた爺さん達の縄張りですから、外来者が手を加える根拠(資格?)が無いのかもしれません。後記の表を見ると、全てが無色透明だった初期Clandestineシリーズの後には度数の高い色付きアブサンしかリリースしておらず世界市場をターゲットにし得るフランス・タイプに御執心なのが一目瞭然です。なんと言っても、フランス専用のフェンコン規制対応バージョンなんてのを出しているのはブニヨン氏だけですからね・・しかも三銘柄もですよ。

<ハイプルーフ・スイス・アブサン> <アルテミジア・シリーズ>には、と同レシピながらアルコール度数を高く設定した“Capricieuse 72”があります。つまり、焼酎などではよくある原酒って事ですね。禁制後のスイス系アブサンは習慣的に55度前後がほとんどで、フランス物に近い度数の銘柄は少数しかありません。高濃度のアルコールが保持するハーブの密度は割水した後でも異なる趣を持つそうで、異なる量の水を加えて濃度を揃えた“Capricieuse 72”と“Clandestine 53”が同じ味わいではない点は面白いと思います。実験してみて下さい。

・無色透明で度数の高いスイス・アブサンとしては、前述の“Duplais Blanche 68”が2年ほど早く出ており先駆者的な存在です。同じ生産者の“Brut d'Alambic”にいたっては81,5度で、合法化された2005年からハイプルーフの可能性を追求。グーヴェ村の新進女流「Gaudentia Persoz」の“Absinth'Love”も68度です。純然たるLa Bleue生産者としてはポンタリオのLa Valote Martin l'Originale”が72度で注目ですね。“La Valote Bovet Tradition”は65度。フルリエの「Alain Rey」も“Absinth 68”を出しています。法的に不利なハイプルーフを色素保持の必要が無い無色透明のアブサンで試行するのは、より多層的で深遠なアロマを演出する為だそうで上級者が開ける奥座敷の扉なんですね・・・

・「Blackmint」の旧HPに 『The original Jura milk had an alcohol content of 55 to 75 per cent ! 』とありました。『Jura milk』=『ジュラ山脈のミルク』の意で、当時のスイス・アブサンの愛称です。この記述は、Verte(緑or黄)だった禁止以前のスイス・アブサンは幅広い度数で造られていた事を示唆しています。高濃度の方は輸送を前提としたフランス用だったのではないでしょうか。上記La Valote Martin l'Originale”や“La Valote Bovet Traditionの命名由来には禁制以前に想いを馳せる懐古的な心情があったんですね。

<緑化運動> 同社初のVerte(緑or黄)は2007年のAngelique 72 Verte(貴婦人ラベル)2種です。後継の色付き銘柄Angelique 68 Verte(妖精ラベル)や“Opaline ”は、市場が動き始めた2009年にリリースされました。機が熟したと判断したのでしょうか。世界的には色が付いたアブサンの方に親和性が強いですから、本来は透明なタイプのスイス銘柄を緑(黄)化させて「世界市場をロック・オン!」って感じなんでしょうか。ちなみに、初の色付き現代スイス・アブサンは前述「Disitillery Matter-Luginbuhl」の“Duplais Verte”です(2005年7月)

この表を見れば一目両全ですが、最初の年で無色透明のスイス系には見切りをつけ?緑化運動に勤しんでいますね。唯一の例外が問題を起こしたSapphireサファイア・・・しかし、これは外注品で最初のシリーズとの連続性は感じられません。そして、ブニヨン氏の緑化運動はAngelique”シリーズの迷走として定まらない状態が続いています。

・先日、某アブサン専門サイトから<Blanche(無色透明なタイプ)>に興味のない顧客に向け「That's a pity because you are really missing out on a whole absinthe experience! (あなたが真のアブサン体験をしていないのは残念で悲しい事だ)」とのアピールがありました。同サイトの全Blanche銘柄を10%offで販売するというオファーです。ビギナーが訪れる事が少ないであろう一番洗練されたサイトなのに・・・と驚きました。やはり、消費者側の<Verte(緑or黄のタイプ)>に対する親和(神話?)性は侮れず、かなりの苦戦を強いられている様が伺えます。

・“Angelique 72 No.2 Fortissimo”は,日本でも正規販売されているAngelique 68 Verte Suisse以前にリリースされていた外注品で、 2007年6月にリリースされたブニヨン氏初の色付きアブサン。最後の行程でハーブが2倍の量使われて芳香に富むだけでなく、苦味の押し出しも相当強く出ており、最初のイメージを実現した本来の味わいかと思います。やはりインパクト重視の処方になっており、複雑味や調和感には欠けるものの[ Full of harmony 、full of taste] で圧倒します。まさにFortissimoの名の通り<より力強い>味わいのクセ者・・ (Distilled /72度/画像は旧ボトルです)

Angelique 68 No.3 Appassionato”はフランスのフェンコン規制(2010年3月に解除)に対処したバージョンと思われます。当然ながらレシピも異なるせいか、苦味も押さえられて調和感も向上しました。とは言えインパクト性は充分で、その名の通り<情熱的>な味わい。個人的にはNo3の方が好みです・・ (Distilled /68度★★)

・“Angelique 68 Verte France”は、日本でも正規販売されている普及版“Angelique 68 Verte Suisse”と同時にリリースされていたフランス版で、同国のフェンコン(フェンネルの成分)規制に対応していた別レシピです。しかし、ボトル、ラベルは全く同じで、違いは裏ラベルに手書きされたF の文字や「E'xteait d'Absinthe Spiritueux amer」の表記だけ?到着した時には間違えて普通の奴が来たのかと思いました・・・ちなみにスイス国内ヴァージョンの“Angelique 72 Verte Suisse”もありましたが、現在では各国の事情に対応した現行の普及版に統一された様です。オーク樽による香り付けがハーブの鮮烈さを浮き彫りにする、ブニヨン氏のニュー・コンセプト。(Distilled /68度/終売品)

・貴婦人ラベルの“Angelique”二種は、ドイツの「LogisticX GmbH & Co. KG」による外注品の様です。この会社はドイツの裏番長Hans-Peter Fuss氏の意向が強く反映しており、ブニヨン氏らしからぬラベル・デザインだな?と思っていた違和感が解決しました・・・この流れを受けて妖精ラベル“Angelique”へと発展したのかもしれません。しかし、当店にある現物の貴婦人ラベルの“Angelique”二種には生産者はおろか供給者の記述など一切無く、責任の所在は不明です。法的に問題があるのは確実と思いますが、どうなっているんでしょうか?味を試すと異様な苦味・・・ひょっとしたらツヨン濃度が基準値を超えているのかもしれません。

<ALANDIAとの協力関係> クロード・アラン・ブニヨン氏はドイツの有力ショップ<ALANDIA>と密接な関係にあり、「2004年12月にドイツへ最初の出荷」と記述していますので恐らくコチラだったのでしょう。状況から察するに、LogisticX GmbH & Co. KG」を仲立ちとした密接な関係が築かれたのではないでしょうか?スイス国内での製造・販売が合法になったのは2005年春からなので、蒸留許可申請中とは言え微妙に違法だったと思われます。同ショップの<Clandestineシリーズ(下左)>はブニヨン氏の監修銘柄でLogisticX GmbH & Co. KG」のHans-Peter Fussとタッグを組み大きな成果を上げています。

・それにしても驚いたのが<ALANDIA>のニュースレターでした。同店のオリジナル銘柄“FrancoSuisse”について「“ALANDIA FrancoSuisse”, which is sold in Switzerland under the name “Clandestine Artemisia 55” 」と説明してありました。つまり、同内容の別ラベルです。そして、有名な評価サイトでは当然の様に“Recette Marianne (Franco Suisse) ”とも表示されています・・・色々と調べてみたら下記の様になっている事が判明しました。以前から不思議に思っていた<ALANDIA>で<アルテミジア・シリーズ>を扱ってない理由が分りましたよ・・・つまり、法的に微妙だった頃の名残で<ALANDIA>で販売される<アルテミジア・シリーズ>は<Clandestine>シリ-ズとして別ラベル販売されているんですね。

Artemisia Clandestine 53(スイス銘)=“ALANDIA Suisse La Bleue Clandestine(ドイツ銘)
Artemisia Clandestine 55(スイス銘)=“ALANDIA Franco Suisse(ドイツ銘)Clandestine Recette Marianne 55”(フランス銘)
Artemisia Capricieuse 72(スイス銘)=“ALANDIA Suisse La Bleue Clandestine 72(ドイツ銘)

       
左から”Clandestineシリーズ” 、問題の“Franco Suisse” 、旧“Angelique” 、新“Angelique72” 、“Angelique68” 、“Opaline” 、“Sapphire”、“Butterfiy"

<海外に向けた戦略> 2010年3月13日よりフランスでの『フェンコン(フェンネルの精油成分)の含有率5ppm以下に限る』とされていた規制が解除されました。いままでフランス仕様で造られていた“Clandestine(Marianne) 55”が廃盤?になった理由が分かりましたね。Angelique 68 Verte Franceの方も銘柄名からフランス仕様のはずですが?同じ妖精ラベルのAngelique 68 Verte Suisseがあるしなぁ・・・多分、廃盤ですね・・また新しいシリーズかよ?と思っていた、Opalineオパール”と“Sapphireサファイア”の存在も意味深です。色付きの“Opaline”の方は“Angelique 68 Verte”ラインの68度シリ-ズでアニス風味を減らして苦味が強いらしいです。木樽熟成という点も新機軸とか!無色透明な“Sapphire”は53度なので“ Clandestine 53”の後継銘柄とも考えられますが、ドイツから依頼された外注品なのでブニヨン氏の正規ラインナップという訳では無い様です。クロード・アラン・ブニヨン氏の前職が石油技師だけに世界へ向けた視点は確実に持っていると思いますが、過渡期とは言え個人生産者にしては銘柄数が多すぎ!アメリカ市場をターゲットにした戦略はどうなっているんでしょうか?Butterfly”では切り口が少々鈍い気が・・日本への売り込みは、本人が来日してプロモーションを行うなど足を使って頑張ってますけど・・・

初期シリーズ(2005年)
旧貴婦人ラベルAngelique(2007年)
過渡期・妖精ラベルAngelique
妖精ラベルAngelique(2009年)
最新銘柄
53度
 Clandestine 53 ★  
 Sapphire 
55度
 Clandestine(Marianne) 55 F 
56度  Absint 56  フルリエの「absINt56 S.a r.l.」という会社からの依頼品らしく、ヌーシャテルのホテルやバーで普及しているローカル銘柄だそうです。
65度        
 Butterfly
68度
 ※ Angelique 68 No.3 Appassionato Verte F ★  Angelique 68 Verte France F   Angelique 68 Verte Suisse   ※ Opaline (2008年)
72度
 Capricieuse 72   Angelique 72 No.2 Fortissimo Verte ★  Angelique 72 Verte Suisse

枠内の色がアブサンの色で、F はフェンコン規制時のフランス仕様、印は外注品、当店に在庫があるのは★印の銘柄です。

・分かりづらいので表にしてみると・・・初期の<Clandestine>シリーズ以外では外注品のSapphire”とLa Fee XS Suisse”しかLa Bleue的(無色透明/低アルコール濃度)銘柄はリリースされていません。世界市場を狙う新しい生産者だけに、La Bleue的美意識には執着が無い事が分かります。それにしても、代表的銘柄の“Clandestine 53”の位置付けはどうなっていくのでしょうか?それに、曖昧なバージョンが五つもある“Angelique”シリーズの存在意義は・・・色付きタイプなので徐々に『68』という霊数にシフトして行くのは当然?つまり、ペルノー・フィルス的な形態が持つフランス市場での優位性を意識しているのかもしれませんね。日本で入手可能なのは初期の主要三銘柄と“Angelique 68 Verte Suisseのみです。

Angelique 68 VerteがOKなのに“Angelique 72”が日本に輸入されない理由として「空輸する際の規定で危険物扱いになる為」との記述がありました。恐らく、保管時にも取り扱い義務が煩雑で余分な経費が掛かってしまうんでしょうね。フランスやドイツで販売されているのが前者なも同様の理由かもしれません。という事は“Angelique 68 Verte”はソフトケイトされた輸出用で、度数を下げ各国の規制をクリアする為にはハーブ構成にも変更が必要かと思います。輸出を前提とした様々なバリエーションが生まれてしまう一例ですね。

<アブサンティアーデ(absinthiades)による評価の確立> ブニヨン氏の躍進はポンタリオの<アブサンティアーデ>によるものと言っても過言ではありません。唯一のアブサン・コンテストが聖地で行われている訳ですから、情報が少なかった頃には決定的権威に見えるのは仕方がない事です。得にClandestine(Marianne) 55の5年連続最高得点は問答無用で、飛びぬけた孤高の頂上銘柄の様に思えるのは当然かもしれません。2009年も“Angelique 68 Verteと“Opaline ”の2銘柄は、Coloree部門ののメダルを取っています(下図参照)。この二つの銘柄の受賞で<世界最高峰のアブサン蒸留家クロ−ド・アラン・ブニヨン>というアイコンはより堅古なものになるのでしょうか?Angelique 68 Verteは日本でも正規販売していますから購入可能です。

Clandestine(Marianne) 55のフェンコン規制を前提としたフランス市場向け処方は、独特のハーブ・コンポジションを得た事により「怪我の功名」的な成果を得たのではないでしょうか?「2005年のアブサンティアーデ出品直前に瞬時のインスピレーションによって誕生した」という有名な話があります。つまり、考え抜かれた末に選択された処方と言うよりは、幾つかのアイデアの中から「エイッ、これっ!」って感じで選んだのかもしれません・・・結果的に<スイス≒ポンタリオ>的な出品が多い中で<フランス≠スイス>的な味わいが際立ったとは考えられませんか?一つの銘柄の評価が極端に持続するのは不自然な気がしてなりません。個人的には飛びぬけた頂上銘柄と言うより、特異なハーブ・コンポジションを持つ過渡的で個性に溢あふれた存在、と思っています。

<アブサンティアーデ(absinthiades)の審査偏向> このコンテストは公募による一般審査員の比率が多い、村興おこ的な品評会です。前述の様に、クロード・アラン・ブニヨン氏のClandestine(Marianne) 55が世界唯一のアブサンコンクールを独占状態・・・とは言え、ブニヨン氏のコンセプトがコンクールに向いた強インパクトな傾向にある点や頂上銘柄の多くがエントリーしていない理由などを考慮すると、<アブサンティアーデ>の評価のみを鵜呑みにする事はできません。おおまかですが、アブサン界全体中1/10くらいの範囲でなされる評価だと思うのが順当かと思います。<I・W・S・C>の様なシリアスなコンペティションとは意味が違います。

・コンテストという特殊な状況で勝ち続けるには、何杯も試飲する審査員の疲れた舌に強い印象を残さねばなりません。品質や味わいは当然として、他との強い異差感を感じさせる必要があります。日常的な美味しさとコンテストの評価は必ずしも同一ではありません。一杯だけなら印象的な味わいでも二杯目はtoo muchに感じるくらいのインパクトを持つのがコンテスト・フレーバーです。慣れたプロなら必要な修正判断ができるでしょうが、<アブサンティアーデ>の審査員構成(★)ではインパクトに飲み込まれる可能性が大きい様にも思います。今後はコンテストや評価向きの味わいを重視した<パーカー・ワイン>の様な銘柄が出てくるのかもしれません。Clandestine(Marianne) 55もそうですが、2010年金賞の“Maldoror”は良い例ではないでしょうか・・・

(★)アブサンティアーデ専任審査員(10人)に加え、飲食業専業者と一般消費者から抽選で選ばれた各12人の希望者(計24人)からなる総計36人による構成です。24人の一般審査員はwebによる応募から選ばれるので、生まれて初めてアブサンを飲む人が含まれる可能性は否定できません。基本的には町起こし的なお祭りなので、開かれたコンテストを目指しているのでしょう。

・関係ない話ですが、世界一ポピュラーな“Absente 55”は(ほぼ)ノー・ツヨンで世界一のヘナチョコ銘柄としても有名です。スペリングが違うのにお気づきでしたか?フランスではAbsintheという単語を銘柄名に使用する事を禁止する法規が有効でした(2010年解除)。中途半端なレシピはアブサン復活最初期の安全策で、スポイドの付き小瓶で有名な高ツヨン・ビター系の“Absente L`Extreme (エクストリーム・アブサント)”を垂らして完成した気分に・・・という戦略だったのは確実・・・でも、今一つ認知されませんでした。両方買うと高くつくから?でも、新銘柄“Grande Absente 69”が2009年のアブサンティアーデで銀メダルを勝ち取ったんですね!Domaines in Provence」社はチャンとしたアブサンを造っていく姿勢をアピールして近年の汚名を挽回しました。同時期にツヨン濃度〜35ppmの “Absente Bitter 55”なる銘柄もリリースする事で万全を期していますね。

・ちなみに、〜35ppmの“Absente L`Extreme (エクストリーム・アブサント)”は国内購入可能でしたが、今では海外のみです。正規輸入品は〜10ppmの日本版?に変更され末尾に“リファイン”の文字が・・・存在意義が喪失したアブサン黎明/混乱期の忘れ形見って感じですか?又は、低い声で怪しげな由来を披露する<話の種アイテム>としては使いやすい?しかし、アブサン的ビターが70度/100mlで2000円前後って事ですよね。レギュラー・ボトル換算で1万4千円相当・・・なんと国内最高価格です!同じ位の度数で〜35ppmの正規品もありますよ。<アルテミジア>の“Capricieuse 72”なんか半額以下・・・通常の飲み方?も100倍美味しいお勧め銘柄です。怪しい感じが好きな人はスポイト付きの小瓶を入手すれば良いんじゃないすか?ラベルなんか無い方が<怪し度>が増すし・・・

・<C・Blanche>は透明なタイプで、La Bleueや蒸留直出しのシリアスなタイプです。<C・Coloree>は蒸留後にハーブなどで色や香り付けをする造り方で、ほとんどのアブサンは<Coloree>に含まれます。この年から分かり易く2部門になったようですね。3部門だった2008年の受賞銘柄はこちら

・エントリーナンバー9の 、“Clandestine Artemisia 55” が“Clandestine Recette Marianne 55”の事です。すでに殿堂入りしているため欄外表示の別格扱いになっていますが、相変わらず最高得点(5年連続)を得ていてスゴイですね・・・

・アルテミジア・シリーズは日本では「成城石井」経由で正規販売されており、“キュプラー”と並んで国内入手可能銘柄としては稀少な「安心してお勧めできる本格銘柄()」です。2009年春にクロード・アラン氏がプロモーションの為に来日した事は記憶に新しく、Gaudentia Persoz嬢と共に日本市場を意識している理由はどこにあるのでしょうか?キーマンとなるデヴィット・ゾペティなる人物がいる様です。ん・・この銘柄は正規輸入品ですから、本来は「アブサン番外地」なんかに居るべき人じゃないんですね。

)他では、(個人的にですが)ヴェルサント社の“ Versinthe"、“ Versinthe La Blanche" 、それにジャン・ボワイエ社の“Absinthine”はお勧めです。かつてスポット輸入で少量のみ出廻った優良銘柄もあります。Jade Liqueurs社の “PF1901”、“Edouard ”、“Verte Suisse 65 ”、 Emile Pernot社の“Un Emile 68”、“Un Emile La Blanche”、チェコの“Strong”、スペインの“NS70”などです。日本で80年代まで作っていた“ヘルメス・黒ラベル”も意外とお勧めですよ。(この項目の太文字の銘柄は用意してあります。)

Gaudentia Persoz 新しいトラヴェール生産者で、Gaudentia Persozという女性が操業する蒸留所です。スイススタイルの伝統を踏まえながらも新たな美意識を持つ新時代アブサンとして高い評価を得た“La Ptite”が代表銘柄。対外的なインフォメーションも少なく地味な存在ですが注目すべき素晴らしい生産者だと思います。

La Ptite Douce”は上記“La Ptite” の特別なヴァリエーションです。La Bleue的リッチな舌触りを保ちながらも「アルプスの麓に広がる小さな花畑の香り」と評されるミンティで甘やかな味わいは女性ならではのアレンジメントなのでしょうか?この甘美な味わいは格別にして別格!素晴らしアブサンです。男視線のラベルデザインが多い中では意外と見かけないフェミニンで優しい雰囲気のラベルも、彼女のスタイルを象徴しています。(Distilled /53度)

・この銘柄は(な、なんと!)日本市場(な、なんで?)を意識して甘め?に処方したと書いてありビックリしました(参照。「 I created these Absinthe for japanese market where norms are not the same as in Europa. 」どんなリサーチをしたのか興味がありますね。甘めに処方する事でバランスの次元が高くなり、リッチで明確なアロマを放つそうです。私達(日本のアブサン愛好家)に託された特別な銘柄をお試し下さい。

・かつて彼女が家を購入した時、古いレシピと小さな蒸留器が発見されたそうです。昔の密造者の家だったのでしょうか?この発見がキッカケとなりアブサンの生産を始めた様です。写真で見る限り今時には珍しい家庭内規模のガレージ・メーカーで、「時折の品切れは御容赦下さい」との注意書きは無理もありませんね。

・ちなみに、左の50g蒸留器は旦那さんの手作り品で、以前に発見した古い小さなヤツも併用しているようです。ハーブを二つの釜に分ける蒸留法は常套手段の様で、昔から大小2器を組み合わせるシステムがほとんどです。

・ “Absinth'Love”というスゥート&パッショネイトなネーミングの銘柄も出しています。68度というフランス的高濃度は象徴的・・・Absintheの最後の e が抜けていますね。クロード・アランの紹介でついにドイツからの依頼を受け始めたんでしょうか?このスペリングはチェコやドイツなど中欧で時々使われますから・・・

 オルヴェニュ村 Auvernier

Absinthe Duvalloni 」 フルリエ(Fleurier)ラ・マロット(下記)は有名な女流密造者でした。その姪Martaも40年にも渡って密造を続け、販売や配達も自分でこなしていたそうです。この濃〜い密造血脈を受け継ぐ三代目生産者がMartaの娘Jaquet Charrereです。スイスでの解禁決定後、ヌーシャテル近くのオルヴェニュ村に「Absinthe Duvalloni」を起こして家業を再開しました。前記<アルテミジア・シリーズ>のクロード・アラン氏とは交流も深く、彼が使っていた小型蒸留器で蒸留しているとか。極少量生産なのでコレクターズ・アイテム初級品としてマスト・アイテムになっています。

1)2)3)

1)地産のニガヨモギを使い、1951年に書き留められた家伝レシピで処方した“Duvallon”が最初の名柄です。ツヨン濃度30ppm、フェンコン(フェンネルの精油成分)15ppmという処方が、La Bleue的な理想比率なのでしょうか?この一本こそが<最もLa Bleueの面影を宿す入手可能現行アブサン>なのではないか?と思ってるんですが、どうでしょう?なんせラ・マロットの直系三代目ですからね・・・ちなみに1ppm=1mg/L(g)です。Distilled /53度

2)フェンネルを1gあたり15ppmから5ppmに減らして作られたフランス向け仕様の“Blandine”です。アルコール度数も高めに変更していますが、何故か無色透明ですね?しかし2010年3月の規制解除を睨んで“La Veuve Verte (Green Widow)”がリリースされた為、某販売サイトでは「“Blandine”はもうすぐ無くなるかも・・急いで買ったほうが良いよ」って書いてありました。しかし、「Absinthe Duvalloni」の記述では「 We however continue to distil the “Blandine” as a basis for “Green Widow” .」とありますので終売にはならないって事なんでしょうか?Distilled /65度

3)フランスのフェンネル規制解除に向けての改定版“La Veuve Verte (Green Widow)”は、やっぱ緑(黄)色に!この辺は“Recette Marianne 55”が“Angelique Verte Suisse 68”に代替された流れと同じですね。それにしてもGreen Widow(緑色の未亡人)という意味の銘柄名は意味深です。“Blandine”に対する愛惜ネーミングかと思うのは考えすぎ・・・?そう言えばノースロップP-61という双胴の夜間戦闘機が Black Widow なる愛称でした。昔、プラモデルを作った記憶があります。あっ、全然関係ない話ですね・・・Distilled /65度

・ちなみに、ラベルの可愛らしい絵は幼い娘さんが描いているとか。なんとなく“天使のグラッパ職人”ロマーノ・レヴィの手書きラベルを思い出しました。お母さんの蒸留作業に興味むき出しだそうで、四代目はこの子でしょうか?

ラ・マロットに関しては、とても有名な話が伝わっています。彼女の美味アブサンを目当てに大勢の地元民が訪れ、評判になりすぎてしまった事から裁判所に送検されてしまいます。この時期(1960年代)、酒類審査官がフランス系スイス文化に理解のない出世欲満々のドイツ系官僚だったからだ、という説もあります。国境付近で捕まる密輸・密売人ならイザ知らず、地元消費の個人レベル密造者が告発される事は極めて稀だったそうで、地元の裁判官も大いに困惑した事でしょう。3000フラン(20〜30万?)の罰金支払いを命じられたラ・マロットが、小さな声で判決を下した顔見知りの裁判官に言い放った言葉は今でも語り草になっています。「この罰金は今払うのかい?それとも、アンタが次にアレを買いに来た時に払えばいいのかい?」 この時、彼女は80歳を超えていたそうです。1969年6月6日に亡くなりました。ちなみに、ボバレスのアブサン祭りは彼女の誕生日に行われているらしいですよ・・

ラ・マロットのレシピはモティエ(Motiers)村に住む Matthey-Claudetなる人物から教授されたものだそうです。ブリキ職人を営みながら自家アブサンを作っていたそうで、ニガヨモギの苦味の強い白いアブサンだったと伝わります。

Absinthe Duvalloniの最新銘柄“Sevil”の説明では生産者の事を Monsieur(ムッシュ) DuVallonとかHeなどと男性を暗示する曖昧あいまいな表記である点が不可解です。ラベルがも今までとは異なるモダンなデザインで、Jaquet Charrereの娘さんのイラストではない点にも違和感が・・・よりによってキス・マーク・・・まさか、娘さんのって事はないでしょう。個人的な憶測ですが、Monsieur(ムッシュ)DuVallonとは、三代目Jaquet Charrereの師匠であるクロード・アラン・ブニヨン氏を指しているのでは?以前から三代目Jaquet Charrereの名前は伏せられている感じも強く、< Association Interprofessionnelle de l'Absinthe >などのメンバー・リストやブログの登録名などでしか知ることができません。狭い地域のプライベートな事情が絡んでいるのかも知れません。

・上記の根拠は『 Once again, DuVallon demonstrate his talent by meticulously adding, for the very first time, a new ingredient that is not widespread in the Val de Travers: wine alcohol. 』という一文です。既に才能を認められた旧知の人物で、スイスで使用例が少ないワイン・アルコールを試した事があり、DuVallonにj関係した男性生産者と言えば・・・ブニヨン氏しか思い当たりません。ひょっとしたら、今までのDuVallon銘柄も主要な部分をブニヨン氏が手がけていて,、内情が隠されていた可能性は否定できません・・・DuVallonのサイトの熱い熱意と膨大な執筆量に比べて極端に少ない生産量も納得できます。邪推が過ぎますかね?

・「スイスのアブサンがグレープ・スピリッツを使わない傾向にあるのは、輸入するにあたって税的に不利な非EU国だからのでは?」という話を伺いました。国内消費量(世界第五位)が生産量を上回るスイスでは他の国と異なり余剰ワインの問題はなく、グレープ・スピリッツの国内供給は難しい様です。ブニヨン氏の<アルテミジア>シリーズに上位ヴァージョンとして“La Clandestine Wine Alcohol”が設定されているのはコレが理由の様です。6ユーロ程高いです・・・・

 モティエ Motiers

La Valote Bovet似た味の傾向を持つLa Bleueを多種ライン・ナップする事は???って感じがします。逆に、購入銘柄を決める時には相当悩みました。結局、昔ながらの味を守りながらも挑戦心を忘れない生産者を選んでみました・・・なんちゃって、実はラベルの可愛いらしさという点が最大のアピールポイントだったのは言うまでもありません・・・(HP

・“La Valote Bovet・Le Chat ”の生産者Williy Bovet氏は規制以前には密造者でした。この外せない一点だけで、当店ラインナップ中では疑いも無く純La Bleue銘柄と言い得る唯一のボトルです。解禁後に三人の仲間と<La Valote>という有限会社を作り、蒸留器を共有して各自の銘柄をリリースする体制を整えてきました。彼の名義で三銘柄を出しており“Le Chat(猫)”がレギュラーです。古跡“Bourgeois”のポスター図案のラベルですね。メロウで奥深くバランスのとれた味わい。仄かな苦味を伴う余韻。La Bleue銘柄中ベストの声も高し!「A high quality absinthe worthy of the best Bleues」(Distilled /53度

 

・限定少量生産の“La Valote Bovet・Nostalgie(上黒)”は54度でスイスでは珍しい樽熟成品です。“La Valote Bovet・Tradition(上緑)”は65度のハイ・プルーフ・ヴァージョン。Williy Bovet氏は高齢の様ですが、新しい試みにも挑戦して意気も盛んです。

< La Bleueの抱える問題点 > スイスの名産品とも云えるLa Bleue銘柄の名声は<揺るがぬ岩の様に堅牢>ですが、一つだけ問題があります。特殊な状況での洗練の末、ほとんどのLa Bleue銘柄の味が似通っています。狭く密接した地域(※)で作られている為か、原材料や手法が均一化してしまうのかもしれません。有力販売サイトでも「どれを選んでも最高の満足感が得られるだろう。でも味は似た感じだよ・・」って書いてあったりするんですね。大吟醸の味が似てくるのと一緒なんでしょうか?

(※) La Bleueの蒸留所は、クーヴェ(2755人)、ボバレス(392人)、モティエ( Motiers/825人)、フルリエ( Fleurier/3518人)など、全ての町?村?が半径10km以内で収まる狭い範囲に凝縮して集まっています。同業者ですから、全員が顔見知り(ヘタすると幼馴染)なのは間違いありませんね。ちなみに(人数)は2007年12月時点での人口です。

Kubler & Wyss/ Blackmint Distillery La Bleueとして扱われている銘柄の中で、最も成功しているのがYves Kubler氏の“KUBLER”です。1863年から続く歴史を誇り、祖父 J. Fritz Kublerの代には「Kubler & Romang」としてアブサン銘柄を手がけていました。2005年のスイス解禁に向けて地産ハーブの育成や試験蒸留などを行い十分な準備をしていたそうです。日本正規輸入も比較的早い時期からで、困難なアメリカの輸入認可を最初に得た事などからも健全で前向きな姿勢を持つ企業である事が伺えます。しかし、スイス国内シェアの7割を占める生産量や個人密造家ではなかった点からLa Bleue と呼んで良いかどうかは微妙かと思います。つまり、民間の自家製密造酒La Bleueをプロの蒸留業者がリファインしてリリースした感じではないでしょうか?しかし、日本国内で購入可能な唯一のLa Bleue的アブサンである事は間違いありません。そう言えば、当店でも人気の薬草リキュール“Amer Picon”も造っているようで驚きました。ちなみに、スイス生産者としては唯一ISO(工業国際規格)を取得してるそうです。HP

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・“KUBLER”が唯一の通常銘柄です。最初期の45度、量産向け改定版の57度、各国の事情に合わせた53度と変更されました。量産化につれてアルコール度数と共にレシピも変更され、よりソフィティケートされてきた様です。45度に対しては「La Bleuesとの共通点は多いがより複雑な味わいを持っている」と評価(1)されており、La Bleuesとは別枠のアブサンとして認識されていた事が分かります。57度は複雑な味わいが薄れたとの評価(2)で不評でした。現行の53度は各国向けのヴァージョンがあり評価が定まりません。ちなみに、EU版は〜35ppmの「Bitterspirituose」で、アメリカ版、日本版は〜10ppmです。当店ではEU版にてお試し下さい。 (Distilled /53度)

・“Cuvee du Centenaire”は特別なアニヴァーサリー版です。スイスで禁止された1910年からの100周年を記念?した3000本!限定銘柄。家伝のベル・エポック・レシピを再現したそうです。しかし、限定で3000本とは多すぎてありがたみが薄れますね。一番小さい生産者の一年分以上・・・ 2005年の段階で年8万gもの大量出荷を成しとげているというデータもありますので、来訪者に披露している小さな蒸留器だけで賄まかなえるとは思えません。主力生産拠点はどこなんでしょうか? (Distilled /53度/不在)

(1)「It is uncolored and has a lot in common with La Bleues, though it is more complex than many. 」
(2)「Not a horrible absinthe overall, but a poor blanche. No complexity. 」

 

<チェコ>

・チェコでのアブサン生産は1991年の“Hill's absinthe”から、というのが定説です。つい最近の話ですよね?しかし、この“Hill's absinthe”の登場は超タイムリー(参照)で初の現代アブサン?として驚くほどの成功を収めました。異様とも言える一部の人々の希求心だけでなく、一人のセールスマンが考案した<角砂糖に火を着けるパフォーマンス>も大いに功を成したと言われています。それ以降、多くのチェコの普及アブサンは“Hill's absinthe”に習いアニスを使わない甘味アルコールによる人口的な味わいが主流を占める事になります。厳しいフォーラムでは<Czech Absinthes have their own category. They do not have an herbal taste like typical French Absinthes.>と蔑まれ<フェイク・アブサン>として別物扱いされていました。

Hill's Liqueurs(1920年〜)はHPで「1940年代に独自のレシピでアブサンをリリースしていた。」と主張しています参照が物証が一切残っておらず疑問の声が上がっています。って言うか、誰も信じていません。ボトルや第三者の言証どころか出荷票や取引先の領収書すら出てこないんじゃね・・・そもそも、1940年代にチェコでアブサンを生産する必然性なんか微塵もありません。

・しかし、故Martin Sebor(〜2003年)の本格アブサン登場(1998年)を機に変革が起こります。Sebor氏の銘柄が対外的に高く評価されチェコ独自の本格アブサンへの扉が開いたからです。Sebor氏の成功に刺激されたチェコ・アブサン界の動きは大いに活発になりました。安易な普及銘柄だけでなく高ツヨン銘柄に象徴される特異な方向性と高度な蒸留法による本格的なアブサンが続々とリリースされ、今ではチェコ物=フェイク・アブサンの図式は徐々に過去のものとなりつつあります。しかし、フランス的処方の高級銘柄も増えてきてボヘミアン・リキュールの系譜に連なるドメスティックな価値観が薄れつつあるのも事実・・・Sebor氏が墓の中で苦笑いしているかもしれません。なぜかと言うとSebor氏はツヨン濃度にも蒸留法にもフランス物にも興味が無い完全に独自独路の人だったからです。混迷のチェコ・アブサンはこれからどうなっていくのでしょうか?

・微妙なのがSebor銘柄の現行品?と称するアブサンです。オリジナル“Sebor(画像1の再発銘柄“Martin Sebor original”はイギリスの「Sebor Absinth TM Limited」が販売しており、後出「Bairnsfather Family」の継続生産品だそうです。オリジナル“Sebor”と寸分違わぬ外見ですね。流れ的にはセブロ氏の相棒だったKyle James Bairnsfather氏が作っている点で正統性を感じます内容的に問題があるという話は聞きませんが状況の違いやお二人の方向性の違いなどが味に反映している可能性と蒸留拠点が移動している点などから全く同じ味と言う訳にはいかないかもしれません。でも、個人的にはとても興味があります。当店には貴重なオリジナル“Sebor”が一本だけ隠してありますからね。

・片や、オリジナル“Sebor Strong”の再発銘柄と称するDelis製“Czech Absint Strong(画像2)の方は問題ありあり・・・そう、一時、日本にも出回った例のヤツです。新ラベル・丸瓶にて「CZECH ABSINTH s.r.o.」が限定流通させており今でも入手可能です。かつて日本で流通してたのは旧ラベル・丸瓶の方で中身は現行(2002年〜)の新ラベルと同じ全くの???物・・・海外のフォーラムなどで非難go!go! が浴びせられ詐欺まがいの行為として糾弾されていました。旧ラベル・丸瓶が流通してたのは情報が無いに等しい頃でしたし強ツヨン銘柄に興味が集中していた頃ですから日本のアブサン愛求者達が大喜びしてしまったのも無理はありません。トレーネとかハプスブルグのような非アブサンですら本物扱いされていた頃ですから・・・逆に、そんな経緯を知りつつ話の種としてふるまうには一番楽しめる銘柄かも知れません。全く意味不明な滴瓶“Extreme d' Absente ”みたいに<歴史の証言者>的存在としても貴重ですかね?

(かつて日本で人気だった“Czech Absint Strong (丸ビン)”についての哀しい詳細はこちら

1)   2)

<高級銘柄> 現在では蒸留法に秀ひいでた「Ales Mikulu-Cami」が最重要のNo1生産者で、フランス的チェコ銘柄の先駆者として対外的な評価を勝ち得ました。しかも、唯一とも言えるドメスティックなシリーズも維持する間口の広さ。両者とも手工少量生産による高いクオリティーを実現しています。フランス的銘柄“St. Antoine”の著しい進化が注目の「ZUSY s.r.o」、唯一グレープ・スピリッツ使用で注目の「Milan METELKA a. s.」、などもチェコでは珍しい「Distilled法」の使い手として海外での評価も高い様です。一方、「浸透法」の洗練に強く拘こだわる「Bairnsfather Family」はMartin Sebor氏の後継者的な存在で一味違ったテイストと独自性は未知なる領域への可能性を感じさせます。ハイ・プルーフの“Zelena Muza”シリーズで知られる「Petra Skalicka Likerka Delis」もSebor系の生き残りです。

<普及銘柄> その他は「浸透法」と「エッセンス法」の併用/単独使用が大主流で、“KING OF SPIRITS”など奇妙な方向性で有名な「L'or special drinks s.r.o」、販売サイトでもポピュラーな「Trul Distillers Spol. S R.O.」、ドイツ銘柄として販売されている<痛いラベル>が印象的な“Vision”の「VISION ABSINTH s.r.o./Mocca Drinks s.r.o」、長い歴史を持つ「Fruko Schulz Distillery」、通称“チェコ”でお馴染みの「Palirna u zeleneho stromu」、最近アブサンをリリースした「RUDOLF JELINEK a.s.」、怪しげな100ppm銘柄“ Logan Fils”で話題の「Logan Distribution, Inc.」、そして色んな意味での火付け役としてチェコ・アブサンのイメージを決定付けた「Hills Liquere s.r.o.」などなど、多くの生産者が独自の方向性で稼動しています。しかし、この項目の生産者は対外的評価は芳しくありません。って言うか、最低です・・・・

< Martin Sebor チェコ・アブサンの革新者> 当初、チェコ・アブサンの全てが1991年に発売された“Hill's Absinthe”の影響下にありました。その閉塞した状況に一石を投じる革新者が現れます。チェコ辺境地で操業していた「Sdruzeni pro vyrobu a odbyt likeru,s,r,o」のプロデューサー、故Martin Sebor(1955〜2003年)です。チェコ民主化直後、1991年からボヘミアン・リキュールを手掛けてきた経験を昇華させ、ドメスティックな要素を失わないチェコ・アブサンの美意識を構築しました。本場フランスの企業ですらアブサン生産に二の足を踏んでいた、右も左も分からない黎明期の頃です。

・1998年に魂の一本“Krasna Lipa”を世に出し、同時にリリースした唯一の高ツヨン銘柄“Sebor Strong”は海外でも注目を集めました。続く輸出向け処方の“Sebor Export”がヒットし、ロンドンの夜を大炎上させた真正アブサンとして名を轟とどろかせますその後、国内からの要請で“Havel’s”銘柄に着手し、強いニガヨモギ感を狙った“Havel`s Absinth”、早過ぎたスイス的銘柄“Havel`s Alpen Absinth”などの意欲作を送り出しました。しかし、「至高のボヘミアン」とか「決定版」などと賞賛された“Havel 's Gold”が最後の銘柄でした。“Havel 's Gold”をワンポットのみ蒸留した時点で亡くなられ、同時に進行していた“Excelsior”は世に出る事も無く終わります。彼がアブサンを製造していたのは、2003年までの短く濃密な5年間でした。死因には不明瞭な部分も多く、○ェ○・マフィアとの関係も囁かれていますが噂の域を出ません。ちなみに、インターネット上で初めてアブサンを販売した先駆者として、又、ヴァリエーション・ボトルやオリジナル・グラスによるアブサン販売戦略を導入した仕掛け人としても知られています。

)刺激を受けたフランスの生産者も重い腰を上げて生産に着手しますが、完全に安全策に走った様です。ほとんどパスティスと言っても良い類似名銘柄“Absente”、イギリス企業の受注によるニガヨモギではない近似種を使った“ハプスブルグ”、”ユニコーン”の様な???銘柄などが最初期フレンチ・アブサンの実態です。“カーマン”などは完全に“Hill's Absinthe”的な処方の追従銘柄でした。この様な事情から、Hill'sによるアブサン偽造、そしてSebor氏の存在感が世界市場発進の決定的発火点になったと言えるのかもしれません。

<Sebor銘柄オール・スター>

左から“Bairnsfather”3銘柄、“Havel 's”3銘柄、オリジナル“Sebor”3銘柄4種です。
左から4番目が、マニア垂涎の“Havel 's Gold”、右から4番目がオリジナル“Sebor Strong


コア・マニア垂涎!セブロ・グラス・・・

<低ツヨン> ちなみに、Sebor氏の銘柄の中で高ツヨンなのは“Sebor Strong”くらいで、他はバランス重視の方向性からか10ppm以下の含有量です。しかし、ツヨン濃度に対する興味が強かった今世紀初頭、“Sebor Strong”は対外的に高い評判を呼びました。高ツヨンをセールスポイントにしたチェコ銘柄が多いのはSebro氏のチョッとしたアイデアがヒットしたからなんですかね・・しかし、アニス少なめの傾向が強いチェコ系では苦味が前に出すぎると調和感が弱くなる様な気もしますし、成熟しつつある今後の市場で通用するのでしょうか?むろん、新しい価値観を生む可能性も十分にあります。

<浸透法> チェコの高級銘柄で主流になりつつある「蒸留法」ですが、Sebor氏的にはマイクロ・フィルターと冷却濾過による「浸透法」を追求していた様です。この手法を継承しているのは後述の「Bairnsfather Family」のみです。スイス的美意識に挑戦したと思われる“Have`s Alpen”のみ「蒸留法」が使用されていますが、無色透明のアブサンを「浸透法」で造るのは困難だからでしょうか?しかし、そんな事よりもスイスが禁止国だった頃に試行の対象として意識し商品化していた慧眼にこそ驚かされます。

<死後のSebor系> ・日本でも有名だった“Czech Absint Strong”のパクリ元?は“Sebor Strong (画像上右から4番目)です。同じ丸ラベルですがオリジナル“Sebor Strong”は当然ながらSebro系ボトルだったんですよね・・・丸ビンの“Czech Absint Strong”はチェコの「CZECH ABSINTH s.r.o.」がリリースしています。当初は「Martin Sebor Distillery」のHPと同じURLを引き継いでおり法的になんらかの立ち場を得ていた様です。(現状では別のURLに変更されています。)このHPで生前のSebor氏との協力関係を主張しており少なくとも同じデザインのラベルを使える立場にあったのかもしれません。多くの評価によると中身は全く別物みたいな感じ・・・名前とレシピまでは引き継いでないって事なんでしょうか?かなり微妙な立場ですね。あと、驚いたのは『あなたのオリジナル・アブサン作ります!1 kgあたり2 mg?5000 mg (標準EU 1 kgあたり10 mg )の範囲でツヨン・レベルを設定可能!』なんてとんでもないオファーも・・・法的に大丈夫なのか?一般流通しない個人用だったら良いって事か?

・イギリスの「Sebor Absinth TM Limited」は「Any site (other than this one) claiming to offer for sale the brand "Sebor Absinth" 55% with the maximum wormwood content, is unauthorised and possibly bogus.(ほかのセブロ銘柄はニセモノ)」と主張。上記「CZECH ABSINTH s.r.o.」に対する批判なのは間違いありませんよね?現在はイギリスで人気だった“Sebor(上右から3番目)の後継銘柄“Martin Sebor original(現 Sebor Absinthe)”を販売しています。こちらはSebor氏の名前とレシピを使える位のより優位な法的立場を得ている様です。

・その他の関連としては、上記“Czech Absint Strong”の製造を請け負っているハイプルーフで有名な「Petra Skalicka Likerka Delis」、同じく上記““Martin Sebor original(現 Sebor Absinthe)”)”の製造元でSebor氏のお弟子さんだったKyle Bairnsfather氏の「Bairnsfather Family 後述)」、Sebor氏に自社銘柄(PB)を発注した流通業者「Havel`s distribution後述)」、などがありMartin Sebor系はチェコ・アブサンの大潮流をなしていたんですね。そして、大御所「Ales Mikulu-Cami後述)」のボヘミアン・ライン<Cami>シリーズのボトルがSEBOR系と全く同じ形状である事にも関連性を感じずにはいられません。

・web上のKyle James Bairnsfather氏の発言を見てもSebor氏の周りには様々な思惑が渦巻いていた様です。チェコの経済的混乱に基づいた○ェ○・マフィアの暗躍もチラついており、死後の名義争いに関する訴訟沙汰などからも多くの人が絡んでいた様子が伺えます。「真実は藪の中」・・・・しかし、実名を出して発言しているのはKyle Bairnsfather氏だけです。色々なパッシングもある様ですが、実際に蒸留j所を運営しており責任の所在が明確なので比較的に信用できるのではないでしょうか?

<真の後継者は?>・実際には、Sebor氏の美意識を忠実に継承している生産者は存在しません。直系の「Bairnsfather Family」ですら、高ツヨン銘柄のみをリリースしています。セールス上のアピール・ポイントを顧慮すると美意識を共有できないのかもしれません。孤高の存在であるSebor氏の美意識は、わずかに残るSebor氏本人のオリジナル・ボトルから想像するしかありません。

Krasna Lipa Sebor Distillery 」 クラスナ・リパはポーランドとの国境付近の北端にある山岳地帯で、Sebor氏が活動したチェコのアブサン聖地。このエリアはチェコの中でも「死んだ場所」的な扱いを受ける寂れ果てた不毛地帯だとか。しかし、トラヴェール渓谷同様にハーブ類の育成に向いた環境を持っていおり、気候は寒冷で火山断層による石灰質の少ないハーブ向きの土壌と思われます。チェコは軟水地域の多い国で、日本のビールがチェコ(ピルスナー)・タイプなのは軟水ならではのビール醸造法だからだそうです。Sebor氏が「浸透法」に拘こだわったのは水の特性が絡んでいるのかも知れません。そう言えば、直系のKyle James Bairnsfather氏が蒸留所を移転する際に重視したのは<良い地下水>と明記していました。

・正式には「Soruzeni pro vyrobu a odbyt likeru,s,r,o (Association for the manufacture and sale of liquor Ltd )」という名称で1991年の共産政権崩壊時に創業されたそうです。ディレクターだったSebor氏の存在が大きかった事と所在地から、通称「Krasna Lipa Sebor Distillery 」と呼ばれていました。

・当初から相棒だったKyle James Bairnsfather氏はSebor氏が亡くなる(2003年7月)直前に共同経営者として出資していたそうで、「Krasna Lipa Sebor Distillery」を継続運営しようとしていた様です。しかし、権利関係が複雑に交錯していたのか訴訟沙汰になりました。恐らく、一端決着が付いた?と思われる2007年頃にSebor氏の遺産はバラバラになってしまったのは前述の通りです。今だに「我こそ真の後継者」的な発言が見受けられますが、法的な根拠以外の点で決着が付く日がくるのでしょうか・・・

・近年、Kyle James Bairnsfather氏が「Krasna Lipa Sebor Distillery」の名義を正式に引き継いだ様です。順当な所に落ち着いてよかったですね。今まで「Sebor Absinth TM Limited」用に生産(下記)していた“Martin Sebor original(現 Sebor Absinthe)”を自社取り扱いにし、“Krasna Lipa”の再生産も始まっていました。Sebor氏のボトルとどのような味の違いがあるのか?実に興味深いところです。

 

・“Krasna Lipa”はセブロ氏の魂とも云える初銘柄で、オリジナル“Sebor Strong”と共に最初にリリース(1998年)された記念すべき初の本格ボヘミアンでもあります。この時点でマイクロ・フィルターと冷却濾過による浸透法で造っていました。チェコ的な美意識を基に調和感をも実現した、原点とも言えるカリスマ的な銘柄です。ラベル・デザインも正にドメスティック!多くの銘柄を体験してきた方にこそ試して頂きたい個性的かつ特別なアブサンです。( Maceration/55度/8,5ppm/,終売品★★★

Seborはイギリス市場を前提とした輸出用バージョンで、通称Sebor Exportと呼ばれていました。現行Sebor original(現 Sebor Absinthe)”のオリジナルです。つまり、orijinal のオリジナルなんですね・・ニガヨモギとアニスを強めに処方した“Krasna Lipa”のインパクト版。バランスが崩れていないのは、さすがはSebor氏です。“Hill's”を凌しのぐ「ついに来たぁ!チェコの本物!」として ロンドンの夜を炎上させました。超稀少品・・( Maceration/60度/10ppm/終売品★★★★

)“Sebor““Martin Sebor original(現 Sebor Absinthe)””と名を変え、商標権を獲得していたイギリスのディストリビューターSebor Absinth TM Limited」にて販売されていました。製造元は直系のBairnsfather Familyでしたが、全く同じ外見なのでweb画像などではトンと見分けが付きません。ボトル横側面の刻印とラベル表記の一部が違う位です。そして、当店に在庫してある“Sebor”はSebor氏本人の手で造られた稀少すぎる遺品、つまり、本物!です。Sebor氏によるアブサンは微少ながらもタンク在庫や問屋在庫が残っていたそうで、死後数年は極一部で流通していた様です。“Krasna Lipa”、“Have`s Alpen” と共にドイツのコレクターから入手しましが、「This was my last on stock」・・恐らく、入手が可能だった世界最後の一本?手にできたのは幸運としか言いようがありません。Ulrichさん、ありがとう!注文を頂いても封を開ける勇気があるのでしょうか?自信が無〜い・・・

・“Sebor”はマリリン・マンソンの愛飲酒としても知られていました。そう言えば、ジョニー・ディップをアブ友に引き入れた黙示録系パーティーが話題になりましたね。世紀末最終日2000年の大晦日に行われ、「千年王国」の終焉により何かとてつもない事が起こる!って感じの集つどいだったそうです。でも、千じゃなくて二千じゃん・・・なんてヤボは言いっこなしですよ。右二枚の写真は“Sebor "にLove波動を発信するマンソン君・・です。想いが昂こうじて自分名義のMansinthe”なるアブサンもリリースしちゃいました。スイスの名人Matter Olive氏に依頼しただけあって最高のブツなんですが、自筆のイラスト・ラベル(左)がイマイチで残念・・・・『When I get old 』と言うタイトルです。現代のトリック・スターが意外と誠実な内面を伺わせる絵で本人の好感度はUPですけど・・・・

      

Havel`s distribution / Krasna Lipa Sebor Distillery  Sebor氏が外部の依頼で処方/企画した別ライン。プラハの「Presidents Group,s,r,o」が依頼元で、流通を「Havel's Distribution」が手がけた様です。Sebor氏が亡くなられた為に短期間のみのリリースでした。バリエーション展開が派手だった事から、本格的な海外戦略を試みようとしていた事が推測されます。

×1)2)

Havel`s(1)は入手できませんでした。標準銘柄だけに残念!ニガヨモギの味わいに重心を置き、程良いアニスと強めのフェンネルが際どいバランスで支える感じに仕上げてあるそうです。(Maceration/60度/終売品/不在★★★★

Havel`s Alpen(2)は当店ラインナップの中でも超珍品。スイスでの製造が違法だった頃にもかかわらずLa Bleueを意識した商品をリースしていたんですね。無色透明のアブサンを造る為か、Sebor銘柄の中でも唯一蒸留法によるアブサンという点は特筆すべき点でしょう。スイスの密造者達へ突きつけた早すぎる挑戦状?歴史の狭間に燐りんと咲いた異形いぎょうの花です。(Distilled/60度/終売品★★★

「Particularly regrettable is the loss of this “Have`s Alpen”, The first genuine Absinthe from the Czech Republic.(Jochen Zohner / Absinth Bibe)(“Have`s Alpen”が失われた事は残念でならない。これこそがチェコ初の正統派アブサンだ。)


××× ×

・ “Havel's Anniversary-bottles”は“Havel`s”の3,2g!蛇口付巨大ボトルです。前代未聞のアイディアで、使用後はファウンテンにも・・・他のバリエーションからも様々な販売戦略を考えていた事が伺えますね。左から二番目は輸出に便利な小容量でプレゼントにぴったりの200ml位の飾り台付。ミニチェア陶器(Porcelaine)の100mlもありました(Maceration/60度/終売品/不在)

・“Havel 's Gold(右)こそマニア垂涎!Sebro氏の遺言状とも言えるボヘミアン・スターです。死の直前に1〜2バッジのみ蒸留され<チェコ・アブサンの頂点>と賞賛されました。恐らく100本程度しか世に出なかったと云われる超稀少品・・・・ボトルの形も平たいセブロ瓶ではなく新デザインで、特別な銘柄だった事が伺えます。写真では植物が浸透されている様に見えます。web中を彷徨さまよい歩いても、この画像しか発見できませんでした。(Maceration/60度/終売品/不在)

・上記の銘柄と同時進行で企画されていた“Excelsior”に至っては、世に出る事もなく終ってしまいます。(?/?度/この世に不在)

・ Least Bitter is the Strong Sebor Which, however, almost happened to sound a bit thin. The Krasna Lipa is already full of flavor, yet little bitter, with a little anise. The Sebor is slightly bitter , with a little more anise, and the Havel 's is identical in terms of wormwood macerate , with more alcohol and more anise. The Havel 's Alpen could be a distilled version of the Havel 's be a better version of the Versinthe Blanche represents , in one due to the lack of bitterness a little mint and anise and a little too weak Wormwood distillate taste gets . The Havel 's Gold is again a bit bitter than the Sebor With more anise , which comes across very smoothly. The Bairnsfather is a cross between a more moderate Havel 's Gold and Krasna Lipa , Ie, with less than Anis Havel 's Gold and still quite round , and the Bairnsfather Bitter is pumped full of so miserably with the macerate that he is under all the taste , to pay just about the thujone faithful tribute. (Jochen Zohner / Absinth Bibe)

<Sebor系リキュール> アブサン革命以前からリリースしていたリキュール類も、今では僅かな市場在庫のみで入手が超困難になってきました。(1)は “LUZICKA BYLINNA”という複合ハーブ系で、アンジェリカ、リンドウ、コリアンダー、マジョラム、カモミール、そして、なんとニガヨモギ!が使われています。アニス、フェンネル抜きとは言えアブサンに極めて近い処方で、“リパ”の前身か?1787年に遺された J. Archleb という同国人のレシピを再現し、石の樽?を使って造られているそうです。(2)は高級サナトリウム専用の特注ハーブ系薬用酒“Darkovska Lazenska Bylinna”。成分に関しての記述は無く薬用に振り切った処方かと思われます。記載されている1867という年号は、この <Lazn? Darkov> という施設の創設年の様です。色が濃い〜ですね。(3)はアーモンドの色素で紫色?に染まっているアマレット・・・ちなみにアーモンドの花も紫色です。画像をよく見ると中身の色にムラが?(4)は、なんと高麗ニンジン!を漬け込んだ珍品漢方リキュールの“Zen Sen Vodka”。攻めてる姿勢を感じさせます。(5)は普通にココナッツです。全体的にノスタルジックな雰囲気を持っていますね・・(2、4)以外のラベルは“リパ”と共通するデザインでバーコードも無く、ドメスティックな正規シリーズの様です。現地で探してもらいましたが(4,5)は全然見つからないそうです。(1、2、3)は入手に成功して在庫がありますので、お試し頂けますよ・・・(Maceration/40度、38度、25度/終売品/(4)(5)は不在)

1)2)3)×4)×5)

Bairnsfather Family Distillery s.r.o. Martin Sebor氏(〜2003年)の「Krasna Lipa Sebor Distillery」が前身で、死の直前にSebor氏の提案(Kyle氏談)で資本を分け合い共同経営者になったKyle James Bairnsfather氏の蒸留所。本人の記述によると、当初からSebor氏の相棒的存在だったそうです。死後の名義を巡る裁判が落ち着いた2006年、良い地下水とハーブに向いた土壌を求めて蒸留所を移転し、 「Bairnsfather Family Distillerry」 として独立しました。100%ナテュラル原料による高品質品のみを追求する姿勢を打ち出しています。Sebro氏の流儀だった「浸透法」こそがハーブの魅力を引き出すベストの方法であると主張し、蒸留法のデメリットを指摘しています。特定成分を逃さない特殊なフィルタリングや冷却濾過などの先進技術を駆使して「浸透法」の可能性を追求するKyle Bairnsfather氏の姿勢に注目です。Sebro氏との違いは高ツヨン指向くらいですか?しかし、Sebor銘柄の味わいを残している唯一の生産者なのは間違いありません。近年、長年の名義訴訟も一段落して 「Krasna Lipa Sebor Distillery」 を正式に引き継ぎ “Martin Sebor original(現 Sebor Absinthe)”と“ Krasna Lipa ”を生産しています。 (HP) 

・“Reality Bitter 60”は同社の最高級ライン。手摘みハーブの茎を除いて使い、完全手工による少量ラインで造られます。自然なクロロフィルの暗い緑色こそがSebro系の特徴で、裏ラベルにツヨン濃度は26〜28ppmと明記されるなど生産者の誠実な姿勢も伺えます。瓶の中にヒソップスが浸かってるのも目を引きますね。四種ある同社のアブサン・ラインの中では比較的アニス感が強め(他国品よりは全然少い)で、チェコの典型的な方向性の中でも特に輝きを放っている個性派アブサンです。本流とは異なるSebro系遺産最上位の味わいをお試し下さい。(Macerated /60度)

・左から、8ppmのレギュラー・ラインと、ニガヨモギ度の強い32〜35ppmの“Bitter”(この二つはノー・アニス)。後者に少量のアニスを加えて調和感を求めた上位の“Extra Anise Absinth bitter”、それを更に極めた少量手工品の“Reality Bitter 60”です。後者二種のラベルには別バージョンとして日本向け?仕様参照の“Reality 55”、“Reality Bitter 55”の2種がありますがハーブは入ってません。

・“Reality Bitter 60(1)の様に原材料をボトル内に漬け込むのはチェコ銘柄では良く使われる手法です。有名なKING OF SPIRITS”の「ニガヨモギ片が時間経過でツヨン濃度を上げる」とのアピールは特定の愛好家には効くんですね、きっと。“ Zelena Muza Panensky”(2)もニガヨモギ入りでイケイケなんですよ。“Metelka Naturelle”は杉の木の種を浸して独特の芳香を得ています。“Absinth 34(3)は可愛いらしい角ボトル。しかし、何と言っても目に付くのは最近リリースされた“ABSINTHE DEVIL(4)ですね・・名前もやる気満々ですが、主要三種ハーブが怪しげに生息?している様さまはオドロ気な雰囲気で気を引きますよ。ドコの酔狂が考えたんだよ?と思いきや、大御所「Cami Distillery」だったのには驚きました。そんな子じゃないって思ってたのに・・・でも、“Absinth Beetle(5)まで行くとチョッとやりすぎ・・・ニューギニア産の昆虫 "tree-lobsters" が持つ神秘の力ですか・・・あっ!やっぱ“KING OF SPIRITS”と同じ生産者じゃん・・・絶対そんな子だろうって思ってたよ!この人達、アブサンじゃないけど、“Worm Spirit(6)なんてのも出してる!しかも、「・・the best thing for partying.」なんてほざいてますぜ・・・17匹のブラジル産イモ虫君達がビン底でのたくってます。例のメスカルにヒントを得た(得るなよ!)そうな・・・とっても素敵な瓶詰め風景を見ずにはいられない方はコチラをクリック!

1)2)3)4)5)6)

 

Ales Mikulu-Cami 1866年創業の歴史あるリキュール・メーカーで、Sebor氏亡き後のチェコNo1生産者です。中世の城で有名な南ボヘミアのドブロニッツェ(Dobronice)にて操業してきました。全ての製品に無添加の完全ナテュラルを宣言している小規模手工生産のハイクオリティー・メーカー。ドメスティック・ラインの“Cami”シリ-ズ、フランス的処方で評価軸を引き寄せるのに成功した“Toulouse Lautrec”シリーズ、そのバリエーション的銘柄 “ Sinopale(11)”、“L`exceptionne(12)”、対外向けの決定版的看板銘柄?として絞り込んだ処方の“Hieronimus Bosch Temptation”2種(13,14)、?と思わせる上記のABSINTHE DEVIL”など多彩なラインナップ。2010年5月、首都プラハ(Prague)に販売窓口を進出させたそうです。(HP

<オリジナル Cami シリーズ> チェコ的な美意識を前面に押し出した“Cami”シリ-ズの存在感は突出しています。しかし、ここ数年の実験成果と云える6種ものバリエーションがあるため、それぞれの違いが見えづら〜い!こんなに微妙で模索的なシリーズは他に例がなく、ワンポットのロット数が500mlボトル220本の少量生産だから可能なんでしょうか?全体的にはアニスが極端に少なめで強ツヨン傾向がモロ出しですね。最終工程では色付け効果だけのハーブ(ホウレンソウ、イラ草など)は使わない方針らしく、全てが良く見ないと分からない位の極薄い緑色です。(5)に関しては“L'extrait de fee Absinthe”と“L'extrait de la fee Absinthe”と、二種の銘柄表記ラベルが見受けられます。フランス語の文法を間違えたんですかね?初期の(1)〜(3)と後発の(4)〜(6)ではデザインが異なり、後者の方は積極的な戦略銘柄です。

<ツヨン最高濃度銘柄> 特に“Song Vert Absinth (4)”、“L'extrait de la fee Absinthe (5)”は最強ツヨン濃度を指向した処方だそうで、精細すぎるデータでアピールしてますね。ライバル銘柄のツヨン測定も行っており、平均が31,8ppmだったそうです。しかし、34,074ppmなんて数値が二つの銘柄で偶然に一致する事など有り得ません。ニガヨモギだけの分別蒸留をベースにしたバリエーションかもしれません。それにしても、このシリーズの全てが66度なのは実験的企画としての共通要素(座標軸)が必要だからでしょうか?又は、プチ・クローリー的な呪数字?

1)1')2)3)4)5)5')6)

銘柄名
ツヨン
アニス
在庫
(1)
Absinth
66度
6ppm
 初の“Cami”・・初銘柄ならではの迷いが生み出す、得がたいニュアンスが・・
×
(2)
Absinth Gottesauge
66度
30ppm
極少
 フレンチ・レシピのボヘミアン的解釈、複雑な味わいで意外な拾い物?
×
(3)
Absinth Tempel
66度
30ppm
 典型的なボヘミアンを味わうならコレ!ロックで・・・
(4)
Song Vert Absinth
66度
34,074ppm
極少
 最強ツヨンをアニス風味が柔らかく包み込むスムーズな調和感。 
×
(5)
L'extrait de (la) fee Absinthe
66度
34,074ppm
多少
 最強ツヨンをアニス風味がグッと押し出す処方。暴れん坊将軍。 
(6)
Cami's Gold Absinth
66度
30ppm
 ミンティーな鮮烈さ。Camiの新境地か?勝負アブサンか?ん、1866年レシピとな ?

Gottesauge(God's Eye)、Song Vert(Green Dream)、L'extrait de la fee(Extract of the fairy)という意味です。

<評価> 「これぞボヘミアン!」って感じの銘柄達ですが、当然の様に対外的な評価は高くありません。ほとんどのアブサンフォーラムや評価サイトではスイス/フランス系主流派のラテン的価値観が基準になるので、ゲルマン系の傍流?は絶望的にポイントが低いのは仕方ないんです。低価格帯のHill's的チェコ物では100点中7点の銘柄があったりもしますから・・・ソバ評価サイトにウドンが紛れ込んで、「麺が太すぎる!」とか、「ソバ粉の香りに乏しい・・」とか言われてるみたいで全く参考になりませんね。アニスに関心がない事からも分かるように清涼感を求める対象ではない様で、飲み方に関してもストレートやロックの方が向いている様な気がします。寒い地域ですからね・・・・あっ、火を付ける手法が生み出されたのは暖をとるため?まさかね・・・・

<?謎?> “Cami”シリ-ズのボトルがSebor銘柄に使われていた「Sebor Bottle」にクリソツすぎて気になっていました。造り方や美意識は異なりますが、ここまで類似したボトルは意図的としか思えません。Sebor氏への共感をアピールしてる?又は、Sebor銘柄のカリスマ性に肖あやかりたい?謎です・・そこで、チェコ・アブサンの専門家として有名なUlrich Hosse氏に質問したら「 The bottles from Cami distillery are a little bit different to the Sebors... Cami`s are brown also... Cami and Sebor are totally different. They did never speak together too...」との返事です。Ulrich Hosse氏は「Cami」のアドバイザーで、Sebor信者でもあるので信憑性の高い返答です。う〜ん、なるほど、a little bit different なんだ・・・しかし、実際に比べて、この目で a little bit な部分を確認しなくい事には気が済まんですよ・・・つまり、“Cami”を購入する必然性が生じてしまいました。迷える子羊の私としては、神の思おぼし召しには逆らえません。謹つつしんで購入計画を立てさせて頂きました・・・

 

・と言う訳で、手元に届いた“Cami”と「Sebor Bottle」を比べるて見ると・・・・形どころかプレスの時にできる小さなデッパリまでも同じ・・つまり、同じ雄型から起こしてるんですね・・・違いは、エンボス(浮き彫り刻印)のみでした。Sebor銘柄のビンには右側面に蒸留所のシンボル・マークと『Likerka Martin Sboru Rumburk』、左側面に『Sdruzeni pro vyrobu a odbyt likeru 』とありますが、“Cami”はエンボスは全くありません。しかし、それ以外の点ではキャップの細かい形状を含めて全く同じ。Ulrich Hosse氏は「Cami`s are brown also... 」と言っていましたが、“Krasna Lipa”の前身では?と思っているSebor銘柄のハーブ酒 “LUZICKA BYLINNA” と同色です。 a little bit な違いとはエンボスの事なんですね。何故、“Cami”が 「Sebor Bottle」と同じ雄型を使っているのかは謎のまんまですが、どちらかと言うと心情的な動機ではないかと想像しています。

7)8)9)10)  11)12)

<Toulouse Lautrec シリーズ (7〜10) > 上記の様な評価を打開する為かフランス的な処方の別ラインをリリースし、この方向性の初鞭をつけました。画家ロートレックからの命名由来。“Cami”が面的バリエーション展開なのに対して、洗練を目指した線的な展開で徐々にバージョン・アップした四銘柄です。白濁が弱めで味わいにも迷いが感じられて面白い“Classique/Qualite Extra Superieure(7)”、やや苦めで白濁が増した二番手の“Deuxieme Edition(8) ”、「遂に本格的味わい(=フランス風)を成し遂げた!」と話題を呼んだ“Christmas Edition(9)”、(8)から色づけ用ハーブを除いたスイス指向の “La bleue extra superieure(10)”で、最初の(7)のみが霊数68度で他は何故か62度に・・特に(9)は各フォーラムやレビューでも歴代チェコ銘柄では最高ポイントを取るなど対外的な評価も上々で、技術的にも高いレベルにある事を証明しました。ドメスティックなボヘミアン・テイストを保持した国内向けと主流派を意識した対外向けの二本立てとは、頭脳的で妥当な戦略ですね。

・この銘柄はモロに試験版から発展した様で、流通し初めた当初の8ヶ月間は “Cami's La France”の名称で取り扱われていたそうです。つまり、確信犯的な企画では無かったんですね。最初は(11)などと同じ太いボトルでしたが、評価が定まってからはシリーズ全て(1〜4)が細いボトルになりました。でも、ラベル一番下の文字列が違うだけなので見分けづらいよ!融通が利くと言うか、行き当たりばったりというか、小さい会社なので柔軟性があるのは確かな様です。今では珍しくもないフレンチ・タイプ・ボヘミアンですが、当初は海のものとも山の物とも分からない無謀?かつ果敢?な社運を賭けたチャレンジだったのでしょう・・・

Henri de Toulouse-Lautrec / アンリ・ド・トゥルーズ=ロートレックは、ベル・エポックのパリをムーラン・ルージュのポスターなどで彩った有名な画家で、ゴッホとの親交でも知られています。大のアブサン好きで、ブランデーに混ぜて飲んでいたらしいですよ。下の写真(1885年頃)は友人とアブサンを楽しむ姿、幼い頃の疾患で発育不全だった下半身が良く分かります。10数年程前でしたが、「ロートレックがデザインしたアブサン・スプーンが発見された!」という衝撃的ニュースが業界の話題をさらった事がありました。諸説が飛び交い熱い議論を呼びましたが、本当に彼がデザインしたスプーンなのかは決着がついていません。完全には否定できない、でも割と胡散うさん臭い感じらしいです参照。もちろん、このスプーンのレプリカは購入可能で、当店にもあります・・・

    

<シトラス・シリーズ (11/12) > そして、<Toulouse Lautrec シリーズ>が明確に対外向けへ発展したライン?が“Sinopale(11)”、 “ L`exceptionne(12)”、です。sin opale=the opaleという造語らしく、乳白色の宝石オパールに例えているんでしょうか?割水した時の白濁色や香りを重視した方向性で、より清涼感を増すためにシトラス系を加えています。酒類を水で割る事が少ない寒冷地域の習慣をスポイルした、もろ外向けのコンセプトですね。L`exceptionneの方は<傑出した例外>という意味の造語らしく、ハーブ数を増やして前者の特徴をより強調した処方の様です。

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<Hieronymus Bosch Temptation シリーズ (13/14) > 上記“Toulouse Lautrec”の成功と<シトラス・シリーズ>の実験で目処めどが付いたのか、最新銘柄“Hieronymus Bosch Temptation”では分かり易く絞り込んだ“Verte”(13)と“La Bleue”(14)の二種がリリースされました。ここ数年に及ぶ試行の結論とも言える対外向けの決定版!「Hieronymus Bosch Temptation Absinthes are actually one of the best in the world... (Ulrich Hosse)」なるアジテーションも寄せられており、体勢が整った感じです。個人的にはドメスティックな“Cami”シリ-ズのラインが細くならない事を願いたいです。

Hieronymus Bosch / ヒエロニムス・ボッシュはルネッサンス期オランダの宗教画家です。ヨーロッパ各地からの依頼で多くの絵を描きましたが、宗教改革の偶像破壊による損失で30点ほどの作品しか残っていません。資料も乏しく謎の多い人です。最初期のシュールレアリストとも云える幻想的な世界観を示した特異な画家で、歴史的なサイケデリア(幻視者)として圧倒的な存在。

  

<Extra Strong シリーズ (15/16) > 2011年春に登場したハイ・プルーフのシリーズで、共に89,8度のアルコール度数を誇ります。次々に撃って来ますね・・・この度数のアブサンは今までもリリースされていましたが、非真性アブサンやスペインのエッセンス系でした。このシリーズは微妙な盲点を突いてます。“ Absinthe Karmagiddon (15)”は、本格的な蒸留法によるアブサンとしては最高アルコール濃度で、ある種の価値観を持った人たちには堪らん魅力でしょう。ラベルの写真も「オ、ビビッてないで来いよ・・・」って感じです。“Absinthe Gothicsinth (16)”の方は、この高濃度にしてブラック・アブサンという突出した個性が光ります。裏ラベルには「This Absinthe is the ideal beverage for the Goth scene are deep black,」とあり、ドイツなどでの盛り上がりが衰えないゴス・シーンを意識してるんですね。ラベルも雰囲気出してます。しかも、加水すると怪しげな赤黒い濁りを見せるそうで、パフォーマンスもダーク系クラブのイメージにピッタリな感じ。両者とも、Camiが得意のとする市場最高ツヨン濃度という最後のダメ押しまで用意していて、夜の街を彷徨さまよう人恋しい若者達には人気を博すのでしょう・・・

<ドイツ>

<ドイツは密造アブサン先進国?> 1923年からの規制によりアブサンの供給が途絶えてから、ハーブ大国でもあるドイツの愛好家達の自家製造(密造)が盛んになりました。それらのアブサンは< Hausgemacht (Honemade) >と呼ばれ、個人消費レベルでは連綿と作り続けられてきたそうです。小規模自家製造ではハーブの自由な選択や蒸留ごとの試行が容易になり、個人的な発想を実現化できます。つまり、本来の意味でアブサン密造の先進国だったんですね。ライバル国は皆無に近く、特殊な歴史に縛られ狭い地域で継承されたスイスとも事情は異なります。広い地域における各自の処方は洗練され、多くの優れたバリエーションが確立していたであろう事は容易に推測できますね。後述の歴史的とも言えるコンテストで競い合った処方は、長年作り続けてきた自慢の<俺レシピ>だったのでしょうか。

・ ドイツのディープなアブサニスト達が集まる、<Guide.de>という情報サイトがあります。そのフォーラムでの度重たびかさなるデスカッションの結果、「現時点(2006年)、ドイツ製アブサンのほとんどが賛するに値しない」というシリアスな結論に達しました。この事がキッカケになり、意識を高める目的でアブサン研究・処方のコンテストが行われたそうで、ドイツ人らしい発想ですね。入賞したレシピは小ロット(30g)ながら実際に蒸留されて会員に配布されました。その成果は世界に認められてリリース要望が相次いだ結果、蒸留作業を請け負った「Eichelberger Distillery (どんぐりの森蒸留所)」にて商品化されるに至っています。

・コンテストの目的は大きな成果をあげた様で、その後のドイツ・アブサンは目覚しい品質向上を遂げました。“Eichelberger”、“Neuzeller-Klosterbrennerei”などの高級銘柄も注目ですが 、世界でも有数のショップ<ALANDIA>が“Eichelbergerに依頼して繰り出してきたオリジナル商品の展開は凄まじく、ドイツ・アブサン業界の存在感は大きくなってきています。しかし、そんな状況とは裏腹に非常に微妙なスタンスの流通会社などもあり、ドイツがアブサン業界のスウィート・スポットになりつつある様な気もします。

・一方、商業的なドイツ・アブサンも普通に販売していますが、ほとんどがエッセンス法で作られる普及品です。そんな中でも、香水瓶みたいなボトルで高級品?と勘違いを誘う“Abtshof”と変則技なしの“Tabu/Felix Rauter”が一般的らしく良く見かけるそうです。他では多くの銘柄をリリースしている“Ulex”も名が通っていて、エッセンス法と浸透法の併用で一枚上手?本格的な蒸留法によるアブサンとなると“Eichelberger”か“Neuzeller-Klosterbrennerei”の二つに絞られる様で、「ドイツ銘柄で迷ったら、どちらかにすれば間違いないよ」とのアドバイスもありました。

1)2) 3)

1)“Ulex Strong”の装丁は、紫外線による味の劣化を防ぐ為のユニークな紙巻ラベルです。スタンダード“Ulex”の35ppm強ツヨン版で、ニガヨモギ特有のキック感に拘こだわるウーレックス社が、その真骨頂を見せてくれました。「It has a bitter, but very good and effective taste.」 主流のフランス・スイス系を崇める人には縁の無い価値観がココに・・・1795年に創業した生産者の家伝レシピです。(Mixed & Macerated/70度)

2)“Tabu Red”はドイツの赤いアブサンです。加水により淡いピンク色に濁った様は可愛らしく、立ち上のぼるフルーティな芳香と相まって癒し系の優しい感じなのに、ラベルは怒った人(神?)の怖い顔なんですね・・・加えられたオレンジピールの特徴が爽やかに感じられる、親しみ易いニュージャンルの代表です。何故か、ハーブリキュール王国イタリアでの人気がスゴイそうですよ。(Mixed & Macerated/55度 )

3)“ Eichelberger Limitee Verte 68 ”が登場した由来については下の記述の通りです。コンテストの最優秀銘柄こそが Michal Weinzierl (Deep Forest)氏のレシピでした。独特のシトラス感を伴うハーブ使いや乾燥していない生のハーブを使う生産効率無視の特殊な造り方。小さな30gの蒸留器で丁寧に作られた本当にスペシャルな手工限定銘柄です。ドイツからの新しい潮流・・・(Distilled /68度

LogisticX GmbH & Co.KG最近話題の企画/流通会社で、ブニヨン氏に依頼した<宝石シリーズ/ Diamond Line>の“Sapphireサファイア”と“Opalineオパール”で知られています。これらの銘柄はスイス産ですがドイツならでは?のコンセプトのアブサンとしてドイツ項にも入れました。そして、“Sapphire”がツヨン過多で流通禁止になった矢先、2010年の<アブサンティアーデ>で金賞を取った問題作がブレンド・アブサン“Maldoror”です。ドイツ・アブサン界の裏番長とも云える代表者Hans-Peter Fuss氏の意向が強く反映した銘柄なのは確かな様で、ブレンド元に“Sapphire”を使用しているらしいのは予定通りなのでしょうか?<ALANDIA>やブニヨン氏には直接の被害が及ばない枠を設定して、際どいコンセプトにトライしている様にも感じられます。(HP

・HPの企画受注ページによると、貴婦人ラベルのAngelique”、マニアックな限定銘柄“Partisane”、<ALANDIA>名義の“Moulin Vert”などを手がけている様で、意外と実績のある会社なんですね・・2001年からアブサンの卸売業を営んでおり、14ヶ国から250銘柄を扱っているそうです。関連リンク先には有名な販売サイト「Absinthe 1001」や「Absinthe De」などが貼ってあり、ドイツ業界ネットワークにとっては実動隊な役割を担っている様ですね。

・しかし、当店在庫の“Angelique 72 No.2 Fortissimo”のドイツ経由現物を見てみると、製造元どころか流通者など法的に必要と思われる事項の記載が一切ありません。まるで非合法品みたい・・・裏ラベルが欠品しているのかと思いましたが、そんな痕跡もありません。その後、イギリス経由で入荷したAngelique 68 No.3 Appassionatoも同様でした。流通が極端に少ない点も???です。特に、後者は取り扱いサイトが二つしか見つかりません。少なくとも、健康優良児的な企業じゃないのは確かかと思います。

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・“Angelique 72 No.2 Fortissimo”は,日本でも正規販売されているAngelique 68 Verte Suisseの四つ前に出た最初の“Angelique”で、2007年6月にリリースされたブニヨン氏初の色付きアブサンです。最後の行程でハーブが2倍の量使われて芳香に富むだけでなく、苦味の押し出しも相当強く出ており、ブニヨン氏的方向性としては至高の味わいかと思います。インパクト重視の処方で複雑味や調和感には欠けるものの[ Full of harmony 、full of taste] で圧倒します。まさにFortissimoの名の通り<より力強い>クセ者・・ (Distilled /72度/画像は旧ボトルです)

・“Angelique 68 No.3 Appassionato”はフランスのフェンコン規制(2010年3月に解除)に対処したバージョンと思われます。68度ですしね・・当然ながらレシピも異なるせいか、苦味も押さえられて調和感も向上しました。とは言えインパクト性は充分で、その名の通り<情熱的>な味わい。上記銘柄との外観上の違いは首ラベルの表記、ラベル枠と封蝋の色くらいです。新ボトルは“Opalineオパール”と同じなんですね。 (Distilled /68度)

Opalineオパール”も完全にフランス・タイプで2008年に登場しましたす。次の“Sapphireサファイアと共に<宝石シリーズ/ Diamond Line>を成しているようですが、ラベル・イメージは共通しているのに中身の雰囲気に合わせたボトル形状を採用しており、銘柄自体の独立性が高い感じもします。在庫しておりませんので味の傾向は確認できませんが、ブニヨン系のインパクト・タイプと思われます。(Distilled /68度/不在)

Sapphireサファイア”はブニヨン氏のLa Bleueタイプ二番手ですが、2010年10月頃に流通制限をかけられた問題児です。規制を無視した高ツヨン濃度が発覚したそうで、噂では50ppmを超えていたとか・・・舌に残る妙なシビレ感・・・再登場するかは不明ですが、在庫がありますのでお試し頂けます。(Distilled /53度★★)

Sapphireサファイアの流通制限を知った時、いつでも入手できる銘柄だとナメていたので慌てて探しました。ほとんどの販売サイトではSold Out扱い・・・しかし、予想通りに非ユーロ圏の某サイトからはGetできました。あと、個人で運営しているドイツの某販売サイトが在庫を隠し持っていました。Sold Out・・・の表示があって、・・・が怪しい!と思って問い合わせたら、「取引実績があるから売ってもいいいよ」との事・・・つまり、大っぴらには販売できないって事です。しかし、何故か通常の配送業者を使えないので送料が高めになり、国際郵便為替で送金してくれとの事・・・そこまでする程の事じゃないので止めときました。

『This absinthe, whose character is grand wormwood driven, will utterly seduce you. Simply try and you will not be able to live without it ! 』

・ちなみに、届いたSapphireサファイアにはクロード・アラン・ブニヨン氏関係の記述は一切無く、事情を知らなければ関係性が分からない様になっています。ブニヨン氏のアブサン業界における名声を考慮すると販売戦略的には有り得ません。又、裏ラベルの中央部は大きな空白(下左)になってて何も印刷してない・・・これも不自然ですね。さらに、今時にしては珍しい<MAX THUJON>の文字が大フューチャーされている点なども例の感じがムンムンです。それにしても、処方調整後に再発されるのでしょうか?終売違法品として闇アイテム化する可能性もあります。

・でもでも、<宝石シリーズ/ Diamond Line>は超お洒落なんですよ。なんと!ラベル中央部に小さいサファイアやオパールがキラキラ輝いてるんですね・・・ゴージャスなサプライズ感にワクワク感上昇中・・・と言いたいところですが、駄菓子屋に売ってる指輪級のニセ物なのは一目瞭然で、チープなプラスティック感が無理やりムードを演出していて可愛いです。ちゃんと立体だし・・・

 

・ツヨン濃度に関しては貴婦人ラベルAngelique二種も確実に疑わしいです。前述しましたが、責任の所在が全く不明な状態で流通しており、常識的に考えると法的に問題があるのは確実と思います。味を試すと異様な苦味・・・ツヨン濃度が基準値を超えている可能性は大です。こんな商品を取り扱う勇気ある?業者が少ないのは当然で、眼に付きづらくてチェックを免れているだけなのかもしれません。

 

Maldoror”が栄誉あるゴールド・スプーンを得た時には賛否両論を呼びました。各国の既成アブサンをブレンドした銘柄だったからです。様々な情報を基にすると、スイス物は流通規制で行き場を失った“Sapphireサファイア、チェコ物は“Bairnsfather”と“Muse Verte”、フランス物は不明ですがPGだと思われます。確かに、色の感じにチェコっぽさが・・ドイツ物を使えない理由もなんとなくですが分かりますよね。反則技ですが、少なくとも<アブサンティアーデ>の審査員諸氏には受け入れられた味です・・・かつて無いチャレンジをお試し下さい。個人的にはMansintheや“Cami”と同じクローリー的なアルコール度数が気になるんですが・・・・(Distilled /66,6度)

・無論、既成アブサンのブレンドという手法はベル・エポック期にも行われていました。しかし、生産量を補う為の樽買いや同系列生産者同士で融通し合うなどが主で、目的が全く異なります。Maldororの場合、「世界観の異なる既成のアブサンを掛け合わせる」という通常では許されない方法論で、ブレンドという手法の可能性を無理やり広げたと言えます。特に、美意識が違いすぎるが故に評価が低いチェコ物を使っている点が興味深く、一筋縄ではいかない確信を感じるのは私だけでしょうか?似たもの同士を掛け合わせても意味がありませんからね・・って考えると、フランスの銘柄はアニス色が特徴のGかな・・

Maldororの銘柄名由来はフランスの破滅型詩人ロートレアモン伯爵( 自称/Le Comte de Lautreamont )の代表作 「マルドロールの歌」です。幼少時代をウルグアイで過ごした為か、フランス人としてのアイディンティティーを喪失した<Lost Man>だった様で、時代の深層から悪意と期待に満ちた呪詛を吐き散らして1870年に24歳の若さで世を去りました。二冊の散文詩集を残しましたが、過激で難解な内容が災いして出版に至るまで苦難の連続だったそうです。

・危うい精神の孤独なあがきが主人公マルドロールの変身譚にて描写されています。文学史上稀に見る深層意識からの生暖かい嘔吐物・・・自己愛と自己憎悪が絡み合い、終わりの無い螺旋ループで沈殿し続けます。妙なビート感を伴った脈絡の無い自動筆記的呟つぶやき・・・それは噛み合わないジグゾーパズルの様に積み重なり、嫌なシコリとして残るでしょう。私達にとって<心の闇の鎮魂歌>とも言える 「マルドロールの歌」は、永遠に乾かない深い傷跡の様なものです。滴したたり落ちる赤い血の輝きから、目を背そむけて生きるしか手はありません。

・ロートレアモン伯爵(自称)は無名の死を遂げますが、ヨーロッパ文学の地下水脈において読み継がれました。強い影響を受けた文学者としては、チルチルとミチルの「青い鳥」で有名なメーテルリンクなどがいます。<マルドロール>という黒いアイコンは20世紀初頭のアウトサイダーたちに強いインスピレーションを与え、特にシュールレアリズム文学には決定的な美意識を提示しました。今でも普遍的な影響を与え続け、ダークサイド・カルチャー(≠サブ・カルチャー)の住人にとっては必読の書です。

  

『すべての人が以下に続くページを読む事はよろしくない。幾人かの者だけがこの苦い果実を危険なく味わい得るだろう。』 (白水社/豊崎光一訳)

<オーストリア>

Fischer Distillery は1875年に創設されて以降、5代に渡って各種の蒸留酒を作り続けてきた古武者です。その高い技術力に目をつけた Wiener Schnaps Museum(ウイーン酒類博物館)の依頼を受け、新時代に向けたオーストリアン・アブサンをリリースしています。ゲルマン的銘柄の中でも異端児と言える“Mata Hari”。その妹分的存在でノー・アニス/ハイ・ツヨン(35ppm)/低アルコールで白濁しない新感覚の“Grune Fee (Green Fairy) ”、オーストリアン・ヴィンテージ・アブサンの味わい(Teutonic' style?)を再現して高い評価を得た“Montmartre”などがあり、徐々に名声を高めつつあります。“Montmartre”は、なんと分別蒸留らしいです・・ (HP

 

・“Mata Hari ”の名は有名な女スパイからの由来。ウイーンの名家に伝わる1881年のレシピが基になっているそうです。アニスを使用しないのに「Fischer Distillery」独特のハーブ使いで白濁!する上、ツヨン32ppmの高濃度!特徴的な強い苦味、それに纏まとわり付くハーブのエキゾティックなコンストラクション(構造)が無二の個性を放ちます。(Mixed & Macerated /60度

・主流派のスイス・フランス系とは異なるゲルマン的味わいで独特の存在感。しかし、主流派の愛好家達に受けが悪かった為か、新しいレシピによるセカンド・ヴァージョン(黒ビン)に変更されてしまいました。でも、なんとかギリギリで本来の味わいを持つ旧ボトルが間に合いました。

・上記の<ゲルマン的味わい>とは、アニスを使わないタイプと言い直す事もできます。チェコの“Cami”などに代表される、ノーアニスで高ツヨンのアブサン達が代表的。近似点は多いですが方向性は違い、“Mata Hari”の方は白濁するだけでなくミンティでフェンネルの支配度が強い傾向があります。同根ながら二系統に分かれたのでしょうか?

・アニスを使わない理由としては、地域的な嗜好性の違いが大きかったのでは?と考えられます。アニスの清涼感は温暖な地域人のラテン的嗜好ですから・・・当時のオーストリア=ハンガリー帝国はフランスと対立関係にあり、アニスの入手は難しかったという事情もありました。

・上右の写真は第一次世界大戦時に間諜(スパイ)として銃殺刑に処せられた、踊り子で高級娼婦のマタ・ハリです。敵国将校をコマして情報を引き出しました。しかし、さほどの大物ではなかったそうで、何らかの理由でスケープゴードにされた悲運の美女です。しかし、アニス抜きなのにいかがわしい動作(LOUCHE ACTION)を忘れないとは、さすがマタ・ハリ・・・です。

 

・“Montmartre”は、オーストリアの伝統的なレシピの再現版。本格的な蒸留法ですが、分別蒸留との噂もあります。ニガヨモギ、グリ−ン・アニス、フェンネル、コリアンダーの典型的なフレンチ・レシピに一癖も二癖もあるモデファイが加えられていた様ですが、特に目を惹くのは正統処方にリコリスを加わえる異例の配合・・・通常、グリ−ン・アニスとリコリスは併用しません。さらに、エキゾチックな芳香を演出するアンジェリカ、スパイシーな舌触りを生むシナモン、爽やかな清涼感を呼ぶオレンジ・ピール、などのアロマティックで奔放な要素が絡み合う独特の方向性。個人的にはアルゼンチン・タンゴから派生したウイーンのコンチネンタル・タンゴの様な強靭な地力を感じます。しかし、傍流系の銘柄としてはフォーラムの反応は良好で、高品位な味わいと刺激的な個性が高評価を得ました。ドイツでもチェコでもないオーストリアならではのゲルマン的美意識・・・強いフレーバーが印象的な異郷の本格アブサン。(Distilled/65度)

・蒸留所の古い金庫から発見された古い手書きレシピが基になっているそうです。本来はフランス由来の処方だった内容が、原材料の入手難度や嗜好性の違いを反映したウィーン風アブサンとして成立していったのかもしれません。再現に対する強い執念が特筆されている事からも平凡な処方ではなかった事が推測されます。

 

<ビンテージ・アブサン>

・貴重なヴィンテージ・アブサンも僅かながら流通しています。とは言え、禁止されていた時期に廃棄されたボトルがほとんどで、100年以上も前のベル・エポック期ボトルが出土する事は極めて稀な事件です。禁止後に60年代まで造られていたペルノー系スペイン物でも事情は変わらず、容易には購入できる訳ではありません。web上では売値が明記されない事も多く、メールでの遣り取りを経て取引されている様です。繊細な商品だけに販売する側がコミニケーションを望んでいるのかも知れませんが、シリアスなアンティーク商には珍しい事ではない様です。ヴィンテージ・アブサンの出土が報じられると即座にニュースとなり、市場に出たとたん瞬く間に購入されてしまいます。主要販売者のサイトにはSold Out の文字がオン・パレード・・・いったい誰が買ってるんでしょうか?

・ボトル一本の相場は最低でも300ユーロ位からで、それ以下の価格は見た事がないです。庶民には非現実的な値段ですね。ラベルがボロボロの出土品でも特に安くはありません。e-Bay に出たタラゴナが1442ユーロで落札されていましたが、極めて稀なr例です。でも、近ごろ急に増えてきた量り売り販売だったら「なんとか頑張れるかも」って思わせてくれますが、ボトルやラベルは諦めねばなりません。ヴィンテージのみならず通常のアブサンも量り売りしているサイトもあり、無菌室に近い状態で小瓶に詰めるそうです。当店で在庫しているビンテージは、国産品以外は当然この方法で入手しました。

<ビンテージ・アブサンの飲み方> 通常の現代アブサンは3〜5倍の加水が推奨されています。しかし、100年以上前のビンテージ物となると事情が異なる様ですね。ほとんどの古銘柄が2〜3倍加水で最高のパフォーマンスを演じるそうですが、ほんの少しでも水が多すぎると台無しになる事例が多発しているとか・・・フランスのベテランからこんなアドバイスをもらいました。『 If you add a little too much water it will become flat and loose all its strength. That's the key thing with most vintage absinthes, they are very fragile and can be easily over-watered.』 ビンテージ・アブサンは長年の瓶内熟成を経ています。加水時の希薄な状態を支えている鮮烈な芳香は、大きな整合感の中に取り込まれてしまうのでしょうか。そして、時を経た古酒だけが持つ、深遠な熟成味を演出する不思議な要素に変貌するのかもしれません。

・<ビンテージアブサン>ついての記述はこちらです。

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当店保有品の親元?になった現物達です。これらのボトルの中身が小分けされて届きました。

(1) “ヘルメス・58・黒ラベル・白栓” ・80年代に流通していたサントリー銘柄で、名品の誉れ高い黒ラベル最終版(二代目ver3)です。この頃までヨーロッパのツヨン規制に気付いてなかった?雰囲気が濃厚で、このボトルまではツヨン濃度が高かったのでは?と言われていますが噂に過ぎません。そんな細事よりも30年以上の瓶熟成による円やかな風味を楽しんで頂きたいと思います。現代アブサンでは味わえない緩く優しい味わい・・・デッド・ストックの稀少品ではありますが、わが国の銘柄につき手頃な価格に設定してあります。お気軽にどうぞ・・・。

(2) “ヘルメス・68・黒ラベル・金封” ・このボトルこそ30年近く続いたサントリー・黒ラベル・一代目で、我が国初にして最も評価の高い日本製本格アブサンです。ボトルの形状や色(緑瓶)、栓式、ラベル細部の違いなどが(1)との比較でお分かりになるでしょうか?ペルノー社タラゴナ工場(1965年停止)製アブサンの供給が途絶え始めた1962年7月に発売され、60年代末まで流通していたと推測されています。これ以降の黒ラベルはレシピが変更されて58度になりました。つまり、サントリー・アブサンでは唯一の68度モノです。(1)に対して出土率は比較にならないほど低く、オークションなどでも年に一本が出るか出ないか?という状況に・・・相場も上昇しつつあります。当店所有分も保管用一本のみでしたが、運よく二本目の入手に成功いたしました。海外マニアとの交換用という選択肢も頭をよぎりましたが、やはり皆さんに飲んで頂く方を選びましたので御注文可能です。50年近い瓶熟成を経た国産最高峰の味わいをお試し下さい。

・サントリーのアブサンについての精細及び検証はこちらです。

(3) “Pernod Fils Tarragona 60's” ・1915年のフランスでの禁制後、国内生産が不可能になった「ペルノー・フィルス社」は、スペイン・タラゴナにアブサン工場を進出させます。今も残るヴィンテージ・タラゴナ・アブサンの評価は高く「本家の味わいを継承する高品質のアブサン」とのコメントも少なくありません。この事から、禁止されていない国への輸出用高級アブサンを生産していたのだと思われます。イギリスはもとより、南米、南アなどの白人領有地が取り引き先だったのでしょうか?“Pernod Fils Tarragona ”は1936年から、アブサン需要が途絶えた1970年頃まで流通していました。当店にあるのは60年代、つまり最後期のタラゴナ産ペルノー・フィルスです。本流最後の輝きをお験し頂けます。

・”Pernod Fils Tarragona”についての精細及び検証はこちらです。

(4) “Pernod SA” ・ペルノー・フィルス社の創業者アンリ・ルイ・ペルノーの長男エドワードの銘柄「Edouard Pernod」は順調でした。禁止直前には第三位の生産量を誇り、品質も “Pernod Fils”、“A.Junod”、“Fritz Duval”のトップ3に次ぐとまで言われた程の高評価を得ています。禁止直前の1910年に操業停止、1912年にはタラゴナに「Pernod SA」を創設し輸出用アブサンの生産を再開します。時代の流れを睨んだ業務形態変更だったのでしょう。1936年に「Pernod Fils」に合併吸収されるまで操業しており、以降は”Pernod Fils Tarragona”を生産しました。つまり、当店にある ボトルは少なくとも1936年以前のボトリングだという事になります。様々な事情から、操業年数/知名度の割りには出土例の少ないレア品です。知る限りでは4本のみですが他には出ていない可能性も・・・ビンテージ・アブサンの扱い業者は限られており、著名銘柄の出土は何らかの形で記録に残っている事が多いです。この銘柄に関してはボトルから剥がしたエチケット(ラベル)画像すら出ていません。公に知られなかった例やこの世のどこかにヒッソリと眠っている未出土のボトルなどはあるかも知れませんが・・・品質に関しては上記と同様に保証付きで「現存する1900年前後の“Edouard Pernod ”を彷彿とさせる」と高評価を得ています。って言うか、スイスのニガヨモギを使って“Edouard Pernod ”のレシピで造ってるんで当然ですか・・・豊かな樽熟香と男性的な味わいが魅力で、「a nectar reserved to connoisseurs !」つまり「通が手放さない極上の一本」って言われてたんですよ。

・ The famous Edouard Pernod absinthe. One of the best vintage absinthe, here produced in Tarragona, Spain, in the 20's-30's, right after the Edouard Pernod move from ontarlier and the company purchase by Pernod SA. A superb amber color and a delicious woody taste, typical of the Edouard Pernod absinthes from before and after 1900, very masculine, a nectar reserved to connoisseurs !

・当店の在庫品は1920年代のボトルからの小分け品との事です。同時に出土したセラーの在庫管理リストの掲載ページの位置からの判断すると、初期の「Pernod SA」の可能性が高いらしいです。と言う訳で小瓶のラベルには「Edouard Prernod 1920」と書いてありました。今のところ3杯分が御提供可能です。

  
当店にあるヤツの現物コルク。あっ、小瓶もあったんですね!

・「Edouard Pernod」についての精細及び検証はこちらです。
・”Pernod SA”についての精細及び検証はこちらです。

(5) “C.F. BERGER blanche” ・非常にミステリアスなボトルです。何故なら、1900年代末のボトリングと推測されているのに無色透明の blanche だからです。ベル・エポック期には色付きアブサン以外の概念は皆無に等しく、<酸素系アブサン>くらいにしか blanche の存在根拠はありませんでした。しかも、ワイン・スピリッツを使用している事から高級アブサンの生産者由来なのは確実で、ラベルは「C.F. BERGER」ときたもんだ!さらに、出土地が「C.F. BERGER」と同じクーヴェ村の古いワイン・セラー・・・由緒正しい謎のボトルなんですね。様々な推測が成立し得ますが、世界に一本の博物館クラスなのは間違いありません。「なんでそんなレア品がドギーにあるの?」ですか・・・<謎の物件>過ぎて皆が迷ってる隙をついて購入する決意をした!からなんですよ。私が注文を成立させた次の瞬間、Sold Out の文字が現れました。60mlの小瓶で10個の販売だったんですが、最後の一個だったんですね・・・

・複雑ながらも調和のとれた強靭なアロマ、コリアンダーの要素が強いフレンチよりの味わい、ウッディで長い余韻、とのテイスティング結果。この稀なる blanche は一杯のみで終売です。もうお分かりの様に、今後出土する可能性は無いでしょうから・・・

・ A mysterious clear absinthe bottle discovered in Switzerland near Couvet, in a very old cellar previously owned by a wine merchant who made his pile from the alcohol business, hence a well supplied cellar with very old and renown wines, champagnes and spirits.
 No wax or foil, but the cork is eaten away and in a "V" shape, like on all 1900 absinthe bottles. The opinions after tasting it are unanimous: an exceptional absinthe, of which you can't even tell if it's a 'blanche' or a 'verte' because of its high complexity, balance and aromas strength, notably from the wormwood, anise and coriander. It also has a very woody aftertaste, indicating the ageing of a wine alcohol base, so not coming from a Swiss clandestine absinthe but from a large distillery, C.F. Berger for instance? This famous distillery established in Couvet just close to where the bottle was discovered? What a coincidence... An incredible surprise for the taste buds!

・「C.F. BERGER blanche」についての精細及び検証はこちらです。

・な、な、なんと!とあるお客様に御要望頂いて早くも終売です・・・

・上記、三銘柄は稀少な品で、おいそれと再入手出来る訳ではありません。心から求めるアブサン愛好家のために、少し無理して安価(つっても高いですが)に設定しております。法外な値段だと思われる方は問題外ですが、真偽に疑問を持たれる方、お金に余裕があり興味半分or面白半分に御注文なさる方、お連れさんの気を引きたいだけの方、などにはお出し出来ません。「一番高い酒くれっ!」つってもダメですよ・・・。

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< Pernod Fils Tarragona > 最もお目にかかる機会が多いビンテージ・アブサンは“Pernod Fils Tarragona(スペイン/タラゴナ・産のペルノー・アブサン)です。主要ヨーロッパ諸国で禁止された後もイギリス、アメリカ、カナダのみならず各国の植民地/領有国参照に居住する白人からの需要は多く、非禁止国スペインで輸出用として製造されていました。1936年〜1970年くらいまで流通していたそうです。日本へも輸入されていた事は各種の資料/カタログなどで確認できますが、第一次世界大戦以降に日本で飲まれていた舶来物アブサンの99%以上が中期以降の“Pernod Fils Tarragona”だったと思われます。

・“Pernod Fils Tarragona”は、「Pernod Fils」が買収(1936年)したタラゴナのEdouard Pernod系「Pernod S.A.」の工場で生産されました。この事は、“Pernod Fils Tarragona”ラベル下の文字列(下画像)に明記されています。輸出用の高級品として造られていたので品質的にも優秀で、現存するボトルのテイスティング評価も高いです。特に第一次世界大戦までの前期“Pernod Fils Tarragona”は禁止以前のレシピで造られており、ちょっと頑張れば味わえる「エポック期アブサン最後の輝き」とも言える貴重な存在です。

< 1912〜1936年 / Pernod S.A.期 > アブサンに対する社会的な圧力が強くなり生産者側の危機感もピークに達していた頃、スイス/クーヴェ村で「Edouard Pernod」を運営していていた Perre Pernod は決断を下しました。スイスで全面的に禁止された1910年に工場が停止した後、1912年にスペイン/タラゴナに「Pernod S.A.」を設立して“Pernod S.A.”をリリースします。「Edouard Pernod」はヨーロッパ以外にも大きな海外市場を持っており、その分を確保する為でした。同じ血筋(Edouard Pernodは御大Henri Louis Pernodの長男)とは言えフランス/ポンタリオの本家「Pernod Fils」社とは袂たもとを別っており、ペルノー家全体の方針とは無関係の独自展開だった様です。旧“Edouard Pernod”のレシピを使用し、男性的で力強い味わいが魅力。広告によるとニガヨモギはスイス産を使用していたそうです。(画像1)

・1930年に就任したジェネラル・マネージャーの Jose M. Banus (ホセ・M・ヌース)氏は1936年の吸収以降も1965年まで工場に在籍し、ラベルに名前が掲載され続けるほどの重要人物でした。この事は、“Pernod SA”の前期/後期、60年代“Pernod Fils Tarragona”の前期/後期、を判断する根拠になっています。名前から推測すると恐らくスペイン人ではないでしょうか?35年間も工場を取り仕切っており、この人が後のスパニッシュ・アブサン隆盛に影響を与えた可能性は大きいです。

・24年間も造られていたはずの“Pernod S.A.”ですがビンテージ市場で見かける事は異様に少ないです。分散しがちな輸出専用銘柄とは言え相当数を造っていたと思いますが、知る限りでは出土数5本にもなりません。恐らく、禁止直後の微妙な時期、スペイン内戦による国力の極端な低下、第一次世界大戦によるインフレと輸出先の弱体化、世界大恐慌(1929年)が引き起こした世界的大不況、そして何より最大需要国アメリカの禁酒法(1919〜33年)、など不利な要因が重なり過ぎたのかもしれません。銘柄名の違いによるブランド力の低下も考えられます。そして、アブサンの本場とは言い難い非禁止国の愛飲者達にとって、比較的入手が容易だった銘柄だったと思います。慎重な保管を心がける根拠も薄かったのでしょうか?

・銀座のバー「Y&M Bar KISLING」には“Pernod S.A.”のラベルが展示されている様です(参照。このお店は 「東京會舘」系の老舗名店「よ志だ」と「毛利バー」が合体?した一流店で、巷ちまたに蔓延まんえんしている <自称オーセンティック・バー> とは無関係の正真正銘の正統派バーです。文学/芸術家が闊歩かっぽしていた頃の銀座でシェイカーを振っていたベテランお二人の事ですから、実際に提供していたのでしょう。時系列的に正規輸入していたかは疑問ですが、昔の銀座バーの特別なルートは強力だったと思います。ちなみに、当店には全く普通のルートで小分け入手した数杯分がございますのでお試し頂けます。

1)2)   3)4)5)

< 1936〜1939年 / 前期 > ついに「Pernod Fils」による吸収合併が行われ“Pernod Fils Tarragona”が登場します。やはり、「Pernod S.A.」では輸出のみの運営が厳しかったのかもしれません。当然、この時点から旧“Pernod Fils”のレシピに変更されましたが、50年代からは戦後事情で大幅なマイナー・チェンジが余儀なくされます。つまり、禁止以前の“Pernod Fils”の味わいを楽しめるのはこの時期のボトルだけ・・たった3年間しか生産されてないんですね。最も貴重なタラゴナだと言えるでしょう。ボトル形状は“Pernod SA”から継承された様で、底もグイッと持ち上がっています。(画像3左)

・ちなみに「Pernod S.A.」が稼動していた時期はスペイン史上最大の政治混乱期で、買収された1936年にはフランコ将軍によるスペイン内戦が勃発しました。つまり、「終わりの始まり」であり「不安定な安定」の時期を迎えます。1938年の独裁政権樹立後は深刻なインフレ不況に悩まされ続けてきました。“Pernod Fils Tarragona”が存続した時期(1936〜70年頃)はフランコのファシズム的独裁期(1939〜75年)とはぼ一致しています。今の北朝鮮ほどではありませんでしたが、弱体化した上に国際社会から孤立していたフランコ政権は外貨獲得の為に長期に渡って輸出品への優遇措置を採っていたのかもしれません。

< 1939〜1945年 / 停止 > 第二次世界大戦により輸出が見込めなかったのか稼動停止。ちなみに、フランコ将軍はヒットラーの要請を蹴って中立の立場をとり参戦しませんでした。要請の時期が遅すぎた事や地理的な微妙な位置が要因と言われています。しかし、戦争特需とは無縁になった事から工業技術の進歩が遅れ、結果的に国力の低下を加速しました。

< 1950〜1960年頃 / 中期 > 戦後の荒廃した世界事情は中立国スペインの経済をも直撃し、前期“Pernod Fils Tarragona”の復活を許さなかった様です。ビンは戦時中に生産された物の流用なので色が薄くエンボスもありません。底面もフラットになっていますね。レシピも変更され、より清涼感のある味わいだそうです。ハーブの供給元も以前とは異なっており、ビンテージ市場で最も人気の薄い時期です。(画像3中央)

< 1960〜1970年頃 / 後期 > 最終期にはボトルのエンボスも復活(4)していますが、底面はフラットなママです。この時期にもレシピ変更があった様で50年代に比べると以前の味に近いとの事。最終期だけあって出土率も高くビンテージ市場でも良く見かけます。稀にですが出荷時の包装紙状態(5)のものまで出土する事もあります。工場が廃止された明確な年は不明(1965年説有力)ですが生産が停止された後も在庫が出切るまでは細々と流通していた様です。(画像3右) この時点で1805年から連綿と続いた Pernod et Filsのアブサン生産は終了しました。アブサンの歴史が終わったわけですが東洋の小国・日本においてサントリー・アブサンの生産が始まったのは調度この頃(1962年7月〜)です。

・後期“Pernod Fils Tarragona”は小分けで入手した数杯分がございますのでお試し頂けます。

・除々に軟化してきたフランコは「経済安定化計画 (1959年)」を打ち出し、独裁政権にありがちだった統制経済に終止符を打ちます。インフレ抑制、ペセタ(スペイン、アンドラの通貨)の交換性の回復、外国貿易の自由化、国内経済活動の自由化、などアッと驚くほど普通すぎる自由経済を目指しました。新たな経済政策は効を成し1965年から74年までの10年間で平均成長率6,3%を成し遂げ国民所得はほぼ倍増・・・「奇跡の成長」と呼ばれましたが、単に早くやれば良かったのに〜って感じですよね。(参照

・赤いアブサンでお馴染みの「Licores Sinc S.A.」の創業が1964年で、“Pernod Fils Tarragona”存続時にも今に連なるスペインのアブサン市場が存在していた事が分かります。又、当店のお勧め銘柄Philippe Lasallaは「スペイン内乱後に最初に復活したアブサン」として有名・・・つまり、最低でも1936年以前に複数のスパニッシュ・アブサンが存在していた事になります。

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アブサン Home

 

< Oxygenee >

     

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キニーネとはアカネ科のキナ()の樹皮から抽出したアルカロイドの一種です。マラリアに対してシャープな効き目を示す一方で、視覚異常、腎障害という強い副作用を有しており、医者から「一番頼りになる抗マラリア薬であり、かつ、一番使用したくない薬でもある。」と言われていました。

 

1887年に販売され始めた“キナ・リレ”というアペリティブ・ワインにはキナ成分が含有されていました。 ベルモットの一種で白ワインをベースにコニャックと数種の香草が配合されていたそうです。今や超幻のアイテムとして多くの人々が血眼ちまなこで探しています。その理由は、007シリーズ一作目の「カジノ・ロワイヤル(1953年)」に登場したボンド・マティーニ<ウィスパー>のレシピに、銘柄指定で使用されたからです。製造元のリレ(Lillet)社は小さな家族経営会社だったので当時でも少量のみの流通だった様です。(左ポスター)

・イギリス向けの “Lillet Dry (1920年)”、アメリカ向けの “Lillet Rouge (1962年)”などのヴァリエーションがリリースされました。後者は健在です。

・その後、1986年7月(ちょうど100年ですね!)にキナ成分が緩和された“リレ・ブラン(右)という銘柄に代わりました。甘味が強くなり味が変わったとは言え、“キナ・リレ”亡き後のボンド・ファンにとっては不動の必須アイテムです。2006年の映画化(2度目)で<ウィスパー>人気が再燃して“リレ・ブラン”の需要が大爆発。英国のスパイが「仏リキュール産業復活を後押しした」と騒がれる程でした。(右)

・“リレ・ブラン”はサントリーが輸入していたんですが、なんと人気復活直前の2005年に取り扱いを中止・・・あわてて再輸入を目論みましたが、そんな都合の良い話しを相手にしてくれる訳ないですね。従業員7人の小規模生産者なので海外でも相変わらず不足気味。と言う訳で、日本国内での入手は極めて困難な状態です。(って言うか、アブサンとは直接関係ない?話でしたね。でも、薬用酒としての側面を忘れないための小話だった、と言う事でお許し下さい・・)

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作品の中のアブサン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<映画>

・多羅尾伴内 十三の魔王(1958年) - 多羅尾伴内扮するインドの魔術師がバーで口に含んで火を吐く手品を披露する。
・いつかギラギラする日(1992年)−安岡力也演じる武器密売人が主人公の神埼(萩原健一)と共にアブサンを飲み交わす。「最後に〜」との台詞から、規制前の古酒、或いは密造品と推測される。

・プリティ・ベビー(1978年) - 娼婦館のマダムらが好んで飲んでいた。
・ガッチャ!(1985年) - 主人公のジョナサン(アンソニー・エドワーズ)がパリのカフェレストランでPernodをペルナードと英語読みし、ウェイターにペルノーと訂正される。その後、何故かウェイターの対応がぶっきらぼうになる。
・シェルタリング・スカイ(1990年) - レストランでペルノーを3人分注文している。
・ドラキュラ(1992年) - ゲイリー・オールドマンとウィノナ・ライダーの2人がロンドンのレストランで飲む
・インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア(1994年) - トム・クルーズ演じるレスタトがアヘン酒を飲んだ少年の血を飲み、(少年に)アブサンを飲ませたのかと訊ねる。
・太陽と月に背いて(1995年) - パリの文人が集う酒場などで詩人アルチュール・ランボー(レオナルド・ディカプリオ)とポール・ヴェルレーヌ(デヴィッド・シューリス)がたびたび飲んでいる
・ライアー(1997年) - ティム・ロス演じる主人公が愛飲している。
・ムーラン・ルージュ(2001年) - ボヘミアンの仲間入りをしたクリスチャンを歓迎する為にみんなで飲んだ。アブサンの妖精としてカイリー・ミノーグが登場。
・フロム・ヘル(2001年) - アヘンとアブサンを混ぜている場面がある。
・トリプルX(2002年) - 悪役がグリーンの液体を飲んでいた。
・ユーロ・トリップ(2004年) - 東欧を旅していたティーンエージャーが購入。
・ヴァン・ヘルシング(2004年) - ヴァン・ヘルシング自身がアブサンのボトルを持ち歩いている。

<文学>

・人間失格(1952年) - 喪失感の例えとして登場。

・誰がために鐘は鳴る - 第四章でロバート・ジョーダンが水に入れて飲んでいる。
・日はまた昇る - 第十八章でビルが飲んでいる。

<漫画>

・ポーの一族 - 「ピカデリー7時」の中でエドガーが訪ねた相手のポリスター卿が「アブサント酒がお好み」の趣味人として紹介されている。
・あぶさん(1973年) - 作品名はこの酒の名前が由来の一つ。
・正しい恋愛のススメ - 原田一樹を酒に例えた際に挙げられた。
・王様の仕立て屋〜サルト・フィニート〜 - 作中において、主人公(織部)が飲みアルコール度数の強さに顔を赤くするシーンがある。
・BARレモンハート - 「世界中の酒はすべておいてあり、当店に無い銘柄はない」旨を高らかに語ったマスターに、無いのを知っている常連(メガネさん)が「アブサン呑ませろ」と迫られた。悔しさのあまり(当時は販売されていなかった)店を数日間休業してヨーロッパに渡り探し歩いた。
・バーテンダー - Glass73「写る魂(後編)」(第10巻収録)において、アブサンとアブサンを使ったカクテル「午後の死」が登場する。

<Web>

・うみねこのなく頃に - 登場人物のひとり、右代宮金蔵が愛飲していた。
・ルーンの子供たち - デモニックのサブタイトルの頭文字をつなぎ合わせて出てくる。またジョシュアがアブサンについて語っている。

 

2008年アブサンティアーデ入賞銘柄 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<MACERATED CATEGORY>
1. Versinthe 45°
2. Ulex ordinaire 70°
3. Absinthe des Alpes 55°
4. Green Bohemian 55°

<DISTILLED CATEGORY - JURY N°1 >
1 - Fee XS Suisse 53°
2 - Doubs mystique 65°
3 - Angelique 68°
4 - Verte Maison du Pastis 60°
5 - Pernot 68° Blanche
6 - Libertine Blanche 58°
7 - Libertine 55°
8 - Libertine Amer 68°
9 - Blanche de Fougerolles 74°

<DISTILLED CATEGORY - JURY N°2 >
1 - Artemisia Clandestine 55°
2 - Fee XS Francaise 68°
3 - Francois Guy 45°
4 - Versinthe Blanche 57°
5 - Kubler 45°
6 - Duplais Blanche 68°
7 - Opaline 68°
8 - Charlotte 55°
9 - Verte de Fougerolles 72°
10 - Blanche Maison du Pastis
11 - Roquette 1797 75°